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黒田如水116

时间: 2018-11-16    进入日语论坛
核心提示:陣門快晴三 信長はいったん居室へ帰っていた。つねになく沈痛な唇をむすんで坐りこんでいた。折ふし朝食のしたくが調ったので、
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 陣門快晴
 
 信長はいったん居室へ帰っていた。つねになく沈痛な唇をむすんで坐りこんでいた。折ふし朝食のしたくが調ったので、近習《きんじゆう》たちが運びかけて来ると、
「後にする。退《さ》げておけ」
 と、依然《いぜん》、沈思《ちんし》のすがたを守っていた。
 彼は後悔を知らない人であった。どんなに臍《ほぞ》をかむほどな事にも、過去を振り向いて前進を鈍《にぶ》らすような低迷を持たない質《たち》のひとだった。けれども、この朝の彼の眉には実にきびしい慚愧《ざんき》が滲《にじ》んでいた。苦味《にがみ》を口いッぱい頬ばったような面持をたたえていた。
 第一には、人を視《み》る明《めい》を誤ったことである。これは将として自己の全軍に絶大な信を失墜《しつつい》する。かつても彼はずいぶん人を処断《しよだん》しているが、その人間を観過《みあやま》って断じたことはない。
 ふたつには、質子の松千代を斬らせたことだった。それもこれも官兵衛を離反の賊と疑って、一時の感情にまかせたためであることを思うと、自らには深く辱《は》じ、彼にたいしては、主君として、合わせる顔もない気がする。
 しかしこういう内省はしても、その内省にとらわれて、彼に会うことを逡巡《しゆんじゆん》したり卑屈な弁解《べんかい》を考えてみたりする信長ではなかった。信長にとって常に心の奮うものは眼前の百難を克服《こくふく》することと将来の構想であって、彼にとって最も興味のうすいものはその反対な過去の事件であった。
(弱ったのう。……彼奴《きやつ》、どんな顔をして、予をうらむだろうか)
 胸の中で、こう呟いたとき、彼はもうすっぱりと眉根の当惑《とうわく》を掻き消していた。人間である。間違いや過ちは信長にだってある。自分は神ではない。神でないものが天下統一の大業を成そうとするのである。大過《たいか》あらばその業は不適任な者として自《みずか》ら止むしかないが、小過は天もゆるしてくれよう、官兵衛もまた恕《ゆる》すだろう。——そう考えはすわったのである。
 いずれにせよ、彼の今なしつつある業と大志にくらべては、これしきの苦い思いは、歯の根にのこる程もない些事《さじ》と意志してしまわれるのだった。やがてその意志と身を起して立ち上がると、
「どれ。……会ってくれるか」と、独りつぶやいて、秋のあかるい陽《ひ》のいっぱいに射している広い濡縁《ぬれえん》を大股に歩み出していた。
 どうして一年間も伊丹の獄中にいたか。戦場の中から救い出されたか。容体の程度はどんなか。そんな経緯《いきさつ》を質《ただ》させにやっている前田又四郎の返事を聴くことも、信長はふっと忘れていたらしかった。
 彼方から来る又四郎のすがたを見て、思い出したように歩みを止めた。そして、又四郎から伝えることを、途中で聞き取って、幾たびもうなずいた。
「そんなに重態か。……して、どこへ通しておいたか」
「東側の幕のうちへご案内しておきました」
 信長は自分からそこまであるいた。昨夜中はそこを将座《しようざ》として戦況を聞いたり使番に会ったりしていた所である。幔幕《まんまく》のまわりには篝《かがり》の燃え殻が散らかっていた。
 つと、そこの囲いのうちへ信長は入った。約十歩もへだてた大地に、多くの者が一様に平伏していたが、何ものより先に、彼の眼へ飛びこんで映ったものは、地上にある一枚の戸板と、そのうえに横臥《おうが》されている平べッたい一個の人体だった。
「…………」
 信長は床几《しようぎ》にも着かずややしばし凝然《ぎようぜん》とそれを見ていた。
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