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八墓村-第五章 鎧よろいの中(6)

时间: 2022-06-11    进入日语论坛
核心提示:姉が熱を出したのは、やはりあの地下道でうけたショックが原因だった。その証拠には姉はときどき熱にうかされ、鎧がどうのとか、
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姉が熱を出したのは、やはりあの地下道でうけたショックが原因だった。その証拠には姉はときどき熱にうかされ、鎧がどうのとか、お父さん、お父さんとか口走った。そのことから、あの地下道の秘密が露見しやあしないかと恐れたのと、もうひとつには、なんといってもこの家では、私にとっていちばん大事な姉なのだ。だから、その当座、昼も夜も私は姉の枕元につききりで介抱した。姉もまた、私の姿が見えないと、心細がってすぐにお島を探しによこした。そして片時もそばから離さなかった。

小梅様と小竹様も心配して、おりおり枕元に顔を見せた。姉の病気を聞きつたえて、慎太郎や典子も見舞いに来た。典子にはこういう状態だから当分会いに行けないというと、彼女はすなおにうなずいた。それから、あのことはけっしてだれにもしゃべらないから、お姉さまによくそういってほしいといいのこして帰った。美也子や久野のおばも見舞いに来た。久野のおばはまだ恒おじの行方がわからないと、蒼い顔をして元気がなかった。

こうして見舞いの客があるごとに、私がハラハラするのは、熱にうかされた姉のうわごとだった。それを取りつくろうためにも、私は姉の枕元をはなれることができなかった。こうして一週間ほど、姉の看護に心をうばわれているあいだ私は事件のことを忘れていたし、事件のほうでも、別に進展はなかったらしい。金田一耕助もその後、姿を見せなかった。

こうして瞬く間に十日という日が過ぎ去った。そして、そのころになって、姉の熱もだいぶ下がり、うわごともいわなくなった。一時は心臓が弱いから、あまり高熱がつづくようだと……と、新居先生も首をかしげていたのが、この分ならばと、保証してくれるようになった。私もやっと愁眉しゅうびをひらいたし、姉もまた感謝の思いをこめて「すみません、辰弥さんにはずいぶんわがままをいったわね。さぞお疲れになったでしょう。もう大丈夫だから、今夜から離れのほうへ寝てください」

と、いうようになった。

こうして久しぶりに離れへかえってきた私は、ずいぶん疲れていたことは疲れていたが、そのまま眠る気にはなれなかった。私は久しぶりに機会を得て、また、あの地下道へもぐりこんだのである。

私はこのあいだから、変質しない死体のなぞについて、ずいぶん頭脳をなやました。幸い田治見には百科事典があったので、その疑問を解こうとして、あちこちひっくりかえしてみたが、その結果、どうやらひとつの確信を得たのである。私はそれを確かめようと、地下道へもぐりこんだのだ。

幸いその夜はひとにも出会わず、だれにおびやかされることもなく、無事に龕がんまでたどりついた。私は龕の上によじのぼり、もう一度屍し体たいをあらためたのち、いよいよ確信を強めたのである。

その屍体は屍し蝋ろうになっているのである。百科事典の説くところによると、屍体が水分にとんだところに葬られた場合、屍体の脂肪が分解して脂肪酸を生じ、その脂肪酸が水中のカルシウムやマグネシウムと結合すると、水に不溶解性の脂肪酸カルシウムおよび脂肪マグネシウム、すなわち石けんに化成するというのである。つまり屍体は石けんになってしまい、長く原形のままで残る。これを屍蝋というのだそうな。むろん、だれでもこうなるとは限らず、生来、脂肪分にとんでいる人から多くでき、かつまた、葬った場所が、カルシウムやマグネシウムにとんだ水分の多いところでなければならぬ。

おそらく父の体質と、父の葬られた場所がこういう条件に完全に合致していたのであろう。そして父は死後もながく、昔の形をくずさずに屍蝋と化してしまったのだろう。だがこのことが小梅様や小竹様を、どのように驚かせ、畏おそれさせたことだろうか。いつまでたっても腐敗せぬ父の屍体に、大伯母たちは神秘的な脅威を感じたにちがいない。あの世界に類例のない罪を犯したそのひとが、死後もまたこのような奇跡をあらわしたのだ。それに対する大伯母たちの畏い怖ふはどのようなものであったろうか。大伯母たちがその屍蝋に甲冑をきせ、ここにこうしてまつったのは、おそらく父を神とみたのであろう。

これだけのことを確かめると、私はやっと満足したが、しかし、まだまだ強い好奇心があったのだ。私はそっと父の屍体をとりのけると、石棺のふたをひらいて中をあらためたが、あとから考えると、このことが私の運命に、大きな変化をもたらしたのだ。

石棺の中には古い猟銃と一口の日本刀があった。それからこわれた三つの懐中電灯が入っていた。おお、これこそは八つ墓村の人々にとって、いまだに悪夢の種となっている、あの恐ろしい一夜のかたみではないか。私は思わずふるえあがった。そしてあわてて石棺にふたをしようとしたが、そのとき、ふと別のものが私の眼をひいた。はじめ私にもそれがなんであるか、よくわからなかったので、提灯の灯をさしつけてみると、それはチカリと金色に光った。私はあわてて棺の底からものをつまみあげた。

それは縦五寸、横三寸くらいの、四すみを落とした楕だ円えん形けいの金属で、手にとるとずっしりと持ち重りがした。そして片面には木目のような跡があり、片面はざらざらとした地肌だった。私は眼を見はって、しばらくそれを掌たなごころにのせ見つめていたが、突然、さっと背筋をつらぬいて走る戦せん慄りつを感じた。

ああ、これは黄金の板、すなわち大おお判ばんなのではないか。

私は急にガチガチと歯の鳴るのをおぼえた。全身がガタガタふるえ出した。わななく指でもう一度、私は棺の底をさぐってみた。

大判は三枚あった。

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