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八墓村-第五章 鎧よろいの中(8)

时间: 2022-06-11    进入日语论坛
核心提示:それはさておき、その晚、私はよく眠れなかった。かならずしも私は欲張っているのではない。第一、いまかりに私が、黄金何枚かを
(单词翻译:双击或拖选)

それはさておき、その晚、私はよく眠れなかった。かならずしも私は欲張っているのではない。第一、いまかりに私が、黄金何枚かをさがし出したところで、それが果たして法的に、自分の所有に帰するものかどうか私は知らぬ。それにもかかわらず、私があんなに興奮し、熱にうかされたのは、そこにあるロマンチックな興味に熱狂するのだ。埋められた財宝は人間にとって永遠に郷愁みたいなものであろう。「宝島」や「ソロモン王の鉱山」が、いまだに愛読されるのがその証拠だ。それらの小説では、むろん、途中の冒険がおもしろいのだが、それかといって、最後に宝を掘りあてなかったら、どんなにつまらないことだろう。

その翌日、私は姉の春代によっぽど地図のことを切り出そうかと思ったが、どうしてもうまく切り出せなかった。それは私の心にある野心がきざしてきたからだろう。あの地図が宝のありかを示すのでなく、単に地下の迷路を示すのだったら、もっと気安く、私も切り出すことができたろう。姉の無知につけこんで、大事なものをまきあげる。……そのうしろめたさが私に躊躇ちゅうちょを感じさせたのだ。それかといって、秘密をうちあける気にもなれなかった。宝探しはひとりに限る。秘密にやってこそおもしろいのだ。結局、その日はとうとう切り出す機会をうしなった。

たしか、その日だったと思う。久しぶりで金田一耕助がやってきたのは。──かれは姉の見舞いをのべたのちに、奇妙なことを打ち明けていった。

「今日はね、取り消しにあがったのですよ。ほらこのまえ来たとき、ぼくはこんなことをいったでしょう。濃茶の尼が殺されたのは夜十二時前後だったのに、久野先生はそれよりまえ、N駅を十時五十分に出る上り列車に乗っているから、この事件に関するかぎり、久野先生には完全にアリバイがあると。……ところがあれはまちがっていたんです」

「まちがっていたって?」

「あの晚、十時五十分に駅を出る汽車に乗ったのは、久野先生じゃなかったんです。ほかのひとだったんです。駅員がまちがったんですね。ときどき、こういうまちがいがあるから捜査もやっかいですよ」

金田一耕助はもじゃもじゃ頭をかきまわして、

「ところで、あの晚、久野先生が十時五十分の汽車に乗らなかったとすると、これはいったい、どういうことになるのでしょう。上りにしろ、下りにしろ、十時五十分に出る汽車がN駅の終列車だし、翌日の一番が出るまでには、警察の手がまわっている。だから、久野先生がどこへ逃げたにしろ、汽車を利用しなかったことだけはたしかなんです」

私は思わず眉をひそめた。

「しかし、汽車を利用しなかったとすると、いったい、どこへ行ったんでしょう。あれからもう十日もたっているのに……」

「ですからねえ、ぼくの考えではひょっとすると山へ逃げこんだんじゃないかと思うんです。二十六年まえの事件でも、犯人は山へ逃げこんだでしょう。そして、それきり行方がわからなくなったでしょう。だから、こんどの事件でも……」

そこで金田一耕助は、私の顔色のかわったのに気がついたのか、

「おや、どうかしたんですか。お顔の色が悪いですよ、ああ、そうか、これは失礼しました。二十六年まえの話は、あなたのまえでは禁物でしたね。いや、失敬、失敬」

金田一耕助は飄々ひょうひょうとしてかえっていった。あいかわらず私には、なんのためにかれがやってきたのかわからなかった。

その晚のことである。小梅様と小竹様に招かれて、私がふたたびお茶のふるまいにあずかったのは。

「辰弥や、このたびは御苦労じゃったえなあ。おかげで春代もどうやらようなりそうじゃ。これもみんなあんたのおかげぞな」

「ほんに、小梅さんのいうとおりじゃ。あんたがいなんだら、どうしようもないところじゃった。奉公人ではかゆいところへ、手がとどくというわけにはいかんえなあ」

双生児の小梅様と小竹様は、あいかわらず、猿のように小さな体をまるくして、巾着きんちゃくのような口をもぐもぐさせる。私はただ堅くなって、お辞儀ばかりしていた。

小梅様はほほほとわらって、

「まあ、そう堅くならずに、もっとお楽にしておくれえな。おまえにそう堅苦しくされると、こっちまで肩が張るえな。今夜はな、おまえの骨折りをねぎらおうと思うてな。小竹様がお茶を進じょと言うておいでじゃ」

お茶ときいて私はドキリとふたりの顔を見直した。しかし、小梅様も小竹様も、きょとんとした顔つきで、

「ほほほ、こんなしわくちゃ婆あの招待では、かえってありがた迷惑じゃろが、そこがそれ、気は心じゃ。まあ、お相手をしておくれ」

小竹様はふくさをかるくさばきながら、ふと思い出したように、

「ときに、辰弥や、春代のあの病気じゃがなあ、あれはいったいどうしたもんじゃろ」

「どうしたものとおっしゃると?」

「いいえなあ」

と、小梅様も膝を乗り出し、

「あの子は元来達者なほうではなく、いつもぶらぶらしているのじゃが、気で持っているというのか、何年にも寝たことのない子じゃ。それがどうしてだしぬけに、あのような大熱を出すようなことになったのじゃろな」

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