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今日からマ王2-2

时间: 2018-04-29    进入日语论坛
核心提示:          2 この石を耳に当てると、なんだか波の音が聞こえるような気がするんだ。きっとどこか遠い国から、海を渡
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 この石を耳に当てると、なんだか波の音が聞こえるような気がするんだ。きっとどこか遠い国から、海を渡《わた》って来たんだね。
「そんなもん耳に当てなくても、波の音は聞こえますよ。海の上にいるんだから。さ、陛下《へいか》、起きてください、それがいやならせめて起きるのか寝《ね》てるのかだけでも決めてください」
「ううー、揺《ゆ》れてるー」
「当然。船だから」
 そうだった。
 魔王にしか持つことを許されない伝説の剣、最強最悪の最終兵器モルギフが眠《ねむ》るというシマロン領ヴァン・ダー・ヴィーア島、大ざっぱに言うと人間だけの住む土地に向けて、おれたちは船上の人となっていた。
 艦隊《かんたい》を出すと言ってきかないギュンターを、そんなことしたら攻撃《こうげき》される、人間のふりして目立たないように行くのが一番確実だと説得するのはそりゃあもう大変だった。怪《あや》しまれないようにとおれの髪《かみ》を黒から赤毛に染めたのだが、今度はそれを見て「私の陛下が……」と言ったきり目を潤《うる》ませて震えるばかり。いつのまに「あなたのシブヤユーリ」になったんだよ、まったく。渋谷区のキャッチフレーズじゃねーんだから。
 自分が同行できないと知ったときの、嘆《なげ》きようも凄《すご》かった。狼狽《うろた》えて高級そうなカップを三つ割った。だってあんたみたいな超絶《ちょうぜつ》美形を連れて人間の国を歩いたら、女の子にチェックされちゃってどうしようもない。それに誰か賢《かしこ》い人が王都に残ってフォローしてくれないと、王様不在がバレちゃうだろと説明しても、「陛下はこのギュンターがお嫌《きら》いなのですか」とくる。慌《あわ》てて、好きとか嫌いとかそういう特別な感情は持っていないと、優秀《ゆうしゅう》な上司っぽく言ってみたが、だーっと涙《なみだ》を流された。顔と性格のギャップが、ここまで顕著《けんちょ》な奴《やつ》も珍《めずら》しい。
 どうにか教育係を説得して、おれはカクさんことコンラッドだけをお供に国を出た。
 カヴァルケード、ソンダーガード、ヒルドヤードの三国のうち、海を隔《へだ》てて眞魔国と向かい合っているヒルドヤードだけは国交があるので、ヴォルテール地方の港町から、商船で三日かけて異国に渡《わた》った。
 隣接《りんせつ》する国々から非難されながらも、ヒルドヤードが眞魔国との往き来を続けるのは、建国時の助力への感謝ということだ。だがそれは皆《みな》に対する建前で、シカトするよりも貿易で儲《もう》けたほうが得策、というのが本当のところらしい。
 計算高い国だ。
 シルドクラウトはヒルドヤードの南端《なんたん》に位置する。空港でいったらハブ空港で、世界各地から船と人が集まる、貿易国家の縮図というような、活気あふれる港だった。そこの市場で人間様愛用の品々を買い揃え、ヴァン・ダー・ヴィーア島行きの豪華《ごうか》客船に乗り込む。
 はずだった。
 ギュンターが現地コーディネーター(色々な地域の色々な場所に、魔族《まぞく》の息のかかった者は居るらしい。ちょっとしたスパイ大作戦だ)にリザーブさせた豪華客船は、タイタニックとまではいかないまでも、代打ニックくらいにはゴージャスだった。全長はおれの足で走って十二秒だから、百メートルちょっとという規模だろう。
 水色の制服の船員が、たたまれた真っ白な帆《ほ》の下で所狭《ところせま》しと働いている。乗り込んでいくお客さん達は、十八世紀くらいの紳士淑女《しんししゅくじょ》スタイルで、荷物係のガテン達に、これでもかという数の箱を運ばせている。
「すげー……おれの船旅経験って、箱根《はこね》の海賊船《かいぞくせん》とディズニーランドのマーク・トゥエイン号しかないからなー」
