曲がり角では、ひと呼吸おくの。それで、間合いをはかって、そっとのぞいてみる。さっきは、振り返られた気がしたんで、思わず顔ひっこめちゃった。
何してるのかって? 尾行に決まってます。もちろん、眉子叔母さんの。だって、他に手を思いつかないんだもの。
いざ、やってみると、適当な距離をとるのがとても難しいの。近かったら絶対バレるし、あまり間があると見失いそうだし。
今日は、朝からいい天気だった。叔母さんも、ご機嫌。
「夕食までには帰るわ。あなたも、お昼、適当に食べるでしょ。百ユーロするような、ここのルームサービスはおすすめじゃないけど」
この世の中で生活していくのに、俺もずいぶん慣れてきた。ひとりでほうっておけるって、叔母さんも思うようになったんだろうね。このごろは、結構、別々に行動してる。
だけど、朝から一日出かけるって言われたら、気になるじゃない。わけのわからない店長の目撃情報があったんだから。
玄関で叔母さんのこと見送ったあと、俺も急いで仕度して外に出た。
で、いざ尾行を始めたところ、眉子叔母さんたら、用事があるのか、ないのか。
花屋の店先で立ち止まったり。小さな町の本屋にはいったと思ったら、三十分ぐらい出てこない。
ただ、ぶらぶらしてるようにしか見えないの。こういう尾行はマフィアのみなさんでもしんどいんじゃない?
公園のベンチにすわって買った本読み出したときには、俺、なんでこんなことしてるんだろうって思ったね。だって、公衆便所の陰から叔母さんのことじっと見張ってなきゃならない。
クサイだけじゃなくて、脇の道歩いてきたオッサンに、思いっきり不審そうな顔されちゃったぜえ。
ひとがあまりいない午前中の公園。
俺の視線の先には、ミニスカートの脚を組む眉子叔母さん。光を浴びながらページをめくってる姿は、雑誌のグラビアみたいで、なかなかいいのよ。
これって、尾行っていうより、ほとんどストーカー?