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平の将門20

时间: 2018-11-24    进入日语论坛
核心提示:ふたりの従兄「? やあ」 ふと、気がついて、小次郎は、書物から眼をはなした。 そして、恥かしそうに、あわてて、書《ほん》
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 ふたりの従兄
 
 
「……? やあ」
 ふと、気がついて、小次郎は、書物から眼をはなした。
 そして、恥かしそうに、あわてて、書《ほん》をふところにしまいこみ、
「——まだ、陽が高いようですね。諸卿のお退がりには、だいぶ、間がありましょうな」
 と、てれかくしに、午後の陽を、ふり仰いだ。
 供人宿の廂《ひさし》の蔭では、例によって、なにか、猥雑なこえが喧《かしま》しい。外の、青桐の花の下で、居眠っているのもあるし、ものうい初蝉の声をよそに、ひそかに、投銭(博奕)をやっている物蔭の一群もある。
「よく勉学されるな。そこもとは」
 さきも、初めて、にやりと笑った。小次郎は、顔をあからめた。事実、自分が読んでいたのは、中華の書物ではあるが、ごく初学者の読本にすぎない孔子の一著書であったからだ。
「……いえ。勉学なんて。……それほどなものじゃありません」
「でも、心がけは、嘉《よみ》すべしだよ。——ところで、お身は、わしを、知っているか?」
「さあ。どこかで、お会いしたことが、あるでしょうか?」
「こっちから訊《き》いているんだよ」
「失礼ですが……覚えがございません」
「そうだろうな。ハハハハ」
「どなた様でございますか。おさしつかえなくば、お聞かせ下さい」
「そこもとの生国は、東国であろうが」
「そうです。あなたは」
「わかるだろ。ことばでも。……わしも東国さ。しかも、お身の生れた下総の豊田郷から程遠くない常陸の笠間だ」
「や。……」なつかしさに、小次郎は、いきなり立ち上がった。
「……じゃあ、常陸の大掾国香どのを、御存知でしょう」
「知らないで、どうするものか。わしは、国香のせがれだもの」
「ああ。じゃあ、この私とあなたとは、従兄弟《い と こ》にあたるわけです。思い出しました。大叔父国香どののお息子——常平太貞盛《じようへいたさだもり》どのも、早くからこの都へ、遊学に来ていると聞きました。あなたは、その貞盛どのですか」
「ちがう。貞盛は、わしの長兄。わしは弟の繁盛《しげもり》というものだよ」
「では。御兄弟おふたりで、都にいらっしゃるのですか。これは、羨ましいことです。いつから、この京都においでなので」
「お身が、豊田郷から、京都へ出た、翌々年のことさ。もっとも、兄の方は、それよりずッと前に、来ているが……」
「で、今は、どちらに、お住居《すまい》です」
「兄の貞盛は、もうとくに、勧学院を卒業して、御所の蔵人《くろうど》所《どころ》に、勤めている。……が、わしは、つい先頃、三善清行博士の門を出て、今では、右大臣家の御一子、九条師輔《もろすけ》さまのお館に、書生として、仕えておるのさ。……きょう初めて、宮門のお供について来たのだから、お身と会うのも、初めてなわけだ」
「御舎兄の貞盛どのは、私が、小一条の右大臣家に身をよせていることを、御存知のようですか」
「……うム。知っているらしいが、くわしい事は、何も聞かなかった。会って、話したことがあるかい」
「いえ。一ぺんも……」
 小次郎は、ふと淋しい顔を見せた。実は、たった一度、応天門の焼址《やけあと》の附近で、人から、あれが常平太貞盛である、おまえとは同郷らしい——と教えられたことがあり、近づいて、せめて、挨拶でもしようと思ったところが、何か、先が勘ちがいでもしたのか、ぷいと、横をむいて、貞盛は、背を見せたまま行ってしまった……そういう記憶が、ふと、頭をかすめたのである。
 だが。——それには触れるいとまもなく、彼は、繁盛から今、ことばをかけられたのがうれしかった。従兄弟といえば、血は他人よりも濃い、いや、他人にしても、異郷千里のこの京都で、初めて、同じ故郷の、同じ坂東平野の土に育った人間に会ったのである。なつかしさ、うれしさ、小次郎は、淡い郷愁と同時に、大きな力強さを感じた。
 彼のこの気もちは、決して、誇大な感傷ではない。その頃——人皇第六十代、醍醐帝の皇紀一五九〇年という時代の日本のうちでは、畿内《きない》のそとはもう“外国”といったものである。東国といい坂東といえば、まるで未開人種の国としか扱っていなかった。
 たとえば、陽成帝《ようぜいてい》の元慶《げんけい》の五年五月には、在原行平《ありわらのゆきひら》が、奨学院《しようがくいん》という学校を新たに興《おこ》したが、そのときに、物部斯波《もののべのしなみ》と連永野《むらじのながの》という二名の史生が、折から上洛中の陸奥《みちのく》の民の代表者をつれて来て、講堂で、東北語の対訳をして、聴かせたりしている——そして、この二人は、東北語の通訳官としても、朝廷に功があったというので、同年、各、従五位を授けられたほどである。
 この異郷の空で、小次郎が、たまたま、同じ坂東者に、出会ったのであるから、繁盛を見る彼の眼が、従兄以上な、ある、同血種の親しみとなつかしさを感じたのは、決してむりなことではない。
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