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鬼-不在场证明(2)

时间: 2021-10-07    进入日语论坛
核心提示:「ハイ、わたくし共も、そうではないかと思いまして、さい前本人の幸(こう)ちゃんに尋ねて見ましたのですが、僕がそんな呼出しな
(单词翻译:双击或拖选)

「ハイ、わたくし共も、そうではないかと思いまして、さい前本人の(こう)ちゃんに尋ねて見ましたのですが、僕がそんな呼出しなぞかける訳がない。その時間にはN市へ行っていたのだから。……それに第一、伯母(おば)さんも御存知の通り、僕はこんな下手な字は書きません。又、鶴子さんに逢いたければ、不自由らしく手紙で呼び出したりなんかしないでも、僕がじかに誘いに行く筈じゃないか。って申すのでございます。アノ、これは()しや、誰か悪者が、幸ちゃんからの手紙の様に見せかけて、鶴子をおびき出したのではございますまいか」
 判事と被害者の母親との問答は、それ以上進展しなかった。そこで、国枝氏は真先に取調べた大宅幸吉を、もう一度その調べ室に呼入れる必要を感じた。同席の警察署長を始め同意見であった。
 大宅幸吉は問題の呼出手紙を見せられると、さっき鶴子の母親が申述べたのと大体同じ様な答えをした。
「君は昨夜N市へ行っていたのだね。ハッキリした現場不在証明(アリバイ)だ。で、N市では誰かを訪問したのでしょうね。別に君を疑う訳ではないが、重大事件のことだから、一応は先方へ聞合わせる程度の手数はかけなければなりません」
 予審判事は何気なく尋ねた。
「別に誰も訪ねなかったのです。会って話した人もありません」
 幸吉は苦し相に答えた。
「では、買物にでも出掛けたのですか。それなら、その店の番頭なり主人なりが覚ているかも知れない」
「イイエ、そうでもなかったのです。ただ町へ出たくなって、Nの本町通りをブラブラ歩いて帰ったのです。買物と云えば、通りがかりの煙草屋でバットを買った位のものです」
「フム、そいつは(まず)いな」
 国枝氏は胡散(うさん)らしく、相手の顔をジロジロ眺めながら、暫く思案していたが、やがてヒョイと気がついた様に元気な声を出した。
「イヤ、そんなことはどうだっていいのだ。君はN市の往復に乗合自動車に乗ったでしょう。無論運転手は君の顔を見知っている筈だ。その運転手を調べさえすればいいのです」
 判事がホッとした様に云うと、意外にも幸吉の顔にハッと狼狽(ろうばい)の色が浮んだ。青ざめて急には口も利けない程だ。
 判事は唇の隅に奇妙な微笑を浮べて、併し目は相手の心を突き通す鋭さで、ジッと幸吉の表情を見つめていた。
「偶然だ。恐ろしい偶然だ」
 幸吉は妙なことを(つぶや)きながら、救いを求める様に、国枝予審判事のうしろに立っている人物を眺めた。
 そこには幸吉の親友の探偵小説家殿村昌一が、気の毒そうな顔をして(たたず)んでいた。彼がどうして、この調べの席に、しかも調べる人々の側に列していたかというに、昌一は国枝予審判事と高等学校時代の同級生で、現在も文通を続けている友達であったからだ。作者は物語の速度をにぶらせまい為に、この両人の偶然の邂逅(かいこう)の場面を(わざ)と省略したのである。
 両人がそんな間柄であったから、判事は取調べに際して、何かと好都合であったし、又探偵作家の殿村にとっては、犯罪事件の実際を見学する好機会となった。彼は事件の証人として、友達の予審判事から一応の取調べを受けたが、それが済んでも退席せず、人々の暗黙の了解を得て、その場に居残っていた訳である。
 で、今大宅幸吉が、N市へ往復した自動車について質問を受け、顔色を変えて妙なことを呟いたのを聞くと、殿村はハッとしないではいられなかった。彼は幸吉の苦しい立場を大方(おおかた)は推察していた。昨夜はN市に住む恋人に逢いに行ったのに違いない。幸吉はそれを隠す為にアリバイを犠牲(ぎせい)にしようとさえしているのだ。

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