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技巧的生活32

时间: 2018-12-06    进入日语论坛
核心提示:   三十二 旅行が終り、ふたたび「銀の鞍」を生活の場とする日常生活がはじまったが、一つの話題が彼女たちを待っていた。 
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    三十二
 
 
 旅行が終り、ふたたび「銀の鞍」を生活の場とする日常生活がはじまったが、一つの話題が彼女たちを待っていた。
 ある一流の酒場にいる波津子という女が、警察に呼び出されて取調べを受けた、という話題である。売春の容疑による取調べで、警察のリストには七十数名の男の名が、波津子の相手として並んでいた、という。男たちの支払った金額は、最高三百万円から最低七万円に至るものだった。波津子には同棲している暴力団の幹部の男がいて、その男が陰で彼女をあやつっていた、という。
 銀座の酒場の女たちは、自分の店の近所についてさえもしばしば不案内である。住居から店へ来る、いったん店に入ったら、そのまま閉じこもって深夜に至る場合がほとんどであるからだ。しかし、波津子の名は、有名だった。ジャーナリズムの話題にしばしば登場するその酒場で、目立った存在だったからである。
 この事件は、「銀の鞍」の中で、いろいろの形で話題となった。客と客とのあいだの話題、客と女とのあいだの、そして女たちのあいだの話題となった。
「最低が七万円か」
 と、客の一人が言い、話がはじまる。
「しかし、波津子だったら、七万円でもいいな。それにしても、三百万円と七万円とは、たいへんな違いだなあ。いったい七万円で済せたのは、どこのどいつだろう」
「もしかすると、おれかもしれないよ」
「君でないことは、たしかじゃないか」
「なぜ」
「なぜといって、この男はね……」
 と二人目の客が、三人目の客に説明をはじめる。その男が、波津子と同じ店の女を口説いた。冗談半分に口説き、相手の女も冗談のような口調で、「そうね、いま旦那と別れたばかりだから、考えてみてもいいわ。二十万円でどうかしら」と答えた。「とんでもない、高すぎる」「あんたバカね。いまお金をつくる必要があるから、特別にそれで済せてあげようとおもうのに。二十万円わたしに払込むとするでしょう、そうしたら、アパートにいつ訪ねてきてもいいわ。お酒も置いてあるし、場所代、酒代を含むお値段じゃないの」冗談ばかりでないひびきが混った。「なるほど、考えてみれば安いが、それだけ纏った金は持合せていないな」と、その夜は別れた。以来、彼はその店に行くたびに、冗談めかした口調で、値切る。幾回かのうちに、二十万円が七万円まで、値下りになった。そのとき、彼が言った。「きみ、その七万円を月賦払いにしてくれないか」その口調には、あきらかに真剣味が混り、さすがに彼女は憤然とし、やがて呆れて笑い出した、という。
「なにしろ月賦で口説くやつだから」
 と、男たちは陽気に笑い合った。男たちばかりでなく、その席の女たちはみな笑い顔になっている。職業的な笑顔でもないようにみえる。しかし、ゆみ子の笑顔は、強張った。自分たちが、はっきり商品と見做されていることが分る話だからである。
「こっちだって、客を商品とかんがえればいいのよ」
 よう子の言葉が、ゆみ子の頭の中に浮び上ってくる。そう考えるよりほかに、救われる道はないのか、とゆみ子は周囲を見まわしてよう子の姿を探す。よう子は、隅のテーブルに坐って、横顔をみせていた。白い滑らかな横顔で、けっして傷つかぬようにゆみ子の眼に映ってくる。しばらく、ゆみ子はよう子の横顔に視線を留めていると、自分の顔の皮膚がある気配を感じ取った。それが何の気配か、分っている。自分の横顔に向けられた男の視線なのだ。一瞬ためらって、ゆみ子は首を正面に向けた。前の席の男の眼が、皮膚に貼り付いていた。粘りつく眼で、ゆみ子から引出せる快楽の量まで計っている眼である。
 しかし……、とゆみ子は考える。このような眼で埋められた空間にあえて身を置くこと、屈辱を自分の身に課すこと、そのために酒場勤めを選んだのではなかったか。
 不意に、油谷の顔が浮んできた。その顔は、確かめる眼をしている。ゆみ子が、屈辱的な姿勢を自分から求めている事実を、嗅ぎつけている眼だ。るみの二つの乳房の上に印された赤紫色の痣が、ゆみ子の眼に浮ぶ。どんな恥ずかしい恰好でもする、とよう子についていった油谷の声が、ゆみ子の耳の中で鳴る。
 油谷にとって、自分はそういう意味の存在なのだろうか。痛めつける手にたいしてどこまでも撓い、加虐の力をこころよく吸いこむようになる可能性を秘めた躯、と油谷は自分を解釈しているのだろうか。
 だが、ゆみ子はいま自分に向けられている男の眼を、疎ましく感じた。それは、屈辱と同時に快感に触れてくるものではなかった。ゆみ子は身を竦《すく》め、その眼から脱れたい、とおもった。しかし、その眼は執拗に、ゆみ子の皮膚に粘り付き、皮膚の内側にまで潜り込もうとする。ゆみ子は、油谷の影像を手もとに引寄せ、心を油谷に向けることによって、その眼から脱れようと試みた。
 その執拗な視線を遮る楯として、ゆみ子は油谷を呼び寄せた。
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