金太郎という力持ちな子供がおりました。
金太郎の父親は酒田義家(さかたよしいえ)という強い武士でしたが、
いくさに負けて殺されてしまいました。
母親は幼い金太郎を連れて、
この足柄山に命からがら逃げてきたのです。
そして洞穴の中にすまいを作り、
畑を耕して命がけで金太郎を育てました。
そのかいあって、金太郎はすくすくと丈夫な子に育ちました。
むしろ丈夫すぎです。
ハイハイ歩きの頃にはもう
大きな石臼をひっぱるくらいの強さでした。
母親は金太郎に丈夫に育つようにと願いをこめて、
「金」の字が刺繍された赤い腹かけを作ってやりました。
これが今日まで有名な金太郎の目印となります。
それに真っ赤な肌、おかっぱ髪、くっきりした目、
健康に肥えた体、金太郎といえば
今も五月人形でその姿がよく知られています。
金太郎の遊び場は山です。
山には沢山の友達がいます。サル、鹿、いのしし、
ウサギ…みんなユカイな金太郎の友達です。
相撲をしたり追いかけっこして毎日楽しくすごしていました。
ある時いつものように相撲を取っていると、
「金太郎というのはお前か、
いくら強くてもクマにはかなわんだろう」
のしのし熊がやってきます。
にらみ合う金太郎とクマ。
うさぎの行司(ぎょうじ)がはっけよいと一声、
ダァーッと取っ組み合う金太郎とクマ。
がっちり組み合い、じりっ、じりっと押したり引いたり
みんな真剣に見守ります。
クマがここ一番の勝負をかけてグッと押してきたその時、
金太郎はすばやく右にかわし、
強烈な突き出しを決めます。
「ま、まいった!」
金太郎の勝ちです。
ワーーッ
まわりの動物たちは拍手します。
「お前すげえなあ」
「いやいや、お前もかなりのもんだよ」
クマは金太郎とガッシと握手し、
それ以来仲間に加わりました。
ある時みんなで栗拾いに出かけます。
クマにまたがった金太郎、イノシシ、サル、
鹿、ウサギといつもの仲間たちが
一列になって山道を進んでいきました。
ところが、崖のところに来ると橋が崩れ落ちていました。
これでは向こう側へ渡れません。
どうしようということになりました。
そこで金太郎は、「よし、おらに任せろ」と、
そばにあった大木にふんっと押しかかります。
まさかと、動物たちは思います。
いくら力もちの金太郎でも、この太い木は倒せまいと。
普段から真っ赤な肌をした金太郎が
ぐーっと力をこめてふんばるから、
なおさら真っ赤です。鼻息荒く、ぐぐーと押します。
すると、メリメリメリーと木は根元から折れ、
ズズーンと倒れてガケの間に橋をかけることができました。
みんなは大喜びで橋を渡り、栗をいっぱい拾って
その日は栗ご飯が美味しかったのです。
さて、こうした金太郎の働きをひそかに
見守っていた人物がいました。
源頼光(みなもとのよりみつ)という、強い武士です。
つくづく金太郎の力強さ、
そして仲間に信頼が厚いことに感心していました。
ある日頼光は金太郎の母を訪ねます。
金太郎くんを私に預けてください。
きっと立派な武士に育ててみせますと。
金太郎は武士になれると聞いて心が躍ります。
母親は心配しましたが、
けっきょく頼光に金太郎をたくすことにします。
出発の日。
クマ、イノシシ、サル、
鹿、ウサギ…そして母が、金太郎を見送ります。
「金太郎、気をつけて行っておいで」
「金ちゃん、元気でな」
「たまには戻って来いよ」
「おう。おう。
みんな、おら立派な武士になって帰ってくるぞ!」
と泣く泣く別れるのでした。
こうして金太郎は源頼光につかえ、
後に坂田金時と名のります。
渡辺綱(わたなべのつな)、碓井貞光(うすいさだみつ)、
卜部季武(うらべすえたけ)と並び、
頼光四天王の一人としてその名をとどろかせます。
大江山の鬼を退治をしたのはゆうめいな話です。