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非人之恋(1)_非人之恋_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:人でなしの恋江戸川乱歩一 門野(かどの)、御存知(ごぞんじ)でいらっしゃいましょう。十年以前になくなった先(せん)の夫なのでご
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人でなしの恋

江戸川乱歩

 


 門野(かどの)御存知(ごぞんじ)でいらっしゃいましょう。十年以前になくなった(せん)の夫なのでございます。こんなに月日がたちますと、門野と口に出していって見ましても、一向(いっこう)他人様(ひとさま)(よう)で、あの出来事にしましても、何だかこう、夢ではなかったかしら、なんて思われるほどでございます。門野家へ私がお嫁入りをしましたのは、どうした御縁からでございましたかしら、申すまでもなく、お嫁入り前に、お(たがい)に好き合っていたなんて、そんなみだらなのではなく、仲人(なこうど)が母を()きつけて、母が又私に申し聞かせて、それを、おぼこ娘の私は、どう(いな)やが申せましょう。おきまりでございますわ。畳にのの字を書きながら、ついうなずいてしまったのでございます。
 でも、あの人が私の夫になる方かと思いますと、狭い町のことで、それに先方も相当の家柄なものですから、顔位は見知っていましたけれど、(うわさ)によれば、何となく気むずかしい方の様だがとか、あんな綺麗(きれい)な方のことだから、ええ、御承知かも知れませんが、門野というのは、それはそれは、(すご)い様な美男子で、いいえ、おのろけではございません。美しいといいます(うち)にも、病身なせいもあったのでございましょう、どこやら陰気で、青白く、透き通る様な、ですから、一層水際立った殿御(とのご)ぶりだったのでございますが、それが、ただ美しい以上に、何かこう凄い感じを与えたのでございます。その様に綺麗な方のことですから、きっと(ほか)に美しい娘さんもおありでしょうし、もしそうでないとしましても、私の様なこのお多福(たふく)が、どうまあ一生可愛がって(もら)えよう、などと色々取越(とりこし)苦労もしますれば、従ってお友達だとか、召使などの、その(かた)の噂話にも聞き耳を立てるといった調子なのでございます。
 そんな風にして、段々()れ聞いた所を寄せ集めて見ますと、心配をしていた、一方のみだらな噂などはこれっぱかりもない代りには、もう一つの気むずかし屋の方は、どうして一通りでないことが分って来たのでございます。いわば変人とでも申すのでございましょう。お友達なども少く、多くは内の中に引込み勝ちで、それに一番いけないのは、女ぎらいという噂すらあったのでございます。それも、遊びのおつき合いをなさらぬための、そんな噂なら別条はないのですけれど、本当の女ぎらいらしく、私との縁談にしましてからが、元々親御(おやご)さん達のお考えで、仲人に立った方は、私の方よりは、(かえっ)て先方の御本人を説きふせるのに骨が折れたほどだと申すのでございます。(もっと)もそんなハッキリした噂を聞いた訳ではなく、誰かが一寸(ちょっと)口をすべらせたのから、私が、お嫁入りの前の娘の敏感で独合点(ひとりがってん)をしていたのかも知れません。いいえ、いざお嫁入りをして、あんな目にあいますまでは、本当に私の独合点に過ぎないのだと、しいてもそんな風に、こちらに都合のよい様に、気休めを考えていたことでございます。これで、いくらか、うぬぼれもあったのでございますわね。
 あの時分の娘々した気持を思い出しますと、われながら可愛らしい(よう)でございます。一方ではそんな不安を感じながら、でも、隣町の呉服屋(ごふくや)衣裳(いしょう)の見立に参ったり、それを家中(うちじゅう)の手で裁縫したり、道具類だとか、細々(こまごま)した手(まわ)りの品々を用意したり、その中へ先方からは立派な結納(ゆいのう)が届く、お友達にはお祝いの言葉やら、羨望(せんぼう)の言葉やら、誰かにあえばひやかされるのがなれっこになってしまって、それが又恥かしいほど(うれ)しくて、家中にみちみちた(はな)やかな空気が、十九の娘を、もう有頂天(うちょうてん)にしてしまったのでございます。
 一つは、どの様な変人であろうが、気むずかし屋さんであろうが、今申す水際立った殿御(ぶり)に、私はすっかり魅せられていたのでもございましょう。それに又、そんな性質の方に限って、情が(こまや)かなのではないか、私なら私一人を守って、(すべ)ての愛情という愛情を私一人に注ぎつくして、可愛がって下さるのではないか、などと、私はまあなんてお人よしに出来ていたのでございましょう。そんな風に思っても見るのでございました。
 初めの間は、遠い先のことの様に、指折数えていた日取りが、夢の()に近づいて、近づくに従って、甘い空想がずっと現実的な恐れに代って、いざ当日、御婚礼の行列が門前に勢揃いをいたします。その行列が又、自慢に申すのではありませんが、十(いく)つりの私の町にしては飛切り立派なものでしたが、それの中にはさまって、車に乗る時の心持というものは、どなたも味わいなさることでしょうけれど、本当にもう、気が遠くなる様でございましたっけ、まるで屠所の羊でございますわね。精神的に恐しいばかりでなく、もう身内がずきずき痛む様な、それはもう、何と申してよろしいのやら。……

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