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平の将門30

时间: 2018-11-24    进入日语论坛
核心提示:蚊に美味き大臣の肌「あっ? 。オオ、覚えている。八坂の下で、焚火にあたっていた中の一人だ」「おぬしは、まるで蝦夷《えびす
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 蚊に美味き大臣の肌
 
 
「あっ? ……。オオ、覚えている。……八坂の下で、焚火にあたっていた中の一人だ」
「おぬしは、まるで蝦夷《えびす》の子みたいな、都上りの童だった。あれから何年たったろう。……しかし、おれは、おぬしが平良持の長男、相馬の小次郎だという事も、おぬしが、常陸の大掾国香の書状をもって、忠平の館へやって来たことも、その手紙の中の文句まで、ちゃんと、覚えているがどうだ。もの覚えがいいだろう」
「ええ。どうして、そんな事まで、知っているのですか」
「はははは。タネ明しをすれば、おぬしを、あの翌日、刑部省の獄舎から、小一条の館まで、送ってくれた放免(目明し)があるだろう。あの放免も、おれの手下さ」
 小次郎は唖然たるばかりである。不死人の傲岸《ごうがん》さや、悪党口調が、何か、英雄のように見えさえした。——と、不死人は、急に親しみをみせ、
「……が、小次郎。おぬしも、だいぶ都を知ったろう。いい若者になったといえる。いちど、どこかで、ゆっくり飲み合おうじゃないか。そうだ……さし当って、おぬしに一手柄たてさせてやる。まあ、そこの土手の下へでも坐って話そう」
 逃げるに急であるはずの賊が落ちつき込んでいうのである。けれど、仔細を聞いてみれば、そうあわてない理由もわかった。不死人は、左大臣忠平の、痛い弱味を、握っている。——今ごろは、おれを、追うにも追えず、泣きベソをかいて、独りもだえているだろうよ。彼は、あざ笑って、小次郎に話すのだった。
 紫陽花の君というのは、もともと、女の本名ではなく、忠平が、彼女を奪って、この小一条に、かくまってから後、仮に呼び慣わせているにすぎない。まことの名は、清原《きよわら》の藍子《あいこ》といい、雅楽《う た》寮《りよう》の名手、清原恒成《つねなり》の妻であり、婚して、まだ、二年ともたたないうちに良人を亡くした若後家の君である。
 忠平は、かねてから、藍子の容姿に、食指をうごかしていたので、さまざまな手だてをつくして、射落そうと試みたが、藍子は、うるさく思ったか、かえって、紀貫之《きのつらゆき》の甥で、紀史岑《ふみみね》という、いとも貧しい一朝臣の家へ、再嫁を約してしまった。——と知って、憤った忠平は、まだ冬の頃の雪の一夜、滝口の武士をつかって、藍子を襲い、一時、洛外に隠しておいて、いやおうなく、この紫陽花の壺へ、やがて移していたものである。——だから、正しい恋愛でもなければ、野合《やごう》ですらない。暴力と権力で、ひとの妻を、奪ったものだ。それをおれが、また奪うのは、不義ではない。不死人は、そう傲語して、はばからないのである。
「ところで、小次郎……」と、彼は声を落して——「おぬしは、左大臣の召使だ。ここでひとつ、手がらを立てろ。な……こうして」
 と、何か一策を、ささやいた。
 そして、やおら立ち上がると——
「じゃあ、待っているぞ。八坂の塔で」
 不死人は、さいごに、念を押すと、それこそ、燕が川を擦《す》るような迅《はや》さを見せて、たちまち、加茂の向うへ渡って行った。
 気がつくと、一乗寺の峰のふところから、白い雲が、ゆるぎかけていた。その辺りの白雲がゆらぎ出すと、いつも峰の肩に、夜明けの光がほの白むのが近い兆《しる》しである。——小次郎は、肚をきめて、盗賊たちが出た裏門から、紫陽花の壺へ、駈けこんで行った。
「——大臣。大臣」
 開け放されてある妻戸のひとつから入って、奥まった一間のうちへ、こう呼ぶと、うめきが聞え、そして、誰じゃ? ……と、恐々《こわごわ》いう声がする。次の間あたりから、小次郎が、
「小次郎です。輦宿の小舎人、小次郎にござりますが、裏御門のほとりで、賊を見かけて、戦って来ました。——何も、お怪我はございませぬか」
 というと、忠平は、非常に驚いたらしく、かえって、しばらくは、うんもすんも答えなかったが、ややあって、
「たれでもよい。はやく、儂《み》の縛《いまし》めを、解いてくれい。憚らいでもいい。入れ……早く」
 と、あたふたいった。
 彼は、まっ裸にされて、柱にくくしつけられていた。あちこち、蚊にくわれたあとが、おかしいほど、腫《は》れている。こよいのみは、この大臣も、わが美味な血を、蚊の歓宴に施していたのである。
「賊を見かけたなら、壺の君が、攫《さら》われて行ったのも、見たであろう。……彼女《あ れ》は、どうした。彼女の身は」
「藍子さまのお行方ですか」
「なに……」と、呆れるばかり驚いた表情をして——「ど、どうして、そちは、彼女の名を、知っているのか」
「賊の頭目が、そう呼びました」
「ああ、あの悪魔めが? ……。して、そちは、斬り合ったのか」
「はい、ちょうど、今晩は、いつもより早くに目ざめ、牛に土手の草を飼っておりました。怪しと見て、追いましたところ、大勢は、藍子さまをかついで、先に、川の彼方へ渡りこえ、あとに残った賊の頭目が、こう申すのでございました」
「どういった……。どう?」
「藍子の身が、いとおしかったら、二日のうちに、砂金一袋《いつたい》を持って、うけとりに来い。その日が過ぎたら、女の体は、おれが自由にしていると思え。飽いたら、浪花《なにわ》江《え》の遊女に売りとばすから、探して、買いもどしたらよかろう。……と、かようにいい放って逃げ失せました」
 小次郎は、そうしゃべっている者が、自分ではないように、一息にうまくしゃべれた。
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