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八墓村-大団円(1)

时间: 2022-06-19    进入日语论坛
核心提示:搜索复制大団円以上で私はすべてのことを語りつくしたつもりだが、なお、苦労性の読者のために、二、三蛇だ足そくを付け加えてお
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大団円

 

以上で私はすべてのことを語りつくしたつもりだが、なお、苦労性の読者のために、二、三蛇だ足そくを付け加えておくことにしよう。

大判は二百六十七枚あった。美也子の手文庫から発見された三枚を加えると二百七十枚だ。少し半端な数ではあるが、ひょっとすると「竜の顎」で、白骨になっていたお坊さんの相棒が、いくらか持ち出したのかもしれぬ。さて、大判の目方と金の含有量は、まえに書いておいたから、二百六十七枚の大判が、時価いくらになるか、物好きな読者は計算してみられるのも一興だろう。

それはさておき、あの日、私は慎太郎にむかって、田治見家相続の辞退を申し出た。理由として自分がだれの子であるかわからぬということを挙げた。慎太郎は黙って私の顔を見ていたが、やがて首を左右にふると、

「それはいけないよ、辰弥君。きみのようなことをいえばだれだってそうだ。世のなかに自分の父はだれだとハッキリといいきれる人物があるだろうか。それを知っているのは母親だけだ。いや、母親だってわからぬ場合があるかもしれんぜ」

そこで私は、屏風の中から発見した、亀井陽一の写真を出してみせた。

「兄さん、これを御覧ください。これでもなおかつ、ぼくに田治見家を相続するほどの、クソ度胸があるとお思いですか」

慎太郎は黙ってその写真と私の顔を見くらべていたが、いきなり私の手を握った。ずいぶん剛ごう毅きな男だけれど、そのときばかりは、眼に白いものが光っていたようだ。

慎太郎はいま八つ墓村に、石灰工場を建てるのだといって夢中になって奔走している。そのへんいったい、石灰の原料となる石灰岩が、無限に埋蔵されているので、事業は非常に有望だと、専門家も太鼓判をおしているそうだ。それについて慎太郎は私にこういった。

「この村に新しい事業が起こり、近代的技術を身につけた人間が、おおぜいいりこんでくるようになったら、村の人たちのものの考えかたも、いくらか変わってくるだろう。それ以外に、このいまいましい村の、迷信ぶかい人たちの考えかたを矯正きょうせいする方法は見当たらない。そういう意味でも、私はこの事業を成功させねばならないのだ」

それからまた、別の機会に慎太郎はこんなこともいった。

「辰弥君、私は生涯しょうがい結婚しないだろう。それは美也子に対する義理などではなく、私のような経験を持った男が、女性に対して懐疑的になり、臆病になるのも無理ではなかろう。だから、きみたち、きみと典子はたくさん子どもを産んでくれ。きみたちのあいだに生まれた二番目の男の子を、私はもらって田治見家の相続人にしたい。そうすることによって、不幸だったきみのお母さんにも義理が立ち、また、きみをこの家の相続人にしようとした、久弥君の遺志にも、添うことができると思う。辰弥君、このことだけはいまから約束しておいてくれたまえ」

さて、私は姉の百か日をすませて神戸へたつことにしていた。神戸の西郊には諏訪弁護士が、私たち夫婦のために新居をかまえて待っていてくれるのである。世の中は妙なもので、あの黄金発見の顛てん末まつが新聞に出るとあちこちから借金の申し込みも、降るようにあったが、それと同時に、金を貸そうという申し込みも少なくなかった。これでみると、貧乏人には金の貸し手はひとりもないが、金持ちにはいくらでも金を貸したがる連中があるらしい。

神戸の新居へは父にも同伴をすすめたが、父は固辞してうけなかった。

「私には老師をみとらねばならぬ義務がある。それに若夫婦の中へこの老人がわりこんではどうであろうか。いずれ足腰が立たなくなったら、やっかいになることがあるかもしれぬが、それまでは非ひ業ごうに死んだ人々の冥めい福ふくをいのって暮らしたい」

さて、私は亡姉に対するせめてもの手た向むけとして、この家の棟むねの下では、けっして典子と夫婦の語らいをすまいと決心していた。そのことは典子も承知していたのだが、あと二、三日で百か日というある日、典子が私の耳もとにあることをささやいた。

私は愕然とした。

私はある確信を持っていたのだ。私の生命の最初のいぶきが、母の胎内に芽生えたのは、あの洞窟の中にちがいないと。同じことが典子の胎内に起こったのである。たった一度の経験で。……繰りかえす細胞の歴史は執しつ拗ようである。

私は強く典子を抱きしめてやった。そして、近く生まれるであろうこの新しい生命には、けっして自分のなめてきたような、みじめな半生をあたえまいと誓った。

 

本書中には、今日の人権擁護の見地に照らして、不当.不適切と思われる語句や表現がありますが、作品発表時の時代的背景と文学性を考え合わせ、著作権継承者の了解を得た上で、一部を編集部の責任において改めるにとどめました。(平成八年九月)

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