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八墓村-第一章 尋ね人(7)

时间: 2022-05-31    进入日语论坛
核心提示:「やあ、いらっしゃい。お待ちしていましたよ。さあ、どうぞ、そこへお掛けなさい」諏訪弁護士はあいかわらず如才がなかった。デ
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「やあ、いらっしゃい。お待ちしていましたよ。さあ、どうぞ、そこへお掛けなさい」

諏訪弁護士はあいかわらず如才がなかった。デスクのまえの椅子を指しながら、

「ずいぶん待ちくたびれたでしょう。私もね、できるだけ早く吉報をお知らせしたいと思ったのですが、なにしろちかごろは電報でも郵便局でも手間取りましてね。やっと最近打ち合わせが終わったものですから……御紹介しましょう」

弁護士は安楽椅子の老人をふりかえると、

「こちらは井い川かわ丑うし松まつさんといって、あなたのお祖じ父いさん……亡くなられたあなたのお母さんのお父さん、つまり母方の祖父にあたる方ですね。井川さん、こちらがいまお話しした辰弥さん、鶴子さんの息子さんですよ」

私たちは椅子からちょっと腰をうかして、ただ簡単に目礼を交わしただけだった。目礼がすむと私たちは、すぐに視線をそらしてしまった。祖父と孫の初対面としては、まことにあっけないものだったが、事実はつねにかくのとおりのものなのだ。新派悲劇のようにはなばなしくはいかないものだ。

「さて、あなたを探し出して引き取ろうというひとですがね、それはこの御老人ではないのですよ」

祖父の風体のあまり金持ちらしくも見えないところから私が失望しやあしないかとでも思ったのであろう。弁護士は急いで言葉をつぐと、

「むろん御老人だって人情としてあなたのことを気にかけていられないことはなかったでしょうが、こんどはただ使者に立たれただけで、ほんとうにあなたを探しているのは、お父さんの親戚のかたなのです。ここで手っ取り早く、あなたの本姓をおしらせしておきましょう。あなたの本当の姓は田治見……。つまりあなたは田治見辰弥というのがほんとうの名前なんですね」

諏訪弁護士はデスクのうえのメモを繰りながら、

「ところであなたのお父さん……亡くなられた要蔵さんというかたには、あなたのほかに二人の子どもがあった。久弥さんに春代さんといって、あなたにとっては腹ちがいの兄さん姉さんにあたるかたですね。久弥さんも春代さんももう相当の年齢に達していられるのですが、おふたりとも体が弱くてまだ独身でいらっしゃる。いや、春代さんのほうはわかいころ、一度かたづいてもどってこられたのでしたかね」

祖父は無言のままうなずいた。その人は初対面の目礼を交わしたのちは、ずっとうつむいたきりだったが、それでもときどき顔をあげては、ぬすむように私の横顔を見ていた。そしてその眼がしだいにぬれてくるのに気がついたときには私も胸を打たれずにはいられなかった。

「さてそういうわけで久弥さんにも春代さんにも、いくいく子宝を恵まれる希望がないわけで、そうなると由緒ある田治見の嫡流ちゃくりゅうは絶えてしまう。それを心配なすったのがあなたの大伯母にあたるかた、つまり、要蔵さんの伯母さんにあたるひとですが、この伯母さんはふたりあって、小こ梅うめさんに小こ竹たけさんといって双生児なんです。おふたりとも、むろんずいぶんの御高齢なんですが、まだしっかりとしていられて、田治見家のいっさいの采さい配はいをふるっていらっしゃる。そのひとたちが相談のあげく、小さいときお母さんとともに行方不明になったあなたを探し出して、田治見の家をつがせよう……と、いうのがだいたいの事情なのです」

私の胸はしだいに大きく波打ってくる。それはなんとも名状することのできない感情であった。喜びか、悲しみか……いやいや、まだまだそのように、割り切れた感情に達するまでには遠いのだ。ただ、もうわけのわからぬ惑乱に私の心は圧倒されそうであったのだ。それに、以上の説明だけでは、まだまだ私には納得のいきかねるところもあった。

「と、まあ、だいたい以上のような事情なんですが、詳しいことはいずれ御老人からお話があると思います。ところで差しあたって何か御質問がありますか。私にお答えできることならなんなりと……」

私は大きく呼吸をすると、いちばん気になることから切り出した。

「私の父というひとは亡くなったのですか」

「ええ、まあね、だいたいそういうことになっています」

「だいたい……? だいたいというのはどういう意味ですか」

「いやあ、それは……そこんところはいずれ御老人から、改めてお話があると思いますが、だいたい、あなたが二つのときにお亡くなりになったと、まあ、それくらいで勘弁してください」

私の心は怪しく乱れたが、しかし、それ以上突っ込むわけにもいかなかった。それにいずれその話は祖父から聞かせてもらえるというのだ。そこで私は第二の質問を切り出した。

「それでは私の母ですが、母はなぜ私をつれて出奔したのですか」

「いや、それはごもっともな質問ですが、ここではちょっと……そのこととお父さんの死と、深い関係があるのですが、いずれそれらの事情はひっくるめて、御老人からお話があると思います。何かほかに御質問はありませんか」

大事な質問を二つまで外されて、私は少なからず不満だったが、同時にまた、私の心はいよいよ怪しく思い乱れた。

「それではもうひとつお尋ねします。私は今年二十七になります。それまでついぞ自分の肉親について知らなかったし、あなたがたのほうでも私を探そうとはなさらなかった。それになんだっていまになって、急に私を探しはじめたのです。さっきのお話でだいたいわかったようにも思いますが、なんだかまだ腑ふに落ちないところがあるのです。いまうかがった事情のほかに、なにかもっと、別のさしせまった動機があるのではないのですか」

弁護士と祖父とはすばやい眼配せを交わしたようであったが、やがて、弁護士はつくづくと私の顔を見直して、

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