二人には子どもがいなかったので、おじいさんとおばあさんは神さまにお願いしました。
「神さま、親指くらいの小さい小さい子どもでもけっこうです。どうぞ、わたしたちに子どもをさずけてください」
すると本当に、小さな小さな子どもが生まれたのです。
ちょうど、おじいさんの親指くらいの男の子です。
二人はさっそく、一寸法師(いっすんぼうし)という名前をつけてやりました。
ある日のこと、一寸法師は、おじいさんとおばあさんに、こんな事をいいました。
「わたしも都へ行って、働きたいと思います。どうぞ、旅の支度をしてください」
そこでおじいさんは一本の針で、一寸法師にちょうどピッタリの大きさの刀をつくってやりました。
おばあさんは、おわんを川に浮かベて、一寸法師の乗る舟をつくってやりました。
「ほら、この針の刀をお持ち」
「ほら、このおはしで舟をこいでおいで」
「はい。では、行ってまいります」
一寸法師は上手におわんの舟をこぐと、都へと出かけました。
そして都に着くと、一寸法師は都で一番立派な家をたずねていきました。
「たのもう、たのもう」
「はーい。・・・あれ?」
出てきた手伝いの人は、首をかしげました。
「おや、だれもいないねえ」
「ここだよ、ここ」
手伝いの人は玄関のげたの下に立っている、小さな一寸法師をやっと見つけました。
「あれまあ、なんて小さい子だろう」
そして一寸法師は、その家のお姫さまのお守り役になったのです。
ある日のこと、一寸法師は、お姫さまのお供をして、お寺にお参りに行きました。
するとその帰り道、突然、二匹の鬼が現れたのです。
「おおっ、これはきれいな女だ。もらっていくとしよう」
鬼はお姫さまを見ると、さらおうとしました。
「待て!」
一寸法師は、おじいさんにもらった針の刀を抜くと、鬼に飛びかかりました。
ところが、
「なんだ、虫みたいなやつだな。お前なんぞ、こうしてくれるわ」
鬼は一寸法師をヒョイとつまみあげると、パクリと、丸呑みにしてしまいました。
鬼のお腹の中は、まっ暗です。
一寸法師は針の刀を振り回して、お腹の中を刺してまわりました。
これには鬼もまいりました。
「痛っ、痛っ、痛たたた!」
困った鬼は、あわてて一寸法師を吐き出しました。
「よし、今度はわしがひねりつぶしてやるわ!」
もう一匹の鬼がいいましたが、一寸法師は針の刀をかまえると、今度は、その鬼の目の中へ飛びこんだものですから、鬼はビックリです。
「た、た、助けてくれー!」
二匹の鬼は、泣きながら逃げ出してしまいました。
「ふん! これにこりて、もう二度とくるな! ・・・おや? これは何でしょう。お姫さま」
鬼が行ってしまったあとに、不思議な物が落ちていました。
「まあ、これは打ち出の小づちという物ですよ。トントンとふると、何でも好きな物が出てくるのです」
そこで一寸法師は、お姫さまに頼みました。
「わたしの背がのびるように、『背出ろ、背出ろ』と、そういってふってください」
お姫さまは喜んで、打ち出の小づちをふりました。
「背出ろ、背出ろ」
すると一寸法師の背は、ふればふっただけグングンとのびて、だれにも負けない立派な男の人になりました。
そして一寸法師はお姫さまと結婚して、仕事もがんばり、たいへん出世したということです。