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八墓村-第五章 鎧よろいの中(5)

时间: 2022-06-11    进入日语论坛
核心提示:その晚も例によって姉の春代は、小梅様と小竹様のあいだに入って寝ていたが、ふたりの大伯母が春代の頭越しにかわすヒソヒソ話に
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その晚も例によって姉の春代は、小梅様と小竹様のあいだに入って寝ていたが、ふたりの大伯母が春代の頭越しにかわすヒソヒソ話にふと眼をさました。しかし、なんとなくふたりの大伯母たちの話しぶりが、あたりをはばかる様子なので、寝たふりをしたまま、聞くともなしに聞いていると、まず毒という言葉が耳についた。それからいつまでもこんなことはつづけていられないだの、つかまったら死刑にきまっているだの、あいにくあの様子ではなかなか死にそうもないだの、またあばれ出したら大騒動じゃだの、そんな話がきれぎれに聞こえて最後に、いっそお弁当に毒を仕込んで……そういう言葉が耳に入ったときには、姉の春代もあまりの恐ろしさに全身汗ビッショリだったという。

「子どものときにふかく心に彫りつけられた事柄は、生涯忘れるものではありません。わたしはいまでもあのときの、伯母さまがたの話を思い出すと、なんともいえぬほど、恐ろしい思いがするのです」

姉は恐ろしそうに肩をふるわせると、襦じゅ袢ばんの袖でそっと涙をおさえた。姉のこの話の恐ろしさは、十分私の胸にもしみた。私は腰から下が、氷のように冷えていくのをおぼえた。

「姉さん、姉さん、そうすると伯母さまがたはあの事件のあとしばらく、父をあの地下道にかくまっていたというのですか」

「いまになってみるとそうとしか思えません。伯母さまがたはきっと食事をはこんでいたんでしょう」

「そして、とうとう、毒をのませて……」

「辰弥さん、よしんばそうだったとしても、伯母さまがたを悪く思っちゃいけませんよ。伯母さまがたは家名を考え、世間体を考え、また父のためを考えて、きっとそうなすったにちがいありませんわ。父は伯母さまがたの秘蔵っ子でした。眼の中へいれても痛くないほど、伯母さまがたは父を大事にしていたのです。その父に毒をのませて……そのときの伯母さまがたの御心中をお察しすると、お気の毒でなりません」

この家にまつわる恐ろしい悪因縁を考えると、私は慄りつ然ぜんたらざるをえなかった。

おそらくこれは姉の推量どおりなのであろう。小梅様と小竹様は、家名を思い、世間体を考え、さらにまた捕らえられたときの父のなりゆきを思いはかって、ひそかに死にいたらしめたにちがいない。そしてそのことは、父にとっても慈悲ぶかい処置だったろう。しかし、それにもかかわらず、私はなんともいえぬドスぐろい思いに、胸をふさがれずにはいられなかった。

「姉さん、わかりました。ぼくもこのことはけっしてだれにもしゃべりません、典子さんにもかたく口止めしておきます。姉さんももうこのことは忘れておしまいなさい」

「ええ、そうしましょう。どうせこれは、ずうっと昔のことですから……ただ、わたしの心配しているのは、このことと、ちかごろのあの毒殺騒ぎと、何か関係があるのじゃないかと思って……」

私はドキッとして、姉の顔を見直した。

「姉さん、それじゃあなたは伯母さまがたが……」

「いいえ、いいえ、そんなことのあるべきはずはないけれども、久弥兄さんの死んだときのことを思い出すと……」

その父を毒殺した双生児の二人が、またその息子を殺したのではあるまいかという疑いは、姉としては無理のないところかもしれなかったし、それにああいう高齢に達した老婆というものは、どこか人間ばなれがしていて、ものの考えかたにも、常識では測り知れないようなところがあった。姉はそれを恐れているのだ。

「姉さん、そんな馬鹿なことはありませんよ。それはあなたの思い過ごしというものです。それより姉さん、あの抜け孔ですがね。どうしてあんなものがこの家にはあるんです」

「ああ、あれ……わたしも詳しいことは知らないけれど、なんでもこの家の先祖のひとりに、たいそうきれいな女のひとがあって、御領主様のお城へ御奉公にあがったところ、お殿様のお手がついたのだそうです。それがなにかむずかしい事情があって、お城をさがらねばならなくなったんだそうですが、お殿様のほうではそのかたを忘れかねて、ときおり、この屋敷へお忍びで来られたそうです。この離れもそのために建てましたのだということですから、あの抜け孔なども万一の用意のために造っておいたのではないでしょうか。でも、辰弥さん」

「はい」

「あなたはもう、あんなところへ入るのはおよしなさいね。またなにか、悪いことがあるといけないから」

「はあ、よします」

姉を安心させるために、私はキッパリそういいきったが、むろん、よす気などは毛頭なかった。

ひとつの疑問が解けたと思うと、またそこから新しい疑問が芽生えていく。小梅様と小竹様の奇怪な仏参のなぞはとけたが、そこからまた変質しない死体のなぞと、猿の腰掛の疑問がうまれてきたのだ。いったい、地下迷路の地図などが、どうして私の守り袋に入っていたのか。亡くなった母の言葉によると、それが私に幸福をもたらすかもしれないということだったが、あの変てこな地図や御詠歌に、どうしてそんな効能があるのだろうか。

それはさておき、その晚はほかの話にかまけて、私はとうとうあの地図のことを、姉に切り出す機会をうしなった。しかも、姉はその晚から、高熱を出してどっと寝ついてしまったので、しばらく私はそのほうのことはあきらめなければならなかった。


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