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帕诺拉马岛绮谭(二十四)

时间: 2022-03-07    进入日语论坛
核心提示:二十四 読者諸君、この一篇のお伽噺は、ここに目出度(めでた)く大団円を告げるべきでありましょうか。人見廣介の菰田源三郎は、
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二十四


 読者諸君、この一篇のお伽噺は、ここに目出度(めでた)く大団円を告げるべきでありましょうか。人見廣介の菰田源三郎は、かくして彼の百歳まで、この不可思議なパノラマ国の歓楽に耽り続けることが出来たのでありましょうか。いやいや、そうではなかったでしょう。古風な物語の癖として、クライマックスの次には、カタストロフィという曲者(くせもの)が、ちゃんと待ち構えていた筈です。
 ある日のこと、人見廣介は、ふと、何故(なにゆえ)とも知らぬ不安に襲われたのでした。それは若しかしたら、世に云う勝利者の悲哀であったかも知れません。絶え間なき歓楽から来た一種の疲労であったかも知れません、或は又、過去の罪業に対する心の底の恐怖が、ソッと彼のうたた寝の夢を襲ったのであったかも知れません。併し、その様な理由の外に、ある一人の男が、その男の身辺を包む空気と一緒に、ソッとこの島へ持って来た、不思議な凶兆(きょうちょう)とも云うべきものが、或は廣介のこの不安の最大の原因ではなかったのでしょうか。
「オイ君、あの池の(そば)にボンヤリ立っている男は、一体誰なのだ。一向見覚えのない男だが」
 彼は最初その男を、花園の湯の池のほとりに見出しました。そして、側に(はべ)っていた一人の詩人にこう尋ねたのです。
「御主人は御見忘れになりましたか」詩人が答えて云うのには、「あれは私共と同じ様な文学者なのです。二度目に御傭(おやと)いなすった内の一人なのです。この間暫く国へ帰ったとかで、見かけなかった様ですが、多分今日の便船で帰って来たのではありますまいか」
「アア、そうだったか。そして、名前は何というのだ」
「北見小五郎とか申しました」
「北見小五郎、私は一向思い出せないが」
 その男が不思議に記憶に残っていないことも、何かの凶兆ではなかったのでしょうか。それからというもの、廣介はどこにいても、北見小五郎という文学者の目を感じました。花園の花の中から、湯の池の湯気の向うから、機械の国ではシリンダーの蔭から、彫像の園では群像の隙間から、森の中の大樹の木蔭から、彼はいつでも廣介の一挙一動を見つめている様に思われました。
 そしてある日のこと、かの島の中央の大円柱の蔭で、廣介は余りのことに、遂にその男を捉えたのでした。
「君は北見小五郎とか云ったね、僕が行く所には、いつでも君がいるというのは、少しばかりおかしい様に思うのだが」
 すると、憂鬱な小学生の様に、ボンヤリと円柱に(もた)れていた相手は、青白い顔を少し(あか)らめながら、うやうやしく答えるのです。
「イエ、それはきっと偶然でございましょう。御主人」
「偶然? 多分君の云う通りなのであろう。だが、君は今そこで何を考えていたのだね」
「昔読んだ小説のことを考えて居りました。非常に感銘の深い小説でした」
「ホウ、小説? なる程君は文学者だったね。して、それは誰の何という小説なのだね」
「御主人は多分御存じありますまい。無名作家の、しかも活字にならなかったものですから。人見廣介という人の『RAの話』という短篇小説なのです」
 廣介は突然昔の名前を呼ばれた位で驚くには、余りに鍛錬(たんれん)を経ていました。彼は相手の意外な言葉に、顔の筋一つ動かさないで、そればかりか、はからずも、彼の昔の作物(さくぶつ)の愛読者を見出した、不思議な喜びをさえ感じながら、懐しく言葉を続けるのでありました。
