おもしろく咲きたる桜を長く折りて、大きなる瓶(かめ)にさしたるこそをかしけれ。桜の直衣(なほし)に出袿(いだしうちき)して、まらうどにもあれ、御兄(せうと)の君(きん)たちにても、そこ近くゐて物などうち言ひたる、いとをかし。
(現代語訳)
三月三日の節供は、うららかにのんびり日が照っているのがよい。桃の花がまさに咲き始めるのも趣きがある。柳などが趣深いのはもちろんだが、その柳もまだまゆのような新芽で外皮に包まれているのはおもしろい。でも、それが広がってしまっているのは見苦しく思える。
美しく咲いた桜の枝を長く折って、大きな花瓶に挿してあるのはとても趣きがある。桜の直衣に出(い)だし衣をして、お客人にせよ、中宮様のご兄弟の殿様方にせよ、その花瓶近くに座って何か語らいをしているのは、とてもいいものだ。
(注)直衣 ・・・ 貴人の平服。
(注)出袿 ・・・ 指貫の上、直衣の下から下着のすそを下ろすこと。