焼き魚を大別しますと生魚、干魚、その中間の一夜干し魚の三種に分けられます。
新鮮な魚は、刺身にして食べるもの以外は、やはり塩焼きがいちばんおいしいようです。
「海背川腹」とは、魚の焼き方の順序で、�海の魚は背から焼き、川の魚は腹から焼く�という言い伝えにもとづくものです。もっとも、これとは全然逆のことわざもあります。それというのも、魚の形には、ウナギやアナゴのように細長いもの、アジやカマス、サバなどのように開いたもの、小さなアマダイのように片褄折《かたづまお》りにしたもの、ブリやサワラのように三枚におろして半分に切り、さらに縦横に包丁を入れてようやく焼きものの大きさになるものなど、さまざまあり、それぞれによって条件が異なるので、いちがいにこれだとは決められません。
海の上層を回遊する背の青い魚は、概して脂肪分に富み、肉質に多量の水分がふくまれていますので、背皮のほうから焼くと、脂肪分がある程度流れ出ますので、サッパリした味になります。一方、川魚のように、比較的淡白な味のものは、腹のほう、つまり、身の側から焼きますと、脂肪分が流れ出ずに、おいしく焼けます。いずれも開きにしたり、切り身にして焼くときの順序ですが、一尾丸ごと焼く小魚の場合は、盛りつけるときのことを考えて、表になるほうを先に焼き、しかも表を七分、裏を三分の割合で焼きます。
表皮にヌメリのあるウナギやハモ、アナゴのような場合は、表皮のほうから先に焼かないと身が反《そ》り気味になって、焼きづらくなり、焼き上がりにムラができたりします。白身の魚は、強火で皮にほどよい焦げ目がついたら裏返して、こんどは中火で身を焼きますが、このとき、あまり焼きすぎてパサパサにならぬよう、熱のとおりぐあいが九〇%ぐらいのときに火からおろして、熱いうちに賞味します。背の青い魚、イワシ、サバ、アジなどは、鮮度のよいもの以外は、一〇〇%熱をとおすように、中心部までじっくり焼きます。
川魚は煮るにしても、いちど白焼きして生臭さを消しますように、焼くときも、川魚特有の臭いを取り去ることを心がけて、一五〇%ぐらい火をとおすつもりで、十分焼きます。
尾頭付《おかしらつ》きの魚の盛りつけについて、「川背海腹」などという言い伝えがあって、土地によっては、川の魚は背を手前に、海の魚は腹を手前に盛るという習慣があります。これは�川瀬、海原�の語呂合わせからきたものと思われ、それほど確かな意味のあるものとは思えません。姿焼きの盛りつけは川魚、海魚の別なく、やはり頭を向かって左、腹を手前にするのが慣例です。
ご参考までに、ビフテキのおいしい焼き方をご披露しますと、なるべく早めに強火で肉の表面を焼きかため、肉質にふくまれるうま味(肉汁)が外に流れ出ないようにし、次に火力を少し落として焼きます。両面焼きにしないで、片面だけをじっくり焼き、口にしたとき肉汁が残っているくらいのころ合いがおいしく、熱のとおりきる頂点を一〇〇とすれば、七〇〜八五%あたりが食べごろの焼きかげんです。