妊娠という言葉と、厭な記憶とが絡まり合い、ゆみ子の心に一つの感情が潜りこみ棲みついた。
その感情は、油谷との関係によって妊娠したのではあるまいかという考えが基盤となったものだ。それは、恐怖といえるだろう。しかし、妊娠することを恐怖するだけの単純な感情ではない。妊娠という事実が、彼女の心に引起すさまざまに錯綜した、刺戟的な感情である。
その感情は、ゆみ子の心を、躯を、そして子宮を刺戟しつづけることになった。
油谷はその後もゆみ子を誘い、彼女はその誘いにしたがった。しかし、彼の手の力に、躯を委せることは、避けつづけた。彼女は以前のゆみ子に戻り、油谷も以前の萎えた躯に戻った。その彼が、安全な男なのか、危険な男なのか、ゆみ子は判定がつき兼ねる。ただ、油谷の精液が躯の中に入ったという事実だけは確実にゆみ子の感覚の中で生きており、彼女の心と躯と子宮とに、絶え間ない刺戟を与えつづけている。