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八墓村-第六章 春代の激情(22)

时间: 2022-06-16    进入日语论坛
核心提示:闇を縫うて後から思えばそれは実に危ない瀬戸ぎわだった。長持の底をぬけた私が、下の地下道へおりるかおりぬうちに、上のほうか
(单词翻译:双击或拖选)

闇を縫うて

 

後から思えばそれは実に危ない瀬戸ぎわだった。

長持の底をぬけた私が、下の地下道へおりるかおりぬうちに、上のほうから床を踏みぬくような足音と、ののしり騒ぐ声がきこえた。侵入者が離れへ踏みこんできたのだ。その騒ぎから考えて、三人や五人ではないらしく、口々にどなる声をきくと、私は全身から恐怖の冷や汗が流れ、やはり姉の言葉にしたがってよかったと思った。

私はカンテラの灯をふき消すと、暗い地下道を手さぐりですすんでいった。幸いちかごろ、すっかりおなじみになった地下道のこととて、暗くら闇やみのなかでも不自由はなかった。

間もなく私は第二の石段のふもとまで来た。いい忘れたが、この石段をのぼっていくと、庭の奥の祠ほこらの中へ出るのである。おそらく昔、この抜け孔を造ったひとは、離れの納戸と裏の祠をつなぐだけが目的だったのだろう。それがたまたま天然の鍾乳洞にぶつかったので、思いもよらぬ大仕掛けな抜け孔となったのであろう。

さて、私が手さぐりに壁をさぐって、岩のとびらをさがしていると、にわかに上のほうが明るくなって、

「ひゃっ、こんなところに抜け孔があったのか」

「気をつけな、足場が悪いぞ」

「おお、大丈夫か、なんだか気味が悪いな」

そんな声がせまい洞窟に反響して、割れ鐘のようにひびいてくる。

私は夢中で梃て子こをおろしたが、そのときほど岩の開くのをまどろこしく感じたことはない。上のほうから足音が、しだいにこちらへ降りてくるのに、岩のとびらはごくのろのろとしか開いてくれぬ。もしこのとびらの開くのが間に合わなければ、私はいやでもいま来た道を引き返さねばならぬが、おお、その道からも足音と、ののしり騒ぐ声が近づいてくるではないか。

私は総身の毛という毛が逆立つような恐怖をおぼえたが、それでもやっと体が入るくらいの岩が開いたので、無理矢理に中へもぐりこむと、向こう側から梃子をおしたが、またしても私は危ないところで間に合ったのだ。岩がまだ締まるか締まらないうちに、どやどやと上から足跡が降りてきた。

「ひゃっ、これ見ろ、岩が動いてるぜ」

「しまった、野郎、それじゃいまここをもぐっていきゃあがったにちがいない」

「この岩はどうしたら動くんだ」

「待て待て、おれに見せろ」

そういう声をあとにして、私はまた闇の地下道を這はっていった。

そのときはじめて私はかれらの計画の大げさにして、真剣なのに気がついたのだ。この様子でみると、抜け孔の入り口という入り口から追っ手のものを繰りこませているらしい。もしそうだとすると、私は一刻も早くあのふたまたまでたどりつかねばならぬ。そうでないと、いつも典子が忍んでくる濃茶の入り口から侵入してくるであろう追っ手のために、行く手をさえぎられるおそれがあるのだ。

これは後に知ったことだが、かれらはやはり私の想像したとおり、あらかじめ手分けして、鍾乳洞の入り口という入り口に見張りをおいたそうである。そして、私が地下道へもぐりこんだと知るや、伝令をとばして、いっせいに中へ繰りこませたのだが、私にとって仕合わせだったことには、夜のこととて何かに不自由で伝令に手間どったこと。かれらが地下道に慣れていなかったために、とかく行動に敏活を欠いたこと。それらのおかげで私はまたしてもかれらより一足さきに、ふたまたへたどりつくことができたのである。

しかし、私はまだまだ安心できなかった。追っ手はしだいに数を増してくるらしく、おりおりあげる喚声が、百雷のごとく地下道の空気をふるわせる。それに追われる私は夢中で、「猿の腰掛」から「天狗の鼻」へ通ずる洞窟にもぐりこんだ。

「天狗の鼻」から「木霊の辻」、それを過ぎると、「鬼火の淵」も、間近である。「鬼火の淵」さえ渡ってしまえば大丈夫だ。村のひとたちはあれからさきへ入ることを恐れているし、たとえ入ってきたところで、「狐の穴」という究竟くっきょうのかくれ場所もある。「狐の穴」をすみからすみまでさぐるというのはまず不可能であろう。

それを力に私は「天狗の鼻」までさしかかったが、ギョッと立ちすくんだのである。行く手にあたる「木霊の辻」から、がやがやと人の話し声がきこえてくる。しかもその声は「木霊の辻」にこだまして、大きな反響の渦うずをえがきながら、しだいにこちらへ近づいてくるのだ。

ああ、私は忘れていた。いつかここで英泉さんに出会ったことがあるが、その英泉さんの話によると、この向こうにバンカチへぬける口があるというのだ。いま向こうから来る連中は、きっとそこから入ってきたのにちがいない。私は絶体絶命だった。うしろから来る連中はいよいよ勢いを増したらしく、おりおり爆発するような喚声が、洞窟の空気をふるわせる。行く手の「木霊の辻」からは、刻々として足音が近づいてくる。

私は懐中電燈をつけると、夢中であたりを見回した。と、眼についたのはすぐ頭の上に突き出しているあの太い天狗の鼻である。それを見ると私は無我夢中で、壁をよじ、「天狗の鼻」へのぼっていった。ところがたいへん都合のいいことには、天狗の鼻の上側というのがえぐられたようにくぼんでいて、体を横にすると、スッポリ中に入ってしまうのである。これ幸いと私が身を伏せたとたん、「木霊の辻」の曲がり角から松明の火が現われ、足音が近づいてきた。

「おかしいなあ。こっちへ逃げてきたとしたら、もうそろそろ出会いそうなもんだが……まさか途中で行き違いになったのに、気がつかなかったんじゃあるめえな」

「馬鹿なことをいっちゃいけねえ。それほど広い孔でもねえよ」

「そうだな。するとまだ来ねえのかな」


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