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松のや露八04

时间: 2018-11-30    进入日语论坛
核心提示:人斬り健吉一 しがらき茶屋の奥に、庄次郎を入れて七、八名が、衝立《ついたて》で席を割って、飲みはじめた。 汐留川《しおど
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 人斬り健吉
 
 
 しがらき茶屋の奥に、庄次郎を入れて七、八名が、衝立《ついたて》で席を割って、飲みはじめた。
 汐留川《しおどめがわ》が前だった。
 店頭《みせさき》は、広土間で、旅帰りを出迎えている人々や、板新道《いたじんみち》の芸妓《おんな》と、八丁堀の与力が、公然と出会いをしているのや、駕《かご》かきや、馬の尻が、中仕切の簀戸《すど》から透いてみえる。
 夕方の、むし暑い風が、せまい銀座横町の馬糞《ばふん》いろの埃《ほこり》と、蠅《はえ》とを、塀《へい》ごしに運んできて、そら豆の色が青いほか、ちゃぶ台の上は、白っぽくなった。
「渋沢という奴《やつ》、若いが、なるほど、ちょっと話せるな」
「俺《おれ》は、虫がすかん」
「百姓だ。田舎で、藍玉《あいだま》売りをやっていたそうな、武士のくせに、腰が低うて」
「土肥、さっきの財布、見せろ。いくらある。どうせ、天保銭《てんぽうせん》か、台場銭《だいばせん》の端《はし》ただろうが、飲むに都合がある」
 庄次郎が、そのまま、渡すと、
「あっ」
 開けて見た四、五人の眼が、息をのんで、
「……だいぶある」
 呻《うめ》いた。
 小判で、四、五十両の金を見ると、貧乏藩士の子弟は、ちょっと、酒が醒《さ》めてしまった。
「ははあ、読めた」
 一人が、急に、気が大きくなったように云った。
「——渋沢の奴、何でも、田舎でがらにもない皇学を囓《かじ》ったり、また、それを、流行《はやり》ものの、勤王運動とやらの実行に移そうとして、八州《はつしゆう》に嗅《か》ぎつけられ、それで、ご当家の、平岡円四郎殿へ、縁故をもって縋《すが》って、隠れているのだという風評がある、——これあ、如才なく、吾々《われわれ》に、渡りをつけて来たのだろう」
「すると、匿《かくま》い料《りよう》か」
「ま、そうと、俺は見る」
「じゃ、ありったけ、飲んでもいいな」
「飲みきれるものか」
「何、これだけの頭数で、費《つか》いきれんでどうする、辰巳《たつみ》へゆこう」
 それから、はしゃぎ出したのである。待合茶屋の豆腐やそら豆ではあきたらない。板新道へ出る、金春《こんぱる》をつながって歩く、行く先々で、飲みだした。
 飲むまいとするほど、執拗《しつよう》にからまれるので、庄次郎も、赤くなって、せまい湯屋の裏だの脂粉《おしろい》の香のもれる窓先だのを、
「こんな所もあるのかなあ——」
 三味線《しやみせん》掛けの赤い布《きれ》だの、鏡台に向いてもろ肌《はだ》をおし脱《ぬ》いでいる女たちだの、ちんとした長火鉢だの、女竹《めだけ》のうえの風鈴《ふうりん》だのを、いつのまにか、好ましい気持になって、のぞいて歩いた。
「野暮《や ぼ》だ、こんな物、どこかへ、預けてしまえよ」
 一人が、酔った紛《まぎ》れに、彼の手から竹刀と風呂敷づつみの免状を奪って、青簾《あおすだれ》の出窓から、知らぬ家の中へ、抛《ほう》りこんでしまった。
「あ、それやいかん」
「明日《あした》でも、明後日《あさつて》でも、取りに参ればよいさ。——こらっ、その竹刀と包み、預けておくぞ」
 すだれ越しに、
「はい」
 女の返辞がした。
 庄次郎は、狼狽《ろうばい》して、
「いけない、いけない」
 格子《こうし》の前に立つと、小さい板に、
(ごしなん荻江《おぎえ》さと)
 と、書いてあった。
「いいじゃないか。荻江節の師匠だ、お里《さと》。——分かっとる。明日来い、明日——」
 先に歩いている多勢が、よろよろ、戻って来て、
「なんだ」
「なあに、土肥のかついでいる竹刀が、眼ざわりだから、ここの荻江お里という稽古所《けいこじよ》へ、抛りこんで、預けたまでよ」
「それはいい、土肥ッ、何を、まごまごしとるか。——さあ、これからだぞ」
 両方から、首ッ玉を——そのまた首っ玉を、数珠《じゆず》つなぎに抱《かか》え合って、
「かんかんのう、きゅうのれす」
 大声で、一人が唄いだすと、節をあわせて、
神田アの
急火ですウ
半鐘鳴るベエ
西《さ》イ風々《ふうふう》
一家たいがい焼けたんべ
めんくが悪くて心配さ
燃えよとは、火《ひ》イ灰々《はいはい》
 ぶら提灯《ちようちん》が、避《よ》けて、溝《みぞ》へ落ちた。板新道の女が、釵《かんざし》を落として、舌うちをする。町人は、軒下へ貼《は》りついて、
「一ツ橋だ」
 と、腫《は》れ物《もの》のように、先へ通す。
 図にのって、出窓出窓を冷やかしながら、新道を、押し蹌《よろ》けてゆくと、
「気をつけろッ、馬鹿者ッ」
 西瓜屋《すいかや》の葭簀《よしず》が、ところてんと書いた紅提灯《あかぢようちん》を竿《さお》の先からぶら下げている路地口の角《かど》だった。
 肩を突かれたのかも知れない。
 西瓜の胚子《た ね》を踏んづけて、一人が転《ころ》ぶと、三、四人、一緒になって蹌《よろ》めいた。
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