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八墓村-第八章 絶体絶命(13)

时间: 2022-06-19    进入日语论坛
核心提示:「さて、こうしてだいたい動機もわかり、犯人もわかったものの、いったいぼくにどういううつ手がありましょう。そこにはこれとい
(单词翻译:双击或拖选)

「さて、こうしてだいたい動機もわかり、犯人もわかったものの、いったいぼくにどういううつ手がありましょう。そこにはこれという決め手はひとつもなかった。美也子慎太郎(そのころぼくはそう思っていたのですが)を告発する材料はなにもなかった。そこでぼくは待つよりほか手がなかったのです。犯人はいずれ早晚春代さんに手をのばすのにちがいない。それをとっておさえたら……と、そう考えていたのだが、おっと、どっこい、犯人のほうがはるかに上手だったのです。ぼくは思うのですが、美也子さんの考えでは、久野先生の亡なき骸がらは、なかなか発見されまいとたかをくくっていたのではないか、すなわちすべての罪を久野先生になすりつけるつもりではなかったかと。久野先生がみんなを殺し、行方をくらましたのだと思わせようとしたのではないかと。──半年も一年もたってあの屍骸が発見されたところで、白骨になっていることだから、小梅様とどっちがさきに死んだかわかるはずがない。いやいや、小梅様のあとで春代さんを殺しても、それもやっぱり久野先生の仕業だと思わせることができると思っていたのでしょう。すなわち、久野先生は失踪後、ある期間洞窟の中で生きていて、小梅様を殺し、春代さんを殺し、その後、洞窟の奥ふかく逃げこんで、みずからあの殺人連名を胸において、自殺したのだと、そう思わせることができると思っていたのではないでしょうか。ところがぼくが──ぼくは小梅様の屍骸のそばから、久野先生の鳥打帽が発見された瞬間、先生はすでに死んでいるにちがいないと思ったのですが──強硬に洞窟内の捜索を主張したものですから、急に計画を変更せざるをえなくなった。なぜといって、いま久野先生が発見されては、小梅様よりさきに死んでいることがすぐわかるし、春代さん殺しの罪をなすりつけるわけにはいきません。そこで新しく罪ざい業ごう転嫁の対象として選ばれたのが辰弥さん、あなたなのです」

そのことは、私もうすうす気がついていたのだけれど、金田一耕助に改めて指摘されると、いまさらのように冷たい戦慄が背筋をつらぬいて走るのを、おさえることができなかった。

金田一耕助は暗い眼をして、

「いやいや、久野先生の死体発見のことがなくても、美也子さんはいつかあなたを、片づけてしまうつもりだったのです。おそらくはじめてあなたを神戸まで迎えにいったときから、いずれ生かしてはおかぬと考えていたのでしょう。そうそう、美也子さんはこんなことをいってましたよ。春代さんを殺したとき、あの人の持っていた弁当に、毒を仕込んでおくつもりだったと。そうしておけば、あなたが犯人であり、すべてを決行したのちに、絶体絶命となって、毒を仰いで自殺したのだ、ということになるだろうと思っていたのです。ところが、意外に早くあなたが馳はせつけてきたために、そのひまがなかったのだと打ち明けましたよ」

私はまた、恐ろしい戦慄が、背筋をつらぬいて走るのを禁じえなかった。ああ、私はどっちへころんでも、生きていられぬように仕組まれていたのだ。私がいまこうして生きているのは、まったく奇跡みたいなものである。

金田一耕助はいよいよ暗然たる表情をして、

「だが、辰弥君をそこへおいこむまえに、美也子さんは恐ろしい策略をめぐらした。しかも、美也子さんはそれを非常にうまくやったんです。警察へ密告状を出したり、役場のまえに貼り紙をしたり……そうです、みんな美也子さんの仕業でした。辰弥さん、最初あなたに、絶対にこの村へ帰ってはならぬという変な密告状を送ったのも、やっぱりあのひとなんですよ。それでいて自分であなたを迎えにいっているのだから、その点だけでもあなたが絶対にあのひとを、疑えなかったのも無理はないのです。さて、警察へ密告状を出したり、役場のまえに貼り紙したりしながら、一方において、たくみに単純な農民諸君を扇動していったのです。美也子さんは口では、けっしてあなたを怪しいなどとはいわなかった。しかし、それ以上のゼスチュアをもって、自分も辰弥が犯人であると思っているということを、周吉や吉蔵に信じこませたのです。そして、とうとうあの暴動が突発したというわけです」

金田一耕助はため息をついて、

「私がさっき、相手のほうが上手だったといったのはこのことです。暴動──だれがこんな事態を予期しましょう。実際、あのときの自分のことを考えると、われながら愛想がつきる。周章狼ろう狽ばいなすところを知らず、ハラハラ、オロオロ、テンヤワンヤと、てんてこまいをしているうちに、まんまと春代さんが殺されてしまったんです。この事件で、私にいいところはひとつもなかったというのは、ここのところをいうのですよ」

金田一耕助は、憮ぶ然ぜんとして口を閉じたが、しばらくして、嘆息するようにこうつぶやいた。

「恐ろしい女でしたな。すごい女でしたな。昼は美び貌ぼうと才気であらゆる男を魅了しながら、夜はうば玉の闇の衣を身にまとい、殺人鬼となって、洞窟の奥から奥へと彷ほう徨こうする。天才的毒殺魔であると同時に、天才的殺人鬼でもあったわけです。ああいうのを女にょ妖ようというのでしょうか」

だれもそれに返事をする者はなかった。息苦しい沈黙がわれわれの周囲を囲繞いにょうする。その沈黙を破って私が卒然として叫んだ。

「いったい美也子はどうしたんです。その後どうなったのです。だれもぼくにいってくれない。美也子はその後いったい、どうしたんです」

一瞬、ひとびとはしいんと鎮まりかえって、互いに顔を見合わせていた。やがて金田一耕助が、のどにからまる痰を切りながらたったひとこと。

「美也子は死にましたよ」

「死んだ? 自殺したのですか?」

「いいえ、自殺ではありません。それは恐ろしい死にかたでしたよ。辰弥さん、春代さんと美也子は相討ちでしたよ。春代さんに噛まれた傷がもとで、美也子さんは死んだのだから。それはもう、何んともいえぬ凄せい惨さんな最期でした。あの美しいひとが、全身紫色にはれあがり、骨肉をくいあらす苦痛にのたうちまわりながら、最期の息をひきとったのです」


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