「人見廣介、知っているよ。お伽噺の様な小説を書く男であったが、あれは君、僕の学生時代の友達なのだよ。友達といっても、親しく話したこともないのだけれど。だが、『RAの話』というのは読まなかった。君はどうしてその原稿を手に入れたのだね」
「そうですか、では御主人のお友達だったのですか。不思議なこともあるものですね。『RAの話』は一九――年に書かれたのですが、その頃は御主人はもうT市の方へ御帰りなすっていたのでしょうね」
「帰っていた。その二年ばかり前に分れた切り、人見とはすっかり御無沙汰(ごぶさた)になっている。だから、彼が小説を書き出したことも、雑誌の広告で知った位なのだよ」
「では、学生時代にも余りお親しい(ほう)ではなかったのですか」
「まあそうだね。教室で顔を合せれば挨拶を交す程度の間柄だった」
「私はこちらへ来るまで、東京のK雑誌の編輯局にいたのです。その関係から人見さんとも知合いになり、未発表の原稿も読んでいる訳ですが、この『RAの話』というのは私などは実に傑作だと思っているのですけれど、編輯長が余りに濃艶な描写を気遣って、つい握りつぶしてしまったのです。それというのが、人見さんはまだ駈け出しの、名もない作者だったものですから」
「それはおしいことだったね。して、人見廣介はこの頃ではなにをしているかしら」
 廣介は「この島へ呼んでやってもいいのだが」とつけ加えたいのを、やっと我慢したのです。それ程彼は、彼自身の旧悪については、自信があり、(しん)から菰田源三郎になり切っているのでした。
「まだ御存じないと見えますね」北見小五郎は感慨深く云うのです。「あの人は昨年自殺をしてしまったのです」
「ホウ、自殺を?」
「海へはまって死んだのです。遺書があったので自殺ということが分りました」
「何かあったのだね」
「多分そうでしょう。私には分りませんが。……それにしても、不思議なのは、御主人と人見さんと、まるで双児(ふたご)の様によく似ていることです。私は始めてこちらへ参った時、若しや人見さんがこんな所に隠れていたのではないかとびっくりした程でした。無論御主人もそのことは御気づきでしょうね」
「よくひやかされたものだよ。神様がとんだいたずらをなさるものだから」
 廣介はさもらいらくに笑って見せました。北見小五郎も、それにつれて、おかしくてたまらぬ様に笑いました。
 その日は空が一面に鼠色の雨雲に覆われ、嵐の前といった、いやに静な、ソヨリとも風のない、それでいて島のまわりには、波が獣のうなり声で、不気味に泡立っている様な天候でした。
 影のない大円柱は、低い黒雲への、悪魔のきざはしの様に、そそり立って、五抱(いつかか)[#ルビの「いつかか」は底本では「いつかかえ」]えもあるその根本の所に、小さな二人の人間が、しょんぼりと話し合っていました。いつもは裸女の蓮台に乗るか、そうでなければ数人の召使を引きつれている廣介が、この日に限って一人ぽっちでここへ来たのも、一傭人(やといにん)に過ぎない北見小五郎と、こんな長話を始めたのも、不思議と云えば不思議でした。
「本当に、まるで瓜二つです。それに、似ていると云えば、まだ妙なことがあるのです」
 北見小五郎は、段々ねばり強く話込んで来るのでした。
「妙なとは?」
 廣介も、何かこのまま分れてしまう気にはなれないのです。
「今の『RAの話』という小説がです。ですが、御主人は若しや、人見さんから、その小説の筋の様なものをお聞きなすったことはないのでしょうか」
「イヤ、そんなことはない。さっきも云う通り、人見とはただ学校が同じだったに過ぎない。つまり教室での知合いなのだから、一度だって深く話し合ったことなんかありゃしないのだよ」
「本当でしょうか」
「君は妙な男だね。僕が嘘を云う訳もないではないか」
「ですが、あなたはそんな風に云切っておしまいなすっていいのでしょうか。若しや後悔なさる様なことはありますまいか」
