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八墓村-第一章 尋ね人(6)

时间: 2022-05-31    进入日语论坛
核心提示:そうかもしれぬ。いや、当然そうあるべきはずだった。このような奇怪な手紙を受け取って、驚かぬものが世にあるだろうか。私の胸
(单词翻译:双击或拖选)

そうかもしれぬ。いや、当然そうあるべきはずだった。このような奇怪な手紙を受け取って、驚かぬものが世にあるだろうか。私の胸はあやしく乱れ、全身からねっとりと気味の悪い脂汗がふき出す感じだったが、強しいて平静をとりつくろうと、物問いたげな細君の眼をさけるようにして、それから間もなくそそくさと、私は友人の家から出ていった。

幼いときから孤独になれた私は、めったなことでひとの意見をたたいたり、他人の同情にすがったりすることを好まぬのだ。自分はつねにひとりぼっちであるという意識は、母をうしなって以来、私の性質の底の底までしみとおっていて、どんな逆境にあっても、どんな災難をこうむっても、私はけっして愚痴をこぼして、ひとの同情をもとめようとは思わなかった。他人を信用しないのではないけれど、ひとにはそれぞれ思惑もあれば屈託もある。それをうっちゃらかしておいてまで、私の力になってくれるものはないであろう。……

ああ、この性癖……孤独癖からくる私のこの寂しい、しかし、見ようによってはしぶといとも見えるであろうこの性癖のために、その後私がどのように誤解され、どのような恐ろしい災難をこうむらねばならなかったか……むろん私はその時分、そんなことを知る由もなかったのだ。

それはさておきこの手紙が、どんなに私を動転させたか、諸君にもわかっていただけることと思う。

八つ墓村──私がこの奇妙な、まがまがしい名前に接したのは、実にそのときがはじめてだった。八つ墓村──その名前からしてすでに、ひとを脅かすのに十分だのに、そこにはさらにさまざまな、異様な脅し文句が書きつらねてあるではないか。八つ墓明神のお怒り……血! 血! 血だ!……二十六年まえの大惨事……八つ墓村は血の海と化すであろう。……

いったいこれはどういう意味なのだ。この手紙を書いた人物の真意はいったいどこにあるのだ。わからない。私にはなにもわからないことばかりだった。そしてわからないだけにいっそう無気味なのだ。

ただわかっていることは、この手紙もまた、このあいだの尋ね人の一件と、関係があるらしいことである。してみると、諏訪弁護士が私を発見して以来、少なくともふたりの人間が、急に私というものに、関心を払いはじめたことになる。あちらこちらで私の身元性癖を調べまわっている男と、この手紙のぬしと。……

いや!……と、そこで私は急に気がついて立ちどまった。ひょっとすると、そのふたりは同じ人物ではあるまいか。すなわち、私のことを尋ねまわっている男が、この手紙を書いたのではあるまいか。私はそこでもう一度、ポケットのなかから例の手紙を取り出してみた。そしてずいぶん念入りに、消印のところを調べてみたのだけれど、残念ながらインキがかすれて、消印の文字も読めなかった。

それはさておきその朝の私は、思い惑い、ほとんど途方にくれる気持ちだったので、幾台かの満員電車に乗りそこない、やっと社へ駆けつけたのは、定時から半時間もおくれた九時半ごろのことであった。ところが私が社へつくとすぐに給仕が、課長さんが呼んでいると教えてくれた。そこで私がまっすぐに課長の部屋へ入っていくと、課長は上きげんで、

「やあ、寺田君、待っていたよ。実はさっき諏訪法律事務所から電話がかかってね、すぐきみに来てくれというのだ。どうやらいよいよ父子対面ということになるらしいぜ。きみ、金持ちの親父さんが見つかったら、一度われわれをおごらなきゃいけないぜ。はっはっは。おや、どうしたんだい、なんだか顔色が悪いじゃないか」

それに対して私がなんと答えたか覚えていない。何か答えたとしても、それはおそらく意味をなさない言葉だったろうと思う。妙な顔をしている課長をあとにのこして夢遊病者のように私はフラフラと社から出ていった。そしていよいよ、恐怖と戦せん慄りつの世界へ一步ふみ出していったのである。

 

第一の殺人

 

それから間もなく私の直面した出来事を、どういうふうに書いていってよいのか私にはわからない、私にもしすばらしい筆力があるならば、この場面をもって物語の最初のヤマ場とすることができるだろう。

しかし、私にはとてもそれだけの筆力はないし、事実またその出来事は、裏面の恐ろしさはともかく、表面はしごくあっけなく行なわれたのである。そのとき私がぼんやり感じたところを正直に打ち明けると、なんだこれが人間の死なのか、してみると、人間の命なんてなんともろいものであろうか……というような、まことにたあいのない感じであった。もっとも、のちになるほど、恐ろしさがこみあげてきたけれど。……

それはさておき、私が諏訪法律事務所へ駆けつけたとき、そこにはひとりの先客があった。

その人は胡ご麻ま塩頭を丸坊主にして、軍隊からの払い下げらしい、カーキ色の兵隊服を着ていた。みごとに渋紙色に染めあげられた顔色といい、ゴツゴツと節くれ立って、煙草の脂やにに染まった指といい、どう見ても田舎のひとである。そして友人の細君同様、私にも田舎のひとの年輩は見当がつきかねたが、たぶん六十から七十までのあいだだろう。

その人はいかにも窮屈そうに事務所の安楽椅い子すに座っていたが、私の姿を見ると、ギクリとしたように腰をうかして、弁護士のほうをふりかえった。その動作からして本能的に、私はこの人こそ、私を探している人──あるいは探している人に関係のある人物だろうと推察した。

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