教えたくないことだが、とくに教えよう。
もっとも、私もアナウンサーの鈴木健二さんに教えてもらったことだ。その鈴木さんも生理学の権威(あるいは、ほかの部門の大家だったか。名前は忘れた)に教えてもらった、という。
手当りしだい、まわりにいる人をつかまえて、
「ジャンケンポンのグーを出してみてください」
と、言ってみる。
相手が男の場合、百パーセント親指の第一関節が曲った形になって、握り拳ができる。
女の場合となると、九十パーセントはその指の関節が伸びる。
これは、なぜか。その学問的説明を鈴木さんにしてもらったかどうか忘れたが、要するに子宮の有るか無いかでこの差ができる、という。子宮がいろいろ複雑なプロセスのあげく、この親指の腱《けん》を引張るので、関節が伸びるのだそうだ。
当然、男には子宮がないから、内側に曲ることになってしまう。
こう書いてくると、あるいは鈴木さんにカラカワれたのではあるまいか、と疑いたくなるが、とにかく実験の結果はそのとおりになる。
ただ、女性の残りの十パーセントをどう解釈すべきか、聞き忘れた。
バーへ行って、試してみる。
「きみ、ちょっとジャンケンの……」
と言って(私のひそかな愉しみを公開することになるので、教えたくなかったのだ)、傍の女の子の親指が曲ってしまうと、疑いが頭を掠《かす》める。
以前、私の知っている男娼が、あるバーに勤めていた。ゲイバーではなく、普通のバーであって、客はもちろん同僚もその人物が男であることを知らなかった、という。経営者は心得ていたかもしれないが、同僚が知らなかったというのはおそらく本当であろう。私はその人物の裸をみたことがあるが、細身のきれいなからだで胸も椀を伏せたようなよい恰好であった。どう見ても、女のかたちをしていた。
話がややこしくなるが、こういう時代には、本ものの女が女装の男とウソをついて自分を売出すことも有り得る。しかし、その男娼の場合は、ウソでない証拠物件があって、それも私は見た。
そういう経験があるので、親指の曲る女に会うと、
「もしや……」
と、疑惑に捉《とら》えられる。
本ものの女で、しかも親指が曲るケースについては、いまのところ結論がでない。
以下は、私の発見である。たくさんの男女に、ジャンケンをしてもらっているうちに、気付いたことがある。
男はいまのところ、百パーセント親指を外に出して握る。出すものは舌でもイヤという吝嗇漢《りんしよくかん》に試みたが、やはり親指を外へ出す。
ところが、女にはしばしば親指を内側に握りこんでしまう人物がいる。五十パーセントくらいの割合か。それではテストにならないので、
「親指を外へ出して、もう一度」
と、頼む。
結局、親指の関節の按配についての説明はその女にしなくてはならないが、内側に握りこむことについてたずねられたら、
「ひと度《たび》、籍を入れたら、ぜったい抜かない性格なのである」
とか、出鱈目《でたらめ》の返事をしておけばよい。