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青铜魔人-夜光表

时间: 2021-10-30    进入日语论坛
核心提示:夜光の時計 昌一(しょういち)君のおとうさんの手塚龍之介(てづかりゅうのすけ)さんも、そういう心配組のひとりでした。 手塚さ
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夜光の時計


 昌一(しょういち)君のおとうさんの手塚龍之介(てづかりゅうのすけ)さんも、そういう心配組のひとりでした。
 手塚さんは三十何歳の時、兵隊に召集(しょうしゅう)せられて、五年余りも戦地で苦労したのですが、戦争がおわって帰って見ると、さいわいにも港区の家は焼けていなかったけれど、おくさんは長い病気で見るもあわれな姿になっていました。そして、待ちに待った手塚さんの顔を見ると、安心したせいか、わずか数日ののち、この世を去ってしまいました。
 そのかわりには、五年間に残していったふたりの子ども、昌一君とその妹の雪子(ゆきこ)ちゃんが、びっくりするほど大きくなって、元気に育っていました。昌一君はことし十三歳、雪子ちゃんは八歳になります。
 手塚さんは戦争前には非常なお金持ちでしたが、現在ではいろいろな財産を手ばなしてしまって、やっと広い邸宅が残っているだけでした。親子三人に書生と女中、それから同居の戦災者の家族が六人いますけれど、それでもお家がひろすぎてさびしいほどでした。
 手塚さんは、そんな中にも、これだけは手ばなさないで、たいせつに持っている宝物がありました。それはヨーロッパのある小国の皇帝が愛用されたという、大型の懐中時計ですが、機械がよくできているばかりでなく、がわのプラチナにはみごとな模様が彫刻してあって、それにダイヤモンドや、そのほかの宝石が無数にちりばめられ、時計というよりも、一つのりっぱな美術品なのです。無数の宝石のために、暗やみでも(にじ)のような光をはなつというので、この時計は、「皇帝の夜光の時計」と名づけられていました。
 手塚さんが青銅の怪人の新聞を読んで心配したのは、この時計を持っているからでした。「夜光の時計」のことは世間にもよく知られていて、新聞や雑誌にも出たことがあるくらいですから、あの魔物のような怪物が気づかぬはずはありません。
 昌一君もそのことが心配でたまらないものですから、ある日、おとうさんにたずねてみました。
「ねぇ、おとうさん、うちの夜光の時計はだいじょうぶでしょうか。」
「青銅の機械人間のことだろう。」
 おとうさんもひじょうに心配らしい顔で、すぐお答えになりました。
「ナアニ、あれはだいじょうぶだよ。いくら魔物のようなやつだって、あれがとりだせるものか。鉄筋コンクリートの蔵の中の金庫にしまってあるんだからね。蔵を破ってはいったとしても、金庫をひらくことができない。それに、コンクリートの蔵を破るなんて、コッソリできる仕事じゃないからね。」
 手塚さんは口でこそ自信ありげにいっていますが、内心はやはり心配でしかたがないようすです。
「ほんとうにだいじょうぶでしょうか。ふつうのどろぼうじゃないのですよ。いつでも追っかけられると、煙のように消えてしまうじゃありませんか。あいつは、どんなせまいすきまからでも、幽霊みたいにスーッとはいりこむかもしれませんよ。」
「そんなばかなことがあるもんか。しかし、おまえがそれほど心配なら、蔵の外に見はり番をおくぐらいのことはしてもいいがね。」
 手塚さんもじつは数日前から見はり番のことを考えていたのでした。ところが、ふたりがそんなそうだんをした、ちょうどその日の夕方、早くも心配が事実となって現われ、おそろしいことがおこりました。昌一君がその時庭へ出たのは、まっかな夕焼け雲が美しかったからです。しかし、それからつづいて、庭の奥のうすぐらい木立(こだ)ちの中へ、どうしてはいって行く気になったのか、あとになって考えてみても、よくわかりません。虫が知らせるというのでしょうか。ただなんとなく、そこへ行ってみたくなったのです。
 手塚家の庭は千坪もあって、築山(つきやま)や、池があり、奥のほうは森のような木立ちになっているのですが、戦争中から久しく手いれをしないので、木立ちの下には落葉がたまって、歩くとジュクジュクして、気味がわるいようです。
