返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 吉川英治 » 正文

黒田如水67

时间: 2018-11-16    进入日语论坛
核心提示:封の中一「やあ、見えられたか、官兵衛」 荒木村重はたいへんな機嫌を見せていた。むしろ衒気《げんき》に近いものすらある。大
(单词翻译:双击或拖选)
封の中
 
「やあ、見えられたか、官兵衛」
 荒木村重はたいへんな機嫌を見せていた。むしろ衒気《げんき》に近いものすらある。大きく膝頭《ひざがしら》をひらいて武将坐りを組み、長い肘《ひじ》を折って脇息《きようそく》へ倚《よ》せているため、すこし体が斜に構えた格好になっている。その筋肉のあらあらした隆起《りゆうき》や青髯の痕にくらべて、側《かたわ》らから扇で風を送っている嫋女《たおやめ》は余りに優雅《みやび》ていた。
「いつもお変りありませんな。いや、いよいよご健勝のようで」
「何をいう官兵衛、左様に早く変ってたまろうか。お汝《こと》とはつい過ぐる頃、中国の陣で会っておる」
「ああ、上月城を退去の節、ちらと、信忠卿のご陣前で」
「——そうだろう、それなのに、幾年も会わぬようなことを申しおる」
「——何か、そんな気がふと致したのでござる。お人違いをする程に」
「なぜだ。なぜそんな気がするか」
「思うに、人はその人に相違なくても、月日はさほどに隔《へだ》てておらなくても、人の心の変りようが、それがしをして左様に感ぜしめたのかもしれません」
「…………」
 村重はまずい顔を作った。童女が陶物《すえもの》煙管《きせる》に南蛮《なんばん》の莨《たばこ》をつめて、さっきから恐る恐るさしのべていたが、それに眼を向けても手を出さない。
 左に置いてあった脇息を、右のほうへ持って据え直し、斜の構えを反対にしてから、
「ふ、ふ、ふ……」と、初めて笑った。そして急にこんどは、話題を転じて、
「どうだ、筑前は達者か」
 と、たずねた。
 官兵衛もまたその答えを放擲《ほうてき》して、さきの向けて来た話題にかまわず、
「主人小寺政職《おでらまさもと》よりも、くれぐれもよろしくとの申し伝えにござりました」
 と、いった。
 うすあばたの痕《あと》のある瞼《まぶた》を、村重はパチパチとうごかして、
「お汝《こと》は今、御着《ごちやく》におるのか。平井山におるのか」
「御着へもどっておりまする」
「そうか。何日?」
「近頃ではございますが」
「然《しか》らば、今日、使いとして来たというのは、筑前の使いではなく、小寺殿の使いで見えたのか」
「左様です。——これはまた、それがしのぬかりでした。まず、主人政職よりのご書簡をご被見《ひけん》下しおかれますように」
「どれ……」
 侍女へ向って、頤《あご》で取次をうながし、その間に初めて、一方の手で童女の手から莨を取り、大きく一ぷく喫《す》って返した。
 書簡はすぐ官兵衛の目前で封を切った。読み下すうちに荒木村重の面に複雑な色がうごいた。元来正直者である。内にうごく感情の色をつつんでいることのできない顔だ。
 官兵衛は見ていた。もちろんその書簡は読み得ないが、彼の顔色に映し取ってそれを読むに難くないとしていた。——智者ハ却《カエ》ッテ智ニ溺ル——。後に思えば、官兵衛生涯の不覚は実にこのときの読み違いにあった。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%