返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 川島誠 » 正文

NR(ノーリターン)19

时间: 2018-09-30    进入日语论坛
核心提示:18 俺は、駅に向かって歩きながら、ドクターの言った言葉を振り返ってたの。 選択可能な過去なんていうのは、屁《へ》理屈の気
(单词翻译:双击或拖选)
 18
 
 
 俺は、駅に向かって歩きながら、ドクターの言った言葉を振り返ってたの。
 選択可能な過去なんていうのは、屁《へ》理屈の気がしたね。
 でしょ?
 俺が欲しいのは、たったひとつだけの、きっちりと確定した過去だ。本当の俺が生きてきた、事実としての過去。
 たぶんさ、あんなこと言い出したのは、あいつの、あのドクターの過去ってやつが、きっと、たいしていいもんじゃないんだろうな。
 だからね、自分が過去の選び直しをしたいのよ。間違いないって。
 それより、俺にとって大問題なのは、これからのこと。ドクターの説明だと、グラウンドであったような、変なことが起こり続ける。
 そんなもん、幼児のように楽しめって言われたって、全然、嬉しくないぜ。すげえ無責任な発言だ。だけど、あいつにしたら完全なひとごとなんだから、まあ、当然なのか。
 そんなこと考えてたら、
「キャッ」
 短い、かすかな悲鳴が聞こえた。
 駅のロータリーの、向かい側だろうか。横断歩道のあたり?
「ドロボー!」
 今度はもっとはっきりとした声。
「ひったくりだ」
「え、ひったくり? どこ?」
 走り去ろうとする男の背中が見えた。
 とりあえず、俺のからだが反応してしまった。俺は、二メートルほどの幅がある花壇の植え込みを、その場でジャンプして飛び越えた。
 両足踏み切り、立ち幅跳びね。
 車道に飛び出す。
 クルマの急停止のブレーキ音とクラクションが聞こえたけれど、ロータリーを斜めに横切る。タクシーとバスの間を抜けて、男を追った。
 すると、ぐんぐんと距離が縮まって、すぐに追いついてしまった。
 となると、どうしていいか、よくわからない。
 俺は、男の横に並んで走った。
「あの、もしかしたら泥棒のひと?」
 話しかけると、男はびっくりした表情。
「もし、そうなら、返した方がいいんじゃないですか?」
 同じスピードで併走しながら言った。
 返事してもらえないの。
 男が必死になって速度を上げようとしたんで、俺は男の前に回ってみた。
 男の顔を見ながら、後ろ向きに走る。
「返さないの?」
 男は、あっけにとられたようだ。
「お、おまえ、何者だ?」
 ひきつった顔。息を切らす。
「難しいこと言うなあ。俺も、自分がだれなのか、よくわからないんで」
 男は、突然、立ち止まった。
 後ろ向きに走っていた俺は、倒れそうになって急停止。男は、無言で俺にバッグを押し付け、逆方向へ再び走り出した。
 もう一度、追いかけるべきなのかなあ。
 よくわからないまま、突っ立ってたのよ、俺。そしたら、しばらくして、女の人が小走りでやってきた。
「ありがとうございます。取り返してくれて」
 すげえ派手なピンクのジャケットを着ている。
 俺は、バッグを手渡した。
 だって、たぶん、このひとが持ち主だろう。
 眉子叔母さんだったら、証拠はないって言うかもしれない。こういう場合には、バッグの中身を見て、本人確認をすべきだと。
「あなた、高橋くんね」
 確認をされてしまった。
 たしかに、俺は高橋という名字のはずだ。
 それだってね、理屈を言えば、意識を回復してから教えられたものだ。本当に自分が高橋かどうかの確信は、俺にはない。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%