返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 横沟正史 » 八つ墓村 » 正文

八墓村-第八章 絶体絶命(11)

时间: 2022-06-19    进入日语论坛
核心提示:その後の事ども(三)「な、な、なんですって!」新居先生のくちびるからもれた叫びは鋭かった。それは驚きと怒りにみちたものだ
(单词翻译:双击或拖选)

その後の事ども(三)

 

「な、な、なんですって!」

新居先生のくちびるからもれた叫びは鋭かった。それは驚きと怒りにみちたものだった。さすが温厚な新居先生も、このときばかりは蒼あおざめて、くちびるがかすかにふるえていた。私たちはびっくりしてふたりの顔を見くらべていた。

「いや、先生、驚かせてすみません。しかし、ぼくの言葉はけっしてうそでもでたらめでもないのです。久野先生がああいう奇妙な計画を考えたというのは、実に新居先生、あなたのためなのです。とはいえ先生、ぼくはけっしてあなたを非難しようというのではありませんよ。非はむしろ久野先生にあるのですからね。つまり外げ道どうの逆さか恨うらみというやつです。しかし、疎開してこられたあなたに、患者をすっかりとられてしまった久野先生の恨みは深かった。遺恨コツズイというやつですね。きっと八つ裂きにしてもあきたりぬくらいに思ったことでしょう。そういう恨みがつもりつもって、久野先生はとうとうあなたを殺す計画をたてたのです」

「私を殺す……?」

新居先生の顔はいよいよ蒼くなった。一同の注視を浴びて間まが悪そうに、杯さかずきをとりあげるその手はひどくふるえていた。

「そうです。久野先生はあなたを殺そうと考えたのです。しかしただあなたを殺しただけでは、すぐに自分に疑いがかかることを久野先生は知っていた。なにしろあなたに患者をとられて、遺恨コツズイであることは、村じゅうの人が知っていますからね。そこでなんとかして、あなたを殺しても、自分に疑いのかからぬ方法はないものかと、とつおいつ、考えに考えたあげく編み出したのがすなわち、こんどの八つ墓伝説殺人事件。すなわち双児杉の一本が、雷に裂かれて倒れたのは、八つ墓明神の生いけ贅にえを要求している証あかしであるぞよという、あの濃茶の尼の妖よう言げんをたくみにとりいれ、村で並立あるいは対立している二者の一方が殺されるという、迷信的犯罪なのです」

「するとなんですか」

新居先生はまだ驚きのさめやらぬ声で、

「久野先生はたったひとりの私を殺すために、罪もない数名の人を殺そうとしたんですか」

「そうですよ、久野先生は何人殺してもかまわなかったんです。はじめからあの人は、ほんとに人殺しなどするつもりはなかったのだから」

「なんですって」

新居先生は眼をまるくして、

「それはどういう意味なんです。あなたのいうことはどうもよくわからんが」

金田一耕助はにこにこと無邪気な眼で新居先生を見つめながら、

「先生、こういうことを言っては失礼ですが、お見受けしたところ、先生はまことに温厚で円満なお人のようですが、そういう先生でもいままで一度も、憎んだことはなかったでしょうか。あいつを殺してやりたい、八つ裂きにしてやりたいなどと、御立腹なすったことはないでしょうか」

新居先生はだまって金田一耕助の顔を見ていたが、やがてかすかにうなずいた。

「そういう経験は全然ないといえばうそになりましょうな。もちろん実行するつもりは毛頭ないが……」

「そうでしょう、そうでしょう」

金田一耕助はうれしそうに、頭の上の雀の巣をガリガリかきまわしながら、

「われわれ凡愚の人間は、精神的には始終、人殺しをしているようなものなんです。ここにいる警部さんなどいままでに何度ぼくを殺してるかしれませんぜ。あっはっは。いや、冗談はさておき、久野先生の殺人願望もその程度にすぎなかったんです。先生ははじめから実行するつもりはないのだから、したがって計画などもできるだけ奇抜で大仕掛けなほうがよかったのです。そして、そういう計画を楽しんでいるかぎり、人間は人殺しなどするものではないのです。だから先生がそのプランを、頭脳の中でだけ練っていられたら、まちがいは起こらなかったのですが、不幸にして先生は、興に乗ってそれを文字にして書きつけておかれた。それがまちがいのもとだったんです」

「そのノートを、どういうはずみでか美也子が手に入れたわけだね」

野村荘吉氏がはじめて口をはさんだ。

「そうです、そうです、その媒介をしたのがつまり濃茶の尼なんです。久野先生は不謹慎にもそういう大事なことを書いた虎とらの巻を、往診カバンに入れて持ってあるいていられた。そいつをちょろりとちょろまかしたのが濃茶の尼で、彼女はなかをひっかきまわしたあげく、日記なんかいらないわとばかりに、ポイと捨てたのが不幸にも美也子さんの手に拾われた、と、いうわけなんですね」

一同のくちびるからは思わず深いため息がもれる。金田一耕助も暗い眼をして、

「実際、事件のきっかけは、どんなところに転がっているかわかりません。美也子さんはあの日記を拾わなくても、それと似たようなことをやったかもしれない。しかし、あの日記が、彼女の行動に拍車をかけたことは争われませんね。美也子さんは日記の中にあるあの奇妙な殺人計画書を読んで、どんなに驚いたことでしょう。そのなかには春代さんとならんで、自分の名前を犠牲者のひとりとして挙げられているんですからね。しかし、なにしろあのとおり賢明なひとのことだから、すぐにそれが久野先生の、実行する意志もない、机上プランであることに気がついたことでしょう。と、同時にその計画が、かねて自分の抱いている願望すなわち東屋のひとびとを皆殺しにしたいという欲望に、非常に好都合にできていることに気がついたことでしょう。なぜといって、そこに挙げられている犠牲者のなかには、東屋の家族全部が入っていたのですから、つまり久野先生が新居先生を目標としてたてたその計画は、そっくりそのまま東屋一家皆殺しという目的に、すりかえることができるのです。ここで運命は決定しました。美也子さんは久野先生とちがって、実行力にとんだ人物だったから計画どおり、着々として実行していったのです。そして、ここにあの奇妙な、八つ墓村の連続殺人事件の幕がきって落とされたわけなのです」


轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%

热门TAG:
[查看全部]  相关评论