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八墓村-第六章 春代の激情(12)

时间: 2022-06-14    进入日语论坛
核心提示:金田一耕助は妙に渋い微妙をうかべて、「久野先生はこの春、盗難にあったことがあるんだそうです。自転車にカバンをつけたまま、
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 金田一耕助は妙に渋い微妙をうかべて、

「久野先生はこの春、盗難にあったことがあるんだそうです。自転車にカバンをつけたまま、患家へ寄っているあいだにちょろりとカバンをやられたんですね。奥さんの話によると、ポケット日記はいつもそのカバンの中に入れてあったというんです。久野先生もその当座、とても心配していたが、その心配の仕方が、カバンをとられただけにしちゃ大げさ過ぎるので、家の者も不思議に思っていたというんです」

「なるほど。そして、そのカバンは返らずじまいですか」

「いや、ところがちかごろになって、妙なところから出てきたんですよ」

金田一耕助はくすくす笑いながら、

「このあいだ、濃茶の尼が殺されたとき、庵あん室しつを調査したことはあなたも御存じでしょうが、そのとき、出たわ、出たわ、文字どおり贓ぞう品ひんの山なんです。といっても、ろくなものはありゃあしない。口の欠けた土ど瓶びんだの、柄えのとれた柄杓ひしゃくだの、たくあん石まで出てきたんだから驚きましたよ。ところが、そういう贓品の中に、久野先生のカバンもまじっていたんです」

「なるほど、じゃ盗人は濃茶の尼なのですね」

「そうそう、あいつが奇妙な盗癖を持ってたことはあなたも御存じでしょう。久野先生の折りカバンも、つまりその盗癖にひっかかったんですね」

「なるほど、それで日記は?」

「ありませんでしたよ。尼がどこかへやったのか、それとも奥さんの記憶ちがいで、はじめから日記はそこになかったのか……こうなると、濃茶の尼を殺したのは残念ですね」

金田一耕助はそこでポツンと言葉を切ると、なんとなく暗然たる顔色だった。そこで私は話題を転じて、英泉さんのことを尋ねてみた。

英泉さんは地下の散步を、いったいどんなふうに弁解したのかと思ったのである。すると金田一耕助はニヤニヤしながら、

「いや、あれはなんでもないんです。麻呂尾寺というのはこの村の西隣にありますね。そこから村の東はずれの、濃茶のへんまで行こうとすれば、野越え山越え、たいへんな道のりになる。ところがあの地下道を利用すれば、半分の時間で来られるというんです。だから英泉さんは、濃茶に用事のあるときには、いつも地下道を利用しているというんです」

「へへえ、するとあの地下道は、バンカチのほうまでつづいているんですか」

「そうなんですよ。ぼくも英泉さんの案内で步いてみて驚きましたね。鍾乳洞としては、実に大げさなもんですね」

「しかし、英泉さんはどうしてああいう通路のあることを知ってるんです。あのひとはちかごろ麻呂尾寺へ来たばかりでしょう」

「それはね、長英さんに教わったそうですよ。長英さんもその昔、托たく鉢はつのかえりなど、人に会うのがめんどうくさくなると、よく地下道へもぐりこんだというんです」

私はしかし信用しなかった。なるほど英泉さんが濃茶へ抜けるのに、地下道を利用しているということはほんとうかもしれぬ。そして地下道はあんなに暗いし複雑だから、たまに迷うこともあるかもしれぬが、私の部屋へまで迷いこむというのは不思議である。金田一耕助とても英泉さんの言葉を鵜うのみにしたわけではなかろう。その証拠には皮肉な調子で、こんなことをいったものである。

「それにしても妙ですな。この村のひとたちが、鍾乳洞なんててんで問題にしていないのに、外から来たひとびとが妙に心をひかれるというのは……英泉さんといい、あなたといい……」

耕助は声を立てて笑ったが、すぐまたまじめな顔になると、

「ときに森君は相変わらずやってきますか」

と、思い出したように尋ねた。そして、この質問こそ、そのとき、私のいちばん痛いところをついたのだ。

そうなのだ。私はそのころ美也子のそぶりに、妙に不安を感じていたのだ。美也子はすっかり変わってしまった。妙によそよそしくなってしまったのだ。

兄の久弥のお弔いのときなど、美也子はまるでこの家のもののように、さきに立って働いた。それだのにこんどはお義理に顔を出すだけで、用がすむと、まるで怖いもののように帰っていく。私に会っても笑顔も見せず冗談ひとついうのでもなかった。

どうしてそんなに変わったのか、私にはその理由がどうしてもわからなかった。四面楚そ歌かのこの村で、美也子は私のただひとりの味方なのだ。その美也子が急につめたくなったので、私はどんなに心細く思っていたことか。だから金田一耕助に、だしぬけに美也子のことを聞かれると、ベソをかくような顔にならずにはいられなかった。

しかし、金田一耕助も、別に深い意味があって聞いたわけではなかったらしく、それから間もなく、飄々ひょうひょうとして帰っていったのである。

私があの文ふみ殻がらを発見したのは、たしかにその晚のことだったと思う。

その夜、私はなかなか寝つかれなかった。金田一耕助を思い、美也子を思い、慎太郎を思い、典子を思い、さらに英泉さんのことまで考えていると、頭が冴さえてくるばかり、私は何度も寝床の中で、輾てん転てん反側していたが、そのうちに妙なことが気になり出した。

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