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阿势登场 一(1)

时间: 2022-04-03    进入日语论坛
核心提示:一 肺病やみの格太郎(かくたろう)は、今日も又細君(さいくん)においてけぼりを食って、ぼんやりと留守を守っていなければならな
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 肺病やみの格太郎(かくたろう)は、今日も又細君(さいくん)においてけぼりを食って、ぼんやりと留守を守っていなければならなかった。最初の程は、如何(いか)なお人()しの彼も、激憤を感じ、それを(たね)に離別を目論(もくろ)んだことさえあったのだけれど、(やまい)という弱味が段々彼をあきらめっぽくして(しま)った。先の短い自分の事、可愛い子供のことなど考えると、乱暴な真似(まね)はできなかった。その点では、第三者である()け、弟の格二郎(かくじろう)などの方がテキパキした(かんがえ)を持っていた。彼は兄の弱気を歯痒(はがゆ)がって、時々意見めいた口を()くこともあった。
「なぜ兄さんは左様(そう)なんだろう。僕だったらとっくに離縁にしてるんだがな。あんな人に(あわれ)みをかける所があるんだろうか」
 だが、格太郎にとっては、単に憐みという様なことばかりではなかった。成程(なるほど)、今おせいを離別すれば、(もん)なしの書生っぽに相違ない彼女の相手と共に、たちまち其日(そのひ)にも困る身の上になることは知れていたけれど、その憐みもさることながら、彼にはもっと(ほか)の理由があったのだ。子供の行末も無論案じられたし、それに、恥しくて弟などには打開(うちあ)けられもしないけれど、彼には、そんなにされても、まだおせいをあきらめ(かね)る所があった。それ(ゆえ)、彼女が彼から離れ切って了うのを恐れて、彼女の不倫を責めることさえ遠慮している程なのであった。
 おせいの方では、この格太郎の心持を、知り過ぎる程知っていた。大げさに云えば、そこには暗黙の妥協に似たものが成り立っていた。彼女は隠し男との遊戯の暇には、その余力を(もっ)て格太郎を愛撫することを忘れないのだった。格太郎にして見れば、この彼女の(わずか)ばかりのおなさけに、不甲斐(ふがい)なくも満足している外はない心持だった。
「でも、子供のことを考えるとね。そう一概(いちがい)なことも出来ないよ。この先一年もつか二年もつか知れないが、(おれ)の寿命は(きま)っているのだし、そこへ持って来て母親までなくしては、あんまり子供が可哀相(かわいそう)だからね。まあもうちっと我慢して見るつもりだ。なあに、その内にはおせいだって、きっと考え直す時が来るだろうよ」
 格太郎はそう答えて、一層弟を歯痒がらせるのを常とした。
 だが、格太郎の仏心に引かえて、おせいは考え直すどころか、一日一日と、不倫の恋に(おぼ)れて行った。それには、窮迫して、長病(ながわずら)いで寝た切りの、彼女の父親がだしに使われた。彼女は父親を見舞いに行くのだと称しては、三日にあげず(うち)(そと)にした。果して彼女が里へ帰っているかどうかを(しら)べるのは、無論(わけ)のないことだったけれど、格太郎はそれすらしなかった。妙な心持である。彼は自分自身に対してさえ、おせいを(かば)う様な態度を取った。

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