「前者はどうか知りませんけど、マーク・トゥエイン号とはまた、えらく短い旅でしたね」
 その頃《ころ》になると人間ごっこにもかなり慣れてきて、「坊《ぼ》っちゃん」「やめろよ夏目《なつめ》漱石《そうせき》じゃないんだから」とか「じゃあ旦那《だんな》様と使用人でいきましょうか」「やだよそんなオッサンみたいな。それよりご隠居《いんきょ》とお呼びなさい、カクさんや」「ゴインキョはもっと年寄りじゃないですか?」なんて軽口も叩《たた》けるようになっていた。
 結局、金持ちのどら息子《むすこ》とその世話役になりきったおれたちは、ポーターにキャビンを案内させて、この船で最高級だという部屋《へや》の扉《とびら》を開いた。開いた途端《とたん》、言葉に詰《つ》まった。
「……た、確かにゴージャスではあるけどさ……」
 リビングの奥《おく》に寝室《しんしつ》が続いている。広い。壁《かべ》や床《ゆか》、窓枠《まどわく》まで装飾《そうしょく》が素晴《すば》らしい。リッツのスィートというわけにはいかないが、とても船の中とは思えない。バス、トイレ別はあたりまえ、猫脚《ねこあし》のソファーやティーテーブル、床には複雑な織りの絨毯《じゅうたん》。でも……。
「なんでダブルベッドあんの? いや、それ以前に」
「遅《おそ》いぞお前たち!」
 なんでダブルベッドの上に、でーんとヴォルフラムが座《すわ》ってんの!?
 コンラッドが、やられたという顔をした。彼にとっても予想外だったらしい。
「これは、新婚《しんこん》さん向けの部屋のようですね。陛……坊っちゃんたちは、まだ婚前さん……信じていいんですよね?」
「……アヤマチのおかしかたが判《わか》んないよ」
 あとはひたすらヴォルフラムの船酔《ふなよ》いで、その日の午後は過ぎてゆき、豪華客船の旅二日目の朝が、やっと始まろうとしているのだ。
「さあ起きてください陛下、それとも朝食をベッドまで持ってきてほしいんですか。放っておくと給仕が来て、テーブル広げてしまいますよ」
 毛布の下で、今にも死にそうな声がする。
「ぼくの前で、食物の話をするな……」
「だってさ。着替《きが》えて顔洗って食いにいくよ。おれは船酔いしてねーから」
 密航まがいのことまでして押《お》し掛《か》けてきたヴォルフラムは、船が港を出てすぐに、トイレに駆《か》け込む羽目《はめ》になった。血の気のなくなった白い頬《ほお》に乱れた金髪《きんぱつ》をはりつかせて、ベッドに寝《ね》たきりで水も飲めない。おれと言い合うこともできず、薄《うす》く目を閉じたままの三男は、天使が地上に堕《お》ちてきて、帰れずに絶望してるみたいだった。
「なんかちょっとでも食ったほうがいいと思うよー? パンとかアイスとかプリンとか。喉《のど》ごしよさそうなもんルームサービスしろよ。牛乳とかオレンジジュースとかヨーグルトとか」
「うぷ」
「ごめん! ヨーグルトは逆効果だったか!?」
「ほらユーリ……じゃなかった、坊っちゃん、病人をかまってないで、コンタクト入れるからじっとして」
 魔族の総力をかけて開発された、カラーコンタクトレンズ・メイド・イン眞魔国を装着すると、おれの瞳《ひとみ》は茶色になる。赤毛でヘーゼル・アイの平凡な人間、一丁あがりというわけだ。
「ヴォルフラムが船に弱いとはねえ。ちょっと可哀相《かわいそう》な気もするよな」
「だから来るなと言ったのに。あんな弱った顔されちゃ、説教する気も失《う》せますよ」
 ちょうど隣《となり》のドアからも、廊下《ろうか》に出てくる人影《ひとかげ》があった。五歳くらいの小さな女の子の手を引いた、立派な身形《みなり》の中年の紳士《しんし》だ。身長は魔族《まぞく》に及《およ》ばないが、かっちりとした体つきで、まだまだ現役はれそうだ。何の現役かは不明。
 紳士はベージュの口髭《くちひげ》の下に精悍《せいかん》そうな笑《え》みを浮《う》かべ、同じ色の豊かな髪と帽子《ぼうし》に右手をかけながら、ゆっくりとこちらに歩いてきた。そして。
「おはようございます」
「わあッ」
 帽子と髪を同時に取った。朝日に輝《かがや》くスキンヘッド。
 カツラー、いきなりのカミングアウト!?
