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非人之恋(6)

时间: 2023-09-21    进入日语论坛
核心提示:六 それ以来、私は幾度闇夜の蔵へ忍んで参ったことでございましょう。そして、そこで、夫達の様々の睦言(むつごと)を立聞きして
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 それ以来、私は幾度闇夜の蔵へ忍んで参ったことでございましょう。そして、そこで、夫達の様々の睦言(むつごと)を立聞きしては、どの様に、身も世もあらぬ思いをいたしたことでございましょう。その度毎(たびごと)に、どうかして相手の女を見てやりましょうと、色々に苦心をしたのですけれど、いつも最初の晩の通り、蔵から出て来るのは夫の門野だけで、女の姿なぞはチラリとも見えはしないのでございます。ある時はマッチを用意して行きまして、夫が立去るのを見すまし、ソッと蔵の二階へ(あが)って、マッチの光でその辺を探し廻ったこともありましたが、どこへ隠れる(いとま)もないのに、女の姿はもう影もささぬのでございます。またある時は、夫の隙を窺って、昼間、蔵の中へ忍び込み、隅から隅を覗き廻って、もしや抜け道でもありはしないか、又ひょっとして、窓の金網でも破れてはしないかと、様々に検べて見たのですけれど、蔵の中には、(ねずみ)一匹逃げ出す隙間も見当たらぬのでございました。
 何という不思議でございましょう。それを確めますと、私はもう、悲しさ口惜(くや)しさよりも、いうにいわれぬ不気味さに、思わずゾッとしないではいられませんでした。そうしてその翌晩になれば、どこから忍んで参るのか、やっぱり、いつもの(なま)めかしい囁き声が、夫との睦言を繰返(くりかえ)し、又幽霊の様に、いずことも知れず消え去ってしまうのでございます。もしや何かの生霊(いきりょう)が、門野に魅入(みい)っているのではないでしょうか。生来憂鬱で、どことなく普通の人と違った所のある、蛇を思わせる様な門野には(それ(ゆえ)に又、私はあれほども、あの人に魅せられていたのかも知れません)そうした、生霊という様な、異形(いぎょう)のものが、魅入り易いのではありますまいか。などと考えますと、はては、門野自身が、何かこう魔性(ましょう)のものにさえ見え出して、何とも形容の出来ない、変な気持になって参るのでございます。(いっ)そのこと、里へ帰って、一伍一什(いちぶしじゅう)を話そうか、それとも、門野の親御さま達に、このことをお知らせしようか、私は余りの怖わさ不気味さに幾度(いくたび)かそれを決心しかけたのですけれど、でも、まるで雲を掴む様な、怪談めいた事柄を、うかつにいい出しては頭から笑われそうで、却て恥をかく様なことがあってはならぬと、娘心にもヤッと(こら)えて、一日二日と、その決心を延ばしていたのでございます。考えて見ますと、その時分から、私は随分きかん坊でもあったのでございますわね。
 そして、ある晩のことでございました。私はふと妙なことに気づいたのでございます。それは、蔵の二階で、門野達のいつものおう瀬が済みまして、門野がいざ二階を下りるという時に、パタンと軽く、何かの(ふた)のしまる音がして、それから、カチカチと錠前でも卸すらしい気勢がしたのでございます。よく考えて見れば、この物音は、ごく幽かではありましたが、いつの晩にも必ず聞いた様に思われるのでございます。蔵の二階でそのような音を立てるものは、そこに幾つも並んでいます長持(ながもち)(ほか)にはありません。さては相手の女は長持の中に隠れているのではないかしら。生きた人間なれば、食事も()らなければならず、第一、息苦しい長持の中に、そんな長い間忍んでいられよう道理はない筈ですけれど、なぜか、私には、それがもう間違いのない事実の様に思われて来るのでございます。
 そこへ気がつきますと、もうじっとしてはいられません。どうかして、長持の鍵を盗み出して、長持の蓋をあけて、相手の女奴を見てやらないでは気が済まぬのでございます。なあに、いざとなったら、くいついてでも、ひっ掻いてでも、あんな女に負けてなるものか、もうその女が長持の中に隠れているときまりでもした様に、私は歯ぎしりを噛んで、夜のあけるのを待ったものでございます。
 その翌日、門野の手文庫から鍵を盗み出すことは、案外易々(やすやす)と成功いたしました。その時分には、私はもうまるで夢中ではありましたけれど、それでも、十九の小娘にしましては、身に余る大仕事でございました。それまでとても、眠られぬ夜が続き、さぞかし顔色も青ざめ、身体(からだ)()せ細っていたことでありましょう。幸い御両親とは離れた部屋に()(ふし)していましたのと、夫の門野は、あの人自身のことで夢中になっていましたのとで、その半月ばかりの間を、怪しまれもせず過ごすことが出来たのでございます。さて、鍵を持って、昼間でも薄暗い、冷たい土の匂いのする、土蔵の中へ忍び込んだ時の気持、それがまあ、どんなでございましたか。よくまああの様な真似が出来たものだと、今思えば、一そ不思議な気もするのでございます。
 ところが鍵を盗み出す前でしたか、それとも蔵の二階へ(あが)りながらでありましたか、千々(ちぢ)に乱れる心の(うち)で、わたしはふと滑稽なことを考えたものでございます。どうでもよいことではありますけれど、ついでに申上げて置きましょうか。それは、先日からのあの話声は、もしや門野が(ひとり)で、声色(こわいろ)を使っていたのではないかという疑いでございました。まるで落し話の様な想像ではありますが、例えば小説を書きますためとか、お芝居を演じますためとかに、人に聞えない蔵の二階で、そっとせりふのやり取りを稽古(けいこ)していらしったのではあるまいか、そして、長持の中には女なぞではなくて、ひょっとしたら、芝居の衣裳でも隠してあるのではないか、という途方もない疑いでございました。ほほほほほほ、私はもうのぼせ上っていたのでございますわね。意識が混乱して、ふとその様な、我身に都合のよい妄想が、浮かび上るほど、それほど私の頭は乱れ切っていたのでございます。なぜと申して、あの睦言の意味を考えましても、その様な馬鹿馬鹿しい声色を使う人が、どこの世界にあるものでございますか。

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