枝豆にうけとるものや渋団扇 龍之介
暑さのつづく季節、ほどよく冷やしたビールのつまみにピッタリなのが枝豆。枝豆はご存知大豆の未熟なもので、青豆とも言い、関西ではあぜまめ、さやまめとも呼んでいます。それと言うのも、田の畔《あぜ》に植えられ、莢《さや》つきのまま食卓に供されるからです。
枝豆は緑黄野菜として極めて重要なもので、たんぱく質に富み、大豆に比べて成分含量が多く、風味もよく、栄養価も高い。ビタミンB1(〇・三ミリグラム)、B2(〇・〇七ミリグラム)、A(カロチンとして四〇〇単位)、C(四五ミリグラム)などが多く、ほかにB6、D、Eなども含まれています。このほか、ミネラル、カルシウム(九八ミリグラム)、鉄(三ミリグラム)が含まれています。
枝豆がビールのつまみに愛好されるのは、ビールと相性がよいからでしょうが、成分の上から言っても効果的で、B1、Cなどが多く含まれていて、アルコールの酸化を促すので、それだけ肝臓の負担が軽くなります。おまけにたんぱく質も多いので、アミノ酸のひとつであるメチオニンなどの量も多く、アルコールによる肝臓の負担は、いっそう軽減されます。その上、腎臓にはなんの負担もかけませんから、酒害を防ぐことにもなります。ビールは酸性食品であるのに対し、枝豆はアルカリ性食品。そんなわけで、枝豆のつまみは、すべての点で健康食品──と言うことができましょう。
このことわざは、ひとは健康がなによりの宝であることを言ったものですが、枝豆の例からもお分りのように、その成分や用途、形や性質から、いつのまにか豆(多くは大豆のこと)そのものが、健康とか息災、または健全を意味することばとして用いられるようになりました。古い本など見ますと、よく「健康」という字のわきに、「まめ」と振り仮名がしてあります。
大豆が健康に役立ち、体力づくりに欠かせないものであることを、昔のひとたちも体験的に知っていたらしく、
味噌豆は三里|往《い》っても戻って食え
味噌豆は三軒往って戻って食え
と、言い回しはややちがうものの、ほとんど全国的とも言えるほど、ことわざとして言い伝えられてきました。みそ豆は言うまでもなく、みそをつくるために大豆を水煮したもので、健康に役立つからと言って、もしみそ豆がまずかったとしたら、食卓にのぼることもなかったでしょうし、このようにもてはやされることもなかったでしょう。
以前はみそ豆を煮た日には、皿に盛って団子汁を添え、近所へ配る|ならわし《ヽヽヽヽ》がありました。これにはみそづくりを祝う意味もありましたが、三里往っても戻って食え──と言うのは、うまさを強調した表現であるとともに、食福にあやかれという意味もあったでしょう。