 この北見の異様な忠告を聞くと、廣介は何かしらゾッとしないではいられませんでした。でも、それが何であるか、分り切ったことを胴忘れした様で、不思議と思い出せないのです。
「君は一体何を……」
 廣介は云いさして、ふと口をつぐみました。ぼんやりと、ある事が分りかけて来たのです。彼の顔は青ざめ、呼吸はせわしくなり、脇の下に冷いものが流れました。
「ソラね、少しずつお分りでしょう。私という男が何の為にこの島へやって来たかが」
「分らない、君のいうことは少しも分らない。狂気めいた話は()しにしてくれ給え」
 そして廣介は又笑いました。併しそれはまるで幽霊の笑い声の様に力のないものでした。
「お分りにならなければ、お話しましょう」北見は少しずつ召使の節度を失って行く様に見えました。「『RAの話』という小説の幾つかの場面とこの島の景色とが、どこからどこまで、全く同じだというのです。それは丁度あなたが人見さんに生写しである様に、生写しなのです。若しあなたが人見さんの小説も読まず、話も聞いていらっしゃらぬとしたら、この不思議な一致はどうして起ったのでしょう。暗合というには余りに一致しているのです。このパノラマ島の創作は、『RAの話』の作者と寸分(たが)わぬ思想と興味を持った人でなくては出来ないのです。いくらあなたと人見さんと顔形が似ているといって、思想まで全然同一だとは余り不思議ではありませんか。私は今それを考えていたのですよ」
「それで、どうだというのです」
 廣介は呼吸をつめて相手の顔を睨みつけました。
「まだお分りになりませんか。つまりあなたは菰田源三郎でなくて、その人見廣介に相違ないというのです。若しあなたが『RAの話』を読んでいるとか聞いているかしたならば、それを真似てこの島の景色を作ったと云いのがれるすべもあったでしょう。ところがあなたは今、そのたった一つの逃れ道を御自分でふさいでおしまいなすったではありませんか」
 廣介は相手の巧みなわなにかかったことを悟りました。彼はこの大事業に着手する前、一応自作の小説類を点検して、別段(わざわい)を残す様なもののないことを確めて置いたのですが、握りつぶしになった投書原稿のことまでは気づかなかったのです。「RAの話」なんていう小説を書いたことすら殆ど忘れていた位です。この物語の最初にも述べた様に、彼は書く原稿も書く原稿も大抵は握りつぶしにされた様な、哀れな著述家であったのですから。が、今北見の言葉によって思い出せば、彼は確にその様な小説を書いていました。人工風景の創作ということは、彼の多年の夢であったのですから、その夢が一方では小説となり、一方ではその小説と寸分違わぬ実物として現れたとて、少しも不思議はないのでした。あれ程考えに考えた彼の計画にも、やっぱり手抜りがあったのです。それが物もあろうに没書になった原稿だったとは。彼は悔んでも悔み足りぬ思いでした。
「アア、もう駄目だ。とうとうこいつの為に正体を見現(みあらわ)されたかも知れない。だが、待てよ。こいつの握っているのはたかが一篇の小説じゃあないか。まだへこたれるには少し早いぞ。この島の景色が他人の小説に似ていたとて、何も犯罪の証拠にはならないのだから」
 廣介は咄嗟の間に、心を定めて、ゆったりした態度を取返すことが出来ました。
「ハハハハ……、君もつまらない苦労をする男だね。僕が人見廣介だって? ナニ人見廣介だって一向構いはしないが、どうも僕は菰田源三郎に相違ないのだから、致方(いたしかた)がないね」
「イヤ、私の握っている証拠がそれ丈けだと思っては、大間違いですよ。私は何もかも知っている。知ってはいるのだけれど、あなた自身の口から白状させる為に、こんな廻りくどい方法を()ったのです。いきなり警察沙汰なんかにしたくない理由(わけ)があったものですから。という訳は、私はあなたの芸術には心から敬服しているのです。いくら東小路(ひがしこうじ)伯爵夫人のお頼みだからといって、この偉大な天才を、むざむざ浮世(うきよ)の法律なんかに裁かせたくないからです」
