B・Dバッジ
さて、お話かわって、小林君たちが、魔法博士のとりこになってから、五日ほどたった、ある日のことです。
少年探偵団員の川瀬と山村の二少年が、世田谷区のある町を歩いていました。ふたりとも小学校の六年生ですが、今日は日曜日なので、世田谷のお友だちをたずねた帰り道なのです。もう午後四時ごろでした。
両側には、大きなやしきがつづいていて、あまり人の通らない、さびしいところです。ふたりが話しながら歩いていますと、道のまんなかに、ピカピカ光る、まるいものが落ちているのに、気づきました。
「なんだろう。お金かしら。」
山村少年が、そこへ近よって、拾いあげてみました。
「あらっ、きみ、たいへんだよ。これ、お金じゃなくて、B・Dバッジだよ。」
「えっ、B・Dバッジだって?」
二少年は、びっくりして、それをしらべました。ふたりは、小林、井上、野呂の三人が、五日もまえから、ゆくえ不明になっていることを、よく知っていたからです。もしや、あの三人が、じぶんたちの行くさきを知らせるために、落としておいたのじゃないかとおもうと、もう、胸がどきどきしてくるのです。
「裏をごらん。裏に名まえがほってあるだろう?」
「うん、ほってある。コ、バ、ヤ、シ、あっ、小林団長のバッジだよ。」
「じゃ、小林さんがゆくさきを、知らせるために、すてていったんだね。きっと、井上君やノロちゃんも、いっしょだよ。」
「うん、そうだ。さがしてみよう。少年探偵団の規則にしたがって、二十歩にひとつずつ、落としてあるはずだ。きみ、あっちをさがしな。ぼくは、こっちを見るから。」
そこで、二少年は、地面を見ながら、はんたいの方へ、一歩、二歩、三歩と、足かずをかぞえて歩いていきました。
「あっ、あった。ここにあったよ。」
うしろのほうへ歩いていた山村君が、第二のバッジをみつけました。
「よしっ、それじゃ、そっちの方角だね。ぼくもいっしょに、さがそう。」
川瀬君は、そこへ走ってきて、それからは、ふたりでバッジをさがしながら進みました。十字路にくると、三つの方角をさがさなければならないので、てまどりましたが、でも、バッジを見うしなうこともなく、どこまでも、あとをたどることができました。
読者諸君は、とっくにご承知のように、このバッジは、小林君たちが落としたのではなくて、魔法博士が、小林、井上、野呂の三人のバッジを集めて、部下の者に落とさせておいたのです。そして、明智探偵をおびきよせる計略なのです。
川瀬、山村の二少年は、そんなことは、すこしもしりません。ほんとうに小林団長が落としていったものと、おもいこんで、一生けんめいに、そのゆくさきを、つきとめようとしているのです。
だいいち、五日もまえに落としたバッジだったら、そのへんの子どもたちに拾われてしまって、なくなっていたはずです。それが、二十歩ごとに、ちゃんと落ちていたのは、まだ落としてから、まもない証拠です。でも、二少年は、そこまでは気がつかないのでした。
バッジをさがしながら、いくつも町かどをまがっていきますと、赤レンガのきみょうな建物の前に出ました。五―六十年もまえにたてたような、古めかしい西洋館です。レンガべいがつづいて、門には、すかしもようの鉄の扉が、しまっています。
「おやっ、ごらん、ここに、こんなに落ちているよ。」
その門の前に、バッジが十いくつ、バラバラと、落ちているではありませんか。
「あっ、これの裏には、イ、ノ、ウ、エ、と、ほってある。」
「こっちのは、ノロとほってあるよ。」
小林君のバッジだけでは、たりなくなったので、三人のバッジを、よせあつめたのでしょう。
「それじゃあ、このうちが、あやしいんだね。」
「うん、そうだよ。こんなに、かたまって落としてあるのは、このうちへ、はいったというしるしだよ。」
「どうしよう。この門をよじ登って、しのびこんでみようか。」
「だめだよ。小林さんでさえ、とりこになったんだから、ぼくたちでは、どうすることもできやしないよ。はやく明智先生にしらせたほうがいい。そうすれば、先生がきっと三人を助けだしてくださるよ。」
「うん、そうだね。じゃあ、いまからすぐに、明智探偵事務所へ、かけつけよう。」