もう大分以前に活動館などもはねてしまって、はなやかなイルミネーションは大方消えていた。広い公園にはまばらな常夜燈の光があるばかりだった。盛り時にはどこまでも響いて来る木馬館の古風な楽隊や、活動街の人のざわめきなども、もうすっかり無くなっていた。盛り場だけに、この公園の夜更けは、一層物さびしく、変てこな凄味さえ感じられた。腕時計はほとんど十二時を指していた。
彼は腰をおろすと、それとなく先客達を観察し始めた。一つのベンチには口ひげを蓄えたしかつめらしい洋服の男、一つのベンチには、帽子も冠らぬ、魚屋の親方とでもいい相な、遊人風の男、そしてもう一つのベンチには、ハッとしたことには、さい前の奇怪な一寸法師奴が、ツクネンと腰かけていたのである。
「彼奴め、さっきから影の様に、己の跡へくっついていたのではないかしら」
紋三はなぜか、ふとそんなことを思った。変に薄気味が悪かった。その上都合の悪いことには常夜燈が丁度紋三の背後にあって、それが樹の枝を通して、一寸法師のまわりだけを照していたので、この畸形児の全身が比較的はっきりと眺められた。
モジャモジャした、濃い髪の毛の下に、異様に広い額があった。顔色の土気色をしているのと、口と目が釣り合いを失して、馬鹿に大きいのが目だっていた。それらの道具が、大抵はさも大人らしく取済ましているのだが、どうかすると、突然痙攣の様に、顔中の筋ばることがあった。何か不快を感じて顔をしかめる様でもあったし、取り様によっては苦笑しているのかとも思われた。その時顔全体が足を伸した女郎蜘蛛の感じを与えた。
荒い飛白の着物を着て、腕組みをしているのだが、肩幅の広い割に手が非常に短いため、両方の手首が、二の腕まで届かないで、胸の前に刀を切結んだ形で、チョコンと組合わさっていた。身体全体が頭と胴で出来ていて、足などはほんの申訳に着いている様だった。高い朴歯の足駄をはいた太短い足が地上二三寸のところでプラプラしていた。
紋三は彼自身の顔が蔭になっているのを幸い、まるで見世物を見る様な気持で、相手を眺めた。始めの間は幾分不快であったけれど、見ている内に、