「すると、君は東小路からの廻し者なんだね」
 廣介はやっと意味を悟ることが出来ました。源三郎の妹のとついでいる東小路伯爵というのは、数多(あまた)の親族の(うち)で、金銭の力で自由に出来ない、たった一人の例外だったのです。北見小五郎はその東小路夫人の手先の者に相違ありません。
「そうです。私は東小路夫人の御依頼によって来ているものです。日頃お国の(ほう)とは殆ど御交際のない東小路夫人が、遠くからあなたの行動を監視なすっていたとは、あなたにしても意外でしょうね」
「イヤ、妹が僕にとんでもない疑いをかけているのが意外だよ。逢って話して見ればすぐ分ることなんだが」
「そんなことをおっしゃった所で、今更ら何の甲斐があるものですか。『RAの話』は私があなたを疑い始めたほんのきっかけに過ぎないので、本当の証拠は(ほか)にあるのですから」
「では、それを聞こうではないか」
「例えばですね」
「例えば?」
「例えば、このコンクリートの壁にくっついている一本の髪の毛ですよ」
 北見小五郎はそういって、かたわらの大円柱の表面の蔦を分けて、その間に見える白い地肌から、優曇華(うどんげ)の様に生えている、一本の長い髪の毛を見せました。
「あなたは多分、これが何を意味するか御承知でしょうね。……、オット、それはいけません。あなたの指が引金にかからぬ先に、ごらんなさい。私の弾が飛び出しますよ」
 北見はそういって、右手に持った光るものをさしつけました。廣介はポケットに手を入れたまま化石した様に、動けないのです。
「私はこの間から、この一本の髪の毛について考えつづけていたのです。そして、今あなたとお話ししている間に、やっと真相にふれることが出来ました。この髪の毛は一本丈け放れたものでなくて、奥の方で何かに続いているということを確めることが出来たのです。では今それをためして見ましょうか」
 北見小五郎は云うかと思うと、やにわにポケットから大形のジャック・ナイフを取り出して、髪の毛の下のあたりを目がけて、力まかせに突き立て突き立てしたのです。するとコンクリートがバラバラとこぼれて、やがて巖乗な刃物が(なか)ばもかくれたかと思うと、その刃先を(つたわ)って、真赤な液体がタラタラと流れ出し、見るまに白いコンクリートの表面にあざやかな一輪の牡丹(ぼたん)の花が咲いたのです。
「掘り返して見るまでもありません。この柱には人間の死体が隠してあるのです。あなたの、いや菰田源三郎氏の夫人の死体が」
 幽霊の様に青ざめて、今にもそこへ坐り相な廣介を、片手で抱きとめながら、北見は普通の調子で続けました。
「無論私はこの一本の髪の毛から凡てのことを推察した訳ではありません。人見廣介が菰田源三郎になりすます為には、菰田夫人の存在が最大の障礙(しょうがい)に相違ない、という点に気がついたのです。それであなたと夫人の間柄を注意深く観察している内に、ふと夫人の姿が我々の眼界から消えてしまう様なことが起りました。他の人はだましおおせても私をだますことは出来ません。これはてっきりあなたが夫人を殺害なすったに相違ないと考えたのです。殺害したからには死体の隠し場所がある筈です。あなたの様な方はどんな場所をお選びなさるでしょうね。ところで、私にとって好都合だったのは、これもあなたはお忘れなすっているかも知れませんが、『RAの話』にその隠し場所がちゃんと暗示されてあったのです。あの小説にはRAという男が彼のアブノルマルな好みから、コンクリートの大円柱を立てる際に、昔の橋普請(はしぶしん)などの伝説を真似て、(小説のことですから人を殺すのは自由自在です)必要もないのにそのコンクリートの中へ、一人の女を人柱(ひとばしら)として生埋めにすることが書いてありました。若しやと思って、夫人がこの島へ来られた日をくって見ますと、丁度この円柱の板囲(いたがこ)いが出来上って、セメントを流し込み始めた頃であったことが分りました。実に安全な隠し場所ですね。あなたはただ、人のいない時を見はからって、足場の上まで死体を抱き上げ、板囲の中へ落し込み、その上から二三杯のセメントを流して置きさえすればよかったのですから。ですが、夫人の髪の毛が一本丈けコンクリートの外へもつれ出していたというのは、犯罪には何かしら思わぬ行違いが出来るものではありませんか」
 もう廣介は、他愛もなくくずおれて、円柱の丁度千代子の血潮のあたりに凭れかかっていました。北見小五郎は、そのみじめな有様を、気の毒そうに眺めながら、でも考えていた丈けのことは云ってしまう積りでした。
「それを逆にしますと、つまりあなたが夫人を殺害しなければならなかったということは、とりも直さずあなたが菰田源三郎ではなかったことです。分りますか。この夫人の死体がさっき云った証拠の一つなのですよ。無論それ丈けではありません。私はもう一つ最も重大な証拠を握って居ります。多分もう御分りだと思いますが、それは外でもない菰田家の菩提寺の墓場にあるのです。人々は菰田氏の墓場から死骸が消えうせ、別の場所に菰田氏とそっくりの生きた人間が現れたのを見て、(たちま)ち菰田氏が蘇生したものと信じ切ってしまいました。ですが、棺桶の中から死体がなくなったといって、必ずしもその死体が甦ったとは極められません。死体は(ほか)の場所へ運ばれているかも知れないからです。外の場所、それは最も手近な所に幾つも棺桶が埋めてあるのですから、死体を運び出した者がそれをどこかへ隠そうとするなら、そのお隣の棺桶ほど屈竟(くっきょう)の場所はありません。何とうまい手品ではありませんか。菰田源三郎の墓の隣には源三郎の祖父に当る人の棺が埋めてあるのですが、そこには今、あなたの思遣(おもいや)りのあるはからいで、お(じい)さんと孫とが、骨と骨とで抱合って、仲よく眠っているのですよ」
 北見小五郎がそこまで話し進んだ時、くずおれていた人見廣介は、突然がばとはね起きて、薄気味悪く笑い出すのでした。
「ハハハ……、イヤ、君はよくも調べ上げましたね。その通りです。寸分間違った所はありません。だが、実をいうと、君の様な名探偵を(わずら)わすまでもなく、僕はもう破滅に(ひん)していたのですよ。遅いか早いかの違いがあるばかりです。一時は僕もハッとして、君に手向(てむか)おうとまでしましたが、考え直して見ると、そんなことをした所で、僅か半月か一月今の歓楽を延すことが出来る丈けです。それが何でしょう。僕はもう作りたい丈けのものを作り、したいだけのことをしました。思い残す所はありません。いさぎよく元の人見廣介に返って、君の指図に従いましょう。打開けますと、さすがの菰田家の資産も、あとやっと一月この生活をささえる程しか残っていないのですよ。併し、君はさっき、僕みたいな男を、むざむざ浮世の法律に裁かせたくないとか云われた様でしたね。あれはどういう意味なんでしょうか」
「有難う。それを(うかが)って私も本望です。……あの意味ですか、それは、警察なんかの手を借りないで、いさぎよく処決して頂き度いということです。これは東小路伯爵夫人のいいつけではありません。やはり、芸術につかえる一人の(しもべ)として、私一個人の願いなのですが」
「有難う。僕からも御礼を云わせて下さい。では、暫く僕を自由にさせて置いて下さるでしょうか。ほんの三十分ばかりでいいのですが」
「よろしいとも、島には数百人のあなたの召使がいますけれど、あなたを恐しい犯罪者と知ったなら、まさか味方をする訳もないでしょうし、又味方をかり集めて、私との約束を反故(ほご)になさるあなたでもありますまい。では、私はどこにお待ちしていればよいのでしょうか」
「花園の湯の池の所で」
 廣介は云い捨てて、大円柱の向側に見えなくなってしまいました。

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