 昌一君は何かに引きつけられるように、そのうすら寒い、うす暗い木立ちの中へはいって行きました。
 ひとかかえ以上もある大木が重なりあって立っていて、五六歩もふみこむと、もう、一(けん)さきが見えないほどの暗さです。大きな森林の中へでも迷いこんだような感じなのです。
 ジュクジュクする落葉をふんで歩いて行きますと、自分の足音のほかに、なんだかへんな音がきこえてきました。ギリギリ、ギリギリという、貝がらでもすりあわせているような音です。
 虫が鳴いているのかしら。今ごろ虫が鳴くはずはないが、へんだな。オヤ、なんだか人間が歯ぎしりしているような音だぞ。
 そこまで考えると、昌一君はハッとして立ちすくんでしまいました。
 歩くのをやめても、その音はまだきこえています。しかも、それが、だんだん高くなってくるのです。
 アア、歯ぎしりの音、あの有名な歯ぎしりの音。昌一君は一度もきいたことはありませんが、新聞の記事で知っています。青銅の魔人の歯車じかけは、ちょうど歯ぎしりのような音をたてるというではありませんか。
 きっとそうだ。あの木のかげに、あいつがかくれているんだ。と思うと、ワッと(さけ)んで逃げだしたいのですが、おそろしさに、からだがしびれたようになって、声をたてることも、身うごきすることもできなくなってしまいました。
 一間ほどむこうのうす闇の中に、何かユラユラ動いたものがあります。見まいとしても、目がそのほうに釘づけになって、見ないわけにはゆきません。
 大木のかげから、あいつが姿を現わしたのです。暗いのでボンヤリとしか見えませんが、銅像のような顔、銅像のようなからだ。服は着ていません。全身金属の怪物です。
 大きな顔にポッカリほら穴のようにひらいた両眼、その穴の奥からチロチロと光ったものがのぞいています。怪物のひとみです。それから、三日月型にギューッとまがった口、これもまっ黒な穴になっています。
 新聞に書いてあったとおりです。イヤ、それよりいくそう倍もおそろしい姿です。
 怪物は機械のようなぎごちない歩きかたで、ジリジリとこちらへ近づいて来ます。そして、歯ぎしりに似た歯車の音は、刻一刻、はげしく強くなってくるのです。
 昌一君は石になったように、身うごきもしないで、怪物を見つめていました。勇気があるためではありません。今にも気をうしなわんばかりの、何がなんだかわからない気持ちで、目だけが相手をじっと見つめていたのです。
 怪物の右手がヌッと前に出て来ました。その手の先の、ちょうつがいになった青銅の指のあいだに、一枚の白い紙がはさまっています。怪物はそれを昌一君に渡そうとでもするように、気味のわるいかっこうで、こちらへつきだすのです。
 昌一君は、その紙を受けとる勇気なぞありません。やっぱり化石のように、身うごきもしないで、立ちすくんでいました。
 すると怪物は、また一歩近づいて、グーッと上半身をまげ、昌一君の頭の上におおいかぶさったかと思うと、その三日月型の口のへんから、金属をすりあわせるようなするどい音がもれて来ました。歯車とは別の、もっと大きな音です。
 キ、キ、キと物のきしむような音ですが、何か意味のあることばらしくも感じられます。狂ったラジオでもきいているようです。
「アシタノ、バン、ダヨ。」
 気のせいかもしれません。しかし、なんだかそんなふうに聞きとれたのです。
 それからまた、
「ヤコウ、ノ、トケイ。」
 そういうようなきしみ音も聞こえました。この二つのことばが、なんどもなんども、くりかえされたように思われるのです。
 しばらく、その気味のわるい音をさせたあとで、怪物はまげていたからだをのばし、クルッとうしろむきになって、例の機械のような歩きかたで、ゆっくりと、むこうの闇の中へ消えて行きました。
 そのあとに、さっきの白い紙きれが、拾えといわぬばかりに落ちています。
 怪物が立ちさっても、昌一君はたっぷり一分間、そのままボンヤリ立っていましたが、やっとからだの自由をとりもどすと、いきなり、その紙きれを拾いあげて、やにわにお家のほうへかけだしました。

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