◆春琴抄 ~谷崎潤一郎
大阪・道修町の薬種商・鵙屋(もずや)の娘・琴は、9歳の時に失明したが、音曲の才にめぐまれ端麗な美女だった。4つ年上の奉公人・佐助は、琴が師匠のもとに通う際の手引き役を献身的に勤めるうち、みずからも琴から三弦の手ほどきを受け、琴にとってはなくてはならない相手となる。琴はやがて佐助と瓜二つの子を産んだが、佐助との関係を両親には強く否定する。子は里子に出され、琴は春琴と名乗って佐助と同棲し、音曲師匠としての生活に入る。佐助は春琴の弟子・使用人・恋人となり春琴のすべてに仕える。さる放蕩息子の求婚を強くはねつけた春琴は、ある夜、何者かに熱湯を浴びせられ、顔に火傷を負う。傷心の春琴をおもう佐助は、自分の眼を針で突き、再び春琴を視覚でとらえようとはしなかった。