「失礼、主人はまだカヴァルケードの方の挨拶《あいさつ》に慣れていないものですから」
 思わず後ずさったおれの背中に手をやり、コンラッドはにこやかに頭を下げた。
「あ、挨拶だったんですか」
 異文化との接触《せっしょく》は、いつでも驚《おどろ》きに満ちている。
 おれに喋《しゃべ》らせてボロが出るよりはと、コンラッドがそつなく相手をしてくれる。こっちは示し合わせていたとおりに、内気な坊っちゃんのふりをした。
「朝食ですか。私も妻が船酔いでして、部屋でゆっくりくつろげないのです。どうです、ご一緒《いっしょ》しませんか?」
 おれはできる限り可愛《かわい》らしく見えるように、コンラッドの脇《わき》に身を隠《かく》しながら、俯《うつむ》いて小さく首を振《ふ》った。自分的には気持ち悪いこと、この上なし。
「ご覧《らん》のとおり、たいへん内気な主《あるじ》でして」
「そうでしたか、それは残念。婚約者が密航の危険を冒《おか》してまで追い掛けてきたと聞きましたので、どんなに情熱的な美丈夫《びじょうぶ》かとお噂《うわさ》しておりますれば……」
 ヴォルフラム、おれたちとんでもないことになってるぞ。
 したり顔で中年紳士は、帽子とカツラを頭に乗せた。
「そのような可愛らしいお方とは……いや失礼、しかし、さぞやご苦労もおありでしょうなあ。……申し遅《おく》れました、私はミッシナイのヒスクライフ、これは娘《むすめ》のベアトリスです」
 可愛らしいのはおれじゃなくて、男の娘のほうだった。
 薄紅《うすべに》のワンピースの女の子は、親譲《おやゆず》りの白茶の髪を左右で結って、おれをじっと見つめていた。子供の前で嘘《うそ》をつくのは気が引けるが、ここはコンラッドに任せるしかない。
「主人は越後《えちご》の縮緬《ちりめん》問屋のミツエモン。わたくしは供のカクノシンと申します」
「エチゴ? エチゴ、というのは、どの辺りの」
「越中《えっちゅう》の東にあたります」
「エッチュウ……」
「飛騨《ひだ》の北です」
「と、とにかく遠いところからおいでのようだ」
 混乱している。大成功だ。
 おれは「め組の居候《いそうろう》」でいこうと主張したのだが、コンラッドが黄門様を気に入ってしまったのだ。チリメンドンヤという響《ひび》きが、妙《みょう》に耳に残ったらしい。
「では、やはりヴァン・ダー・ヴィーアの火祭りを……」
「そんなことも満足にできねぇのかっ!?」
 近くで悪意に満ちた怒鳴《どな》り声がして、おれは反射的に走りだした。お供のカクさんことカクノシンが、ヒスクライフ氏に詫《わ》びてから追いついてくる。三つ続く特別室の扉を過ぎて一等船室の廊下を曲がり、屋根がなくなってすぐのデッキだった。
 海の男そのものという船員が、見習いらしき若手を殴《なぐ》っている。この世界では仕事に就《つ》く歳《とし》なのかもしれないが、少年はおそらくおれより二つ三つ下だ。
 心の内を察したのか、コンラッドは短く囁《ささや》いた。
「騒《さわ》ぎを起こさないように」
「でもまだ子供なのに」
「これ以上、殴らせなければいいんですか?」
 振《ふ》り向いて覗《のぞ》き込んできた薄茶の眼は、すっかり役になりきっている。
「まったく、坊っちゃんの気紛《きまぐ》れには参りますよ」
 本当にどら息子《むすこ》になった気がして、首の後ろがむずむずする。
「この船では朝っぱらから見習いを殴るのか?」
「うるせえ、下のもんをどうしようとこっちの勝……これはお客さん、どうもお見苦しいところを」
 相手が一等以上の客と知ると、船員の態度はがらりと変わった。
「ですが、こいつがつまんねぇ間違《まちが》いをやらかしまして」
「耳障《みみざわ》りだ、主人が気分を害している」
「はあ、ご主人様というのは、そちらのお方で?」
 コンラッドは船員に何かを握《にぎ》らせた。おそらく金だろう。男は肩越《かたご》しに首をのばし、おれの様子を窺《うかが》い見る。下品なニヤつきで顎《あご》を撫《な》でている。
「こりゃあ、さぞやご苦労の多いことでしょうなぁ。申し訳ありません、お客さま! 不愉快《ふゆかい》な思いをさせちまって」
「もういい、早く消えろ」
 立ち去るようにと手で示すと、柵《さく》近くに転がっていた少年も深々と頭を下げて走って行った。アメリカのCMに起用されそうな、顔中そばかすの子供だった。
「やだやだ……なにごとも金、っつー感じ」
「正義感や良心がいたみますか? けどこれで、少なくともあの男は、金銭で動くことが判りました」
「その上、子供を殴るサイテー野郎。あーあ、おれ、なんかちょっと反省しちゃったよ」
「反省?」
「うん。おれってこっちにいる間ずーっとさあ、よりによってなんで魔王なんかにって思ってたわけ」
 平凡《へいぼん》な高校生が異世界に飛ばされて、冒険の旅に繰《く》り出すとなれば、誰だって真っ先に考えるのは、勇者とか魔法使いとか王子様だろう。なのに与《あた》えられたジョブは「魔王」、探しにいく武器も「魔剣《まけん》」だという。
 木目の柵に寄り掛かり、おれは暖かい海風を受けた。額を撫でる前髪《まえがみ》は、他人のもののような赤色だ。
「運が悪い、おれって不幸ぉー、って。でもそれがすごい勘違《かんちが》いだって、やっと判った気がするんだ。世の中には、おれなんかより、もっとこう、さ」
「不幸な者が存在するって?」
 コンラッドは背を反《そ》らして腕《うで》を組み、演じるのをやめて『ユーリ』に言った。
「さっきの子供が不幸だというわけだ」
「だって日本じゃ多分まだ中一か、へたすりゃ育ちのいい小学生だぜ!? 児童に労働を強制しちゃいけないって、国連だってユニセフだって言ってるよ。しかもミスしたからって殴るなんてさ、子供の権利条約ってのがあるんだろうにッ」
「……だとしても」
 おれの手を引っ張ってまっすぐ立たせ、人々の居るキャビンに向かって歩きだす。
「彼が不幸だと決めつけるのは、ちょっと一方的でしょう」
「そうかなぁ」
 幸せな匂《にお》いが漂《ただよ》ってきた。焼きたてのパンとフライパンで溶《と》けるバターとベーコンの端《はし》っこが焦《こ》げる香《こう》ばしい匂いだ。
「それより、気掛《きが》かりなのはヒスクライフです」
 名前と同時にエキセントリックな挨拶がよみがえる。ああ驚いた、世界は広い。
「市内の人だって言ってたよね、近場かなぁ、市内ってことは」
「ミッシナイはヒルドヤードの北の外れだけど……あの挨拶は確かにカヴァルケードの上流階級のものだった。一度見たら絶対に忘れませんからね」
「あれは……忘れようたって忘れらんないよな」
 上流社会の皆様《みなさま》が、ごきげんよう代わりにあっちでもピカ、こっちでもペカ。若くて髪の多い男性はどうするんだろう。全員、コージー富田《とみた》状態!?
「あれ、そのカヴァルケードって、例の」
「そう、例のです。しかもあの男、かなりの使い手ですよ。マイホームパパぶって娘と手をつないでたけど、指にしっかり剣ダコが」
「剣ダコ!? できるんだータコがー。まあ使い手っていったって、コン……カクさんほどの剣豪《けんごう》じゃないだろうけど」
「いやだなぁ坊っちゃん、剣豪だなんて。照れるじゃないですか」
 互《たが》いに役に戻《もど》っている。もうダイナーの入り口だった。
「ま、俺《おれ》の場合は、長いことそればっかだったから。八十年も握《にぎ》ってりゃ上達しますよ。継続《けいぞく》は力なりってとこですか」
「なるほど。剣豪一筋、八十年かぁ。吉野家《よしのや》みてーだな」
 ああー、ヨシギュー食いてぇー。
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