大発見
「こいつ、二十面相の部下かしら。」
ポケット小僧が、にくにくしそうに、その顔を見おろしていいました。
「そうかもしれない。だが、ひょっとしたら……。」
小林少年が、そういいかけて考えています。
「えっ、ひょっとしたら、なんなの?」
ポケット小僧は、びっくりして、小林君の顔を見つめました。
「こんな大役を、部下にやらせるだろうか。こいつが、きっと二十面相だよ。ぼくたちは、だれも二十面相のほんとうの顔を知らない。いつでも、へんそうしているんだからね。だからきっと、こいつが二十面相だよ。」
ふたりは、しばらく顔を見あわせて、だまりこんでいました。
あのおそろしい二十面相の顔を、こんなに近くで見られようとは、思いもよらないことでした。しかし、そいつは、土の下じきになって、うなっているのです。このまま、ほうっておけば、死んでしまうにきまっているのです。小林君は、いくら悪者でも、ころしてしまうことはできないと思いました。たすけてやらなければなりません。そして、警察にひきわたすのです。それには、まず、こいつが二十面相かどうかを、たしかめなければなりません。
「おい、きみは二十面相だろう。ほんとうのことをいうんだ。」
そうよびかけると、ウーン、ウーンという、うなり声がとまりました。そして、くるしそうな声で、かすかに口をききました。
「た、たすけて、くれるか?」
「きっと、たすけてやる。そのかわり、ほんとうのことをいいたまえ。きみは二十面相だね。」
「うん、そ、そうだ。」
「よし、わかった。だが、ぼくたちの力では、どうすることもできない。いま、おとなの人を、よんでくるからね、すこしのあいだ、がまんしているんだ。」
小林君はそういって、あなの外へ、ひきかえそうとしました。そのときです。
「わあっ、たいへんだあ。」
ポケット小僧の、とんきょうなさけび声が、洞くつの中にひびきわたりました。
「ど、どうしたんだ。ポケット君。」
小林少年が、びっくりして、たずねました。
「小判だよ。小判がウジャウジャあるよ。ほら、ここにも、あっちにも……。」
懐中電灯の光の中に、ピカピカひかっているのは、たしかにむかしの金貨の小判でした。それが落盤の土の中にいっぱいまじっているのです。
小林君は、その一枚を手にとってみました。たしかに重い黄金の小判です。かぞえてみると、土の中から頭をだしているのだけでも、百枚以上ありました。上のほうの土の中に、木の箱のくさってこわれたのが見えています。小判をつめた箱が、こわれて、小判がちらばったのでしょう。
「ああ、わかった。このあなのてんじょうの上に、小判の箱がうずめてあったんだ。それが、落盤でここへおちてきたのだ。この上には、まだどれだけ小判の箱が、うずまっているかしれないぞ。」
じつに大発見でした。むかし、お金持ちの人が、これだけ大じかけなあなをほっても見つけることのできなかった、幕府のご用金が、落盤のおかげで、小林少年とポケット小僧によって発見されたのです。
「だけど、これはぼくたちのものには、ならないね。」
「むろんだよ。このあなをほらせた人の子どもか孫が、きっとまだ権利を持っているよ。とにかく、はやく、このことを警察に知らせなければ……。」
小林君はポケット小僧の手をひっぱって、その場を立ちさろうとしました。すると、土にうずまっている二十面相が、
「おい、こ、こばやし君。お、おれをはやく、た、たすけてくれ……。」
と、くるしそうな声でよびかけました。このまま、ほうっておかれては、たいへんだとおもったのでしょう。
「よし、わかっているよ。じきに、たすけだしてやるから、しばらくがまんしているんだ。」
そういいすてて、ふたりは、あなの入口のほうへいそぎました。ながい道ですが、前に一度とおったところですから、もう、しんぱいはありません。
まもなく、はるかむこうに、パッとあかるいあなの入口が、小さく見えてきました。やっと太陽の光を見て、いきかえった気持です。おいしい空気が、そよそよとながれてきました。
その小さな、あかるいあなが、すすむにつれて、だんだん大きくなり、ふたりは、とうとう、さわやかな夜あけの光の中に出ました。ゆうべおそくから、ひとばんあなの中でくらしたのです。時計を見ると午前五時でした。
「西洋館の門の中に、二十面相の自動車がおいてあるはずだよ。あれをとばして、ちかくの町の警察へ知らせよう。ついでに医者もつれてくるんだよ。二十面相はひどくやられているから、手あてをしてもらわなくちゃ。」
小林君がいいますと、ポケット小僧は、しんぱいそうな顔をしました。
「このままいっちゃって、だいじょうぶかい。西洋館の中には二十面相の部下がいるよ。あいつらが、あなの中にはいって、二十面相をたすけだし、小判を持って逃げちゃったら、たいへんだぜ。」
「だいじょうぶだよ。あいつたち、まだグウグウねているよ。それに、たとえ、あの洞くつに気がついたところで、二十面相のうずまってるところまでいくのが、たいへんだよ、そこへいったとしても、よういに、たすけだせやしないよ。
部下のやつが二十面相を見すてて、小判をぬすむ気になったとしても、あのあなのてんじょうをほって、たくさんの小判の箱を取りだすだけでも、三時間や四時間はかかるからね。だいいち、ぼくらが自動車にのっていってしまえば、やつら、どうすることもできやしないよ。この山を歩いて逃げだしたら、うろうろしてるうちに、つかまってしまうよ。」
小林君の説明をきいて、ポケット小僧も安心しました。
小林君は自動車の運転がじょうずでした。ふたりは、二十面相の自動車にのると、しずかにスタートさせて山をくだっていくのでした。
それから四時間ほどたったときには、山の西洋館は十八人という人数で、ごったがえしていました。ちかくの町の警察から八名の警官と、その町の医師、それから電話れんらくによって、明智探偵と警視庁の中村警部、その部下の刑事が五名もやってきました。それに小林少年とポケット小僧です。西洋館の門の前には五台の自動車がとまっていました。
まず、落盤の下じきになっていた二十面相をたすけだし、西洋館のベッドにねかせて、医師がてあてをしましたが、二十面相はとうぶん身動きもできないだろうということでした。
西洋館にいた四人の部下は、ぜんぶ手錠をはめられ、自動車で警察へつれていかれました。
洞くつのてんじょうにかくされている小判の箱をぜんぶ、ほりだしたのは、それから二日のちのことでした。小判の箱は五十個出てきました。ばくだいな金額でした。幕府のご用金がうずめてあるという、いいつたえは、やっぱり、ほんとうだったのです。
その大金は、山の権利を持っている人にひきわたされましたが、その人は小林少年とポケット小僧に、ぜんたいの百分の一にあたる五百万円の現金を、お礼としてくれることになったのです。
ふたりは、おとうさんも、おかあさんも、死んでしまっていませんので、お金をあげる人もありません。五百万円ぜんぶを明智先生にあずかってもらって、探偵事務所と少年探偵団のためにつかうことにしました。
しばらくして、少年探偵団の集まりがあったとき、団員たちは、小林団長にたずねました。
「明智先生は、あのお金を、なににつかうつもりだろうね。」
「それはまだわからないよ。探偵の仕事に、いちばんためになることに、つかおうといっていらっしゃるんだ。」
「じゃ、小林団長なら、なににつかいますか。」
「ぼくなら、けいたい無線電話機がほしいね。五つでも六つでもいい、ぼくらがそれをもって、探偵事務所と話ができるようになれば、どんなにべんりかしれないよ。わるものにつかまって、とじこめられても、そこから、平気で事務所の先生と話ができるんだからね。」
「わあっ、すてきだ。それにしよう。明智先生に、それをそなえてくださるように、たのもうよ。」
「それがいい、それがいい。」
「わあい、少年探偵団、ばんざあい。」
少年たちのあいだに、さかんな拍手がおこりました。
この計画は、明智探偵も、きっと、さんせいするでしょう。そして、少年探偵団がけいたい無電機をもつ日も遠くないかもしれません。そうなったら、かれらは、いままでみられなかったような大活躍をするでしょう。その日がまちどおしいではありませんか。