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世界尽头与冷酷仙境36

时间: 2017-02-16    进入日语论坛
核心提示:「そう感じるのね?」と彼女は言った。「あなたは私の心を読むことができると感じるのね」「とても強く感じるよ。君の心はすぐ手
(单词翻译:双击或拖选)
「そう感じるのね?」と彼女は言った。「あなたは私の心を読むことができると感じるのね」
「とても強く感じるよ。君の心はすぐ手の届くところにあるはずなのに、|僕《ぼく》はそれと気づかないんだ。その方法は既に僕の前に提示されているはずなんだ」
「あなたがそう感じるのなら、それは正しいことよ」
「でも僕にはそれをみつけることができない」
 我々は書庫の床に腰を下ろし、二人で並んで壁にもたれて頭骨の列を見あげていた。頭骨はじっと黙したまま、僕に向って何ひとつとして語りかけてはこなかった。
「あなたが強く感じるということはそれが比較的最近に起ったことだからじゃないかしら」と彼女は言った。「あなたの影が弱りはじめてからあなたの身のまわりで起ったことをひとつひとつ思いだしてみて。その中に|鍵《かぎ》がひそんでいるかもしれないわ。私の心をみつけるための鍵が」
 僕はそのひやりとした床の上で、目を閉じて頭骨たちの沈黙の響きにしばらく耳を澄ませた。
「今朝老人たちが僕の部屋の前で穴を掘っていた。何を埋めるための穴かはわからないけれど、とても大きな穴だった。僕は彼らのシャベルの音で目が覚めたんだ。それはまるで、僕の頭の中に穴を掘っているようだった。雪が降ってその穴を埋めた」
「|他《ほか》には?」
「君と二人で森の発電所に行った。そのことは君も知ってるね? 僕は若い管理人と会って森の話をした。それから風穴の上にある発電装置も見せてもらった。風の音は|嫌《いや》な音だった。まるで地獄の底から吹きあがってくるような音だ。管理人は若くてもの静かでやせている」
「それから?」
「彼から|手《て》|風《ふう》|琴《きん》を手に入れた。小さな折り畳み式の手風琴だ。古いものだが、ちゃんと音は出る」
 彼女は床の上でじっと考えこんでいた。書庫の中は刻一刻と気温が下っていくように感じられた。
「たぶん手風琴よ」と彼女は言った。「きっとそれが鍵なんだわ」
「手風琴?」と僕は言った。
「筋がとおってるわ。手風琴は|唄《うた》に結びついて、唄は私の母に結びついて、私の母は私の心のきれはしに結びついている。そうじゃない?」
「たしかに君の言うとおりだ」と僕は言った。「それで筋がとおっている。たぶんそれが鍵だろう。でも大事なリンクがひとつ抜けている。僕には唄というものをひとつとして思いだすことができないんだ」
「唄じゃなくてもいいわ。その手風琴の音を少しだけでも私に聴かせてくれることはできる?」
「できるよ」と僕は言った。そして書庫を出てストーヴのわきにかかったコートのポケットから手風琴をとりだし、それを持って彼女のとなりに座った。両方の手をパネルについたバンドにはさみ、いくつかのコードを弾いてみた。
「とてもきれいな音だわ」と彼女は言った。「その音は風のようなものなの?」
「風そのものさ」と僕は言った。「いろんな音のする風を作りだして、それを組みあわせているんだ」
 彼女はじっと目を閉じてその和音の響きに耳を傾けていた。
 僕は思いだせる限りのコードを順番に弾いてみた。そして右手の指でそっと探るように音階を押さえてみた。メロディーは浮かんでこなかったが、それはそれでかまわなかった。僕はただ風のようにその手風琴の音を彼女に聴かせればいいのだ。僕はそれ以上のものは何ひとつとして求めないことに決めた。僕は鳥のように心をその風にまかせればいいのだ。
 僕には心を捨てることはできないのだ、と僕は思った。それがどのように重く、時には暗いものであれ、あるときにはそれは鳥のように風の中を舞い、永遠を見わたすこともできるのだ。この小さな手風琴の響きの中にさえ、僕は僕の心をもぐりこませることができるのだ。
 建物の外を吹く風の音が僕の耳に届いたような気がした。冬の風が街を舞っているのだ。その風は高くそびえる時計塔を巻き、橋の下をくぐり抜け、川沿いに並ぶ柳の枝をなびかせているのだ。森の木々の枝を揺らし、草原を吹き抜け、工場街の電線に音をたて、門に打ちつけているのだ。獣たちはその中で凍え、人々は家の中で息をしのばせているのだ。僕は目を閉じて街の様々な風景を頭の中に思い浮かべてみた。川の|中《なか》|洲《す》があり、西の壁の望楼があり、森の発電所があり、老人たちが腰を下ろしている官舎の前の日だまりがあった。川の|淀《よど》みでは獣たちが身をかがめて水を飲み、運河の石段には夏の青い草が風に揺れていた。彼女と二人で行った南のたまり[#「たまり」に丸傍点]をはっきりと思いだすこともできた。発電所の裏の小さな畑や、古い兵営のある西の草原や、東の森の|壁《かべ》|際《ぎわ》に残っていた廃屋と古井戸のことも覚えている。
 それから僕はここで出会った様々な人々について考えてみた。隣室の大佐や、官舎に住む老人たち、発電所の管理人、そして門番——彼らは今おそらくそれぞれの部屋の中で、外を吹きあれる雪まじりの風の音に耳を澄ませているのだろう。
 僕はそんな風景のひとつひとつ、そんな人々の一人一人を永遠に失おうとしている。それからもちろん彼女もだ。しかし僕はおそらくいつまでも、まるで昨日のことのようにこの世界とそこに住む人々のことを覚えているだろう。もしこの街がたとえ僕の目から見て不自然で間違っているにせよ、そしてここに住む人々が心を失っているにせよ、それは決して彼らのせいではないのだ。僕はあの門番をさえきっと|懐《なつか》しむことだろう。彼もやはりこの街の強固な鎖の輪にくみこまれたひとつの断片にすぎないのだ。何かが強大な壁を作りあげ、人々はただそこに|呑《の》みこまれてしまっただけのことなのだ。僕はこの街の中のすべての風景と人人を愛することができるような気がした。僕はこの街にとどまることはできない。しかし僕は彼らを愛しているのだ。
 そのとき何かがかすかに僕の心を打った。ひとつの和音がまるで何かを求めているように、ふと僕の中に残った。僕は目を開けてそのコードをもう一度おさえてみた。そして右手でそのコードにあった音を探してみた。長い時間をかけて、僕はそのコードにあった最初の四音をみつけだすことができた。その四つの音はまるでやわらかな太陽の光のように、空からゆっくりと僕の心の中に舞い下りてきた。その四つの音は僕を求め、僕はその四つの音を求めていた。
 僕はそのひとつのコード・キイをおさえながら、何度も四つの音を順番に弾いてみた。四つの音は次のいくつかの音とべつのコードを求めていた。僕は先にべつのコードの方を探してみた。コードはすぐにみつかった。メロディーを探すのには少し手間がかかったが、最初の四音が僕を次の五音に導いてくれた。そしてまたべつのコードと三音がやってきた。
 それは唄だった。完全な唄ではないが、唄の最初の一節だった。僕はその三つのコードと十二音を何度も何度も繰りかえしてみた。それは僕がよく知っているはずの唄だった。
『ダニー・ボーイ』
 僕は目を閉じて、そのつづきを弾いた。題名を思いだすと、あとのメロディーとコードは自然に僕の指先から流れでてきた。僕はその曲を何度も何度も弾いてみた。メロディーが心にしみわたり、体の|隅《すみ》|々《ずみ》から固くこわばった力が抜けていくのがはっきりと感じられた。久しぶりに唄を耳にすると、僕の体がどれほど心の底でそれを求めていたかということをひしひしと感じることができた。僕はあまりにも長いあいだ唄を失っていたので、それに対する飢えさえをも感じとることができなくなってしまっていたのだ。音楽は長い冬が凍りつかせてしまった僕の筋肉と心をほぐし、僕の目にあたたかいなつかしい光を与えてくれた。
 僕はその音楽の中に街そのものの息づかいを感じることができるような気がした。僕はその街の中にあり、その街は僕の中にあった。街は僕の体の揺れにあわせて息をし、揺れていた。壁も動き、うねっていた。その壁はまるで僕自身の皮膚のように感じられた。
 僕はずいぶん長いあいだその曲を繰りかえして弾いてから楽器を手から離して床に置き、壁にもたれて目を閉じた。僕は体の揺れをまだ感じることができた。ここにあるすべてのものが僕自身であるように感じられた。壁も門も獣も森も川も風穴もたまり[#「たまり」に丸傍点]も、すべてが僕自身なのだ。彼らはみんな僕の体の中にいた。この長い冬さえ、おそらくは僕自身なのだ。
 僕が手風琴をはずしてしまったあとでも、彼女は目を閉じて、僕の腕を両手でじっと握りしめていた。彼女の|瞳《ひとみ》からは涙が流れていた。僕は彼女の肩に手を置いて、その瞳に|唇《くちびる》をつけた。涙はあたたかく、やわらかな湿り気を彼女に与えていた。ほのかな優しい光が彼女の|頬《ほお》を照らし、彼女の涙を輝かせていた。しかしその光は書庫の天井に|吊《つる》された薄暗い電灯のものではなかった。もっと星の光のように白く、あたたかな光だ。
 僕は立ちあがって天井の電灯を消した。そしてその光がどこからやってくるのかをみつけることができた。頭骨が光っているのだ。部屋はまるで昼のように明るくなっていた。その光は春の陽光のようにやわらかく、月の光のように静かだった。|棚《たな》の上に並んだ無数の頭骨の中に眠っていた古い光が今|覚《かく》|醒《せい》しているのだ。頭骨の列はまるで光を細かく割ってちりばめた朝の海のように、そこに音もなく輝いていた。しかし僕の目は彼らの光を前にしても、もう何の|眩《まぶ》しさをも感じることはなかった。光は僕にやすらぎを与え、僕の心を古い思い出がもたらすあたたかみで|充《み》たしてくれた。僕は僕の目が既に|癒《いや》されていることを感じることができた。もう何ものも僕の目を痛めつけることはできないのだ。
 それは素晴しい|眺《なが》めだった。あらゆるところに光が点在していた。透きとおった|水《みな》|底《そこ》に見える宝石のように彼らは約束された沈黙の光を放っていた。僕は頭骨のひとつを手にとって、指先でその表面をそっとなぞってみた。そして僕はそこに彼女の心を感じとることができた。彼女の心はそこにあった。それは僕の指先に小さく浮かんでいた。その光の粒のひとつひとつは|微《かす》かなあたたかみと光しかもたなかったが、それは|誰《だれ》にも奪いとることのできないあたたかみと光だった。
「あそこに君の心がある」と僕は言った。「君の心だけが浮きだして、あそこに光っているんだ」
 彼女は小さく|肯《うなず》いて、それから涙に|濡《ぬ》れた目でじっと僕を見つめた。
「僕は君の心を読むことができる。そしてそれをひとつにまとめることができる。君の心はもう失われたばらばらの断片じゃない。それはそこにあって、もう誰にもそれを奪いとることはできないんだ」
 僕はもう一度彼女の目に唇をつけた。
「しばらくここで一人にしておいてほしい」と僕は言った。「朝までに君の心を読みとってしまいたいんだ。それから少し眠る」
 彼女はもう一度肯いて光り輝く頭骨の列を眺めわたし、それから書庫を出ていった。ドアが閉まると、僕は壁にもたれて頭骨にちりばめられた無数の光の粒をじっといつまでも見つめていた。その光は彼女の抱いていた古い夢でもあり、同時に僕自身の古い夢でもあった。僕は壁に囲まれたこの街の中で長い道のりを|辿《たど》ってやっとそれにめぐりあうことができたのだ。
 僕は頭骨のひとつをとり、それに手をあててそっと目を閉じた。
 
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