ある寒い冬の日、おじいさんは町へたきぎを売りに出かけました。
すると途中の田んぼの中で、一羽のツルがワナにかかってもがいていたのです。
「おお、おお、かわいそうに」
おじいさんは、かわいそうに思って、ツルを逃がしてやりました。
するとツルは、おじいさんの頭の上を三ベん回って、
「カウ、カウ、カウ」
と、さもうれしそうに鳴いて、飛んでいきました。
その夜、日ぐれごろから降りはじめた雪が、コンコンとつもって大雪になりました。
おじいさんがおばあさんに、ツルを助けた話をしていると、表の戸を、トントン、トントンと、たたく音がします。
「ごめんください。開けてくださいまし」
若い女の人の声です。
おばあさんが戸を開けると、頭から雪をかぶった娘が立っていました。
おばあさんはおどろいて、
「まあ、まあ、寒かったでしょう。さあ、早くお入り」
と、娘を家に入れてやりました。
「わたしは、このあたりに人をたずねてきましたが、どこをさがしても見あたらず、雪はふるし、日はくれるし、やっとのことで、ここまでまいりました。ご迷惑でしょうが、どうか一晩、泊めてくださいまし」
娘は、ていねいに手をついて頼みました。
「それはそれは、さぞ、お困りじゃろう。こんなところでよかったら、どうぞ、お泊まりなさい」
「ありがとうございます」
娘は喜んで、その晩は食事の手伝いなどをして、働いてやすみました。
あくる朝、おばあさんが目をさますと、娘はもう起きて働いていました。
いろりには火が燃え、なべからは湯気があがっています。
そればかりか、家中がきれいに掃除されているのです。
「まあ、まあ、ごはんばかりか、お掃除までしてくれたのかね。ありがとう。」
次の日も、その次の日も大雪で、戸を開けることもできません。
娘は、おじいさんの肩をもんでくれました。
「おお、おお、なんてよく働く娘さんじゃ。なんてよく気のつくやさしい娘さんじゃ。こんな娘がうちにいてくれたら、どんなにうれしいじゃろう」
おじいさんとおばあさんは、顔を見あわせました。
すると娘が、手をついて頼みました。
「身寄りのない娘です。どうぞ、この家においてくださいませ」
「おお、おお」
「まあ、まあ」
おじいさんとおばあさんは喜んで、それから三人、貧しいけれど、楽しい毎日をすごしました。
さて、ある日の事。
娘が機(はた)をおりたいから、糸を買ってくださいと頼みました。
おじいさんが糸を買ってくると、娘は機の回りにびょうぶを立てて、
「機をおりあげるまで、決してのぞかないでください」
と、いって、機をおりはじめました。
キコバタトン、キコバタトン。
娘が機をおって、三日がたちました。
ようやく機をおりおえた娘は、
「おじいさま、おばあさま、この綾錦(あやにしき→美しい布の事)を町へ売りに行って、帰りにはまた、糸を買ってきてください」
と、娘は空のくものように軽い、美しいおり物を二人に見せました。
「これは、素晴らしい」
おじいさんが町へ売りに行くと、それを殿さまが高い値段で買ってくれました。
おじいさんは喜んで、糸を買って帰りました。
すると娘はまた、機をおりはじめました。
「ねえ、おじいさん。あの娘は、いったいどうして、あんな見事な布をおるのでしょうね。・・・ほんの少し、のぞいてみましょう」
おばあさんが、びょうぶのすきまからのぞいてみると、そこに娘はいなくて、やせこけた一羽のツルが、長いくちばしで自分の羽毛を引きぬいては、糸にはさんで機をおっていたのです。
「おじいさん、おじいさんや」
おどろいたおばあさんは、おじいさんに、この事を話しました。
キコバタトン、キコバタトン・・・。
機の音がやんで、前よりもやせ細った娘が、布をかかえて出てきました。
「おじいさま、おばあさま。もう、かくしていても仕方ありませんね。わたしは、いつか助けられたツルでございます。ご恩をお返ししたいと思って娘になってまいりました。けれど、もうお別れでございます。どうぞ、いつまでもおたっしゃでいてくださいませ」
そういったかと思うと、おじいさんとおばあさんが止めるのも聞かず、たちまち一羽のツルになって空へまいあがりました。
そして、家の上を三ベん回って、
「 カウ、カウ、カウ」
と、鳴きながら、山の向こうへ飛んでいってしまいました。
「ツルや。いや、娘や。どうか、お前もたっしゃでいておくれ。・・・今まで、ありがとう」
おじいさんとおばあさんは、いつまでもいつまでも、ツルを見送りました。
それからのち、二人は娘のおった布を売ったお金で、しあわせに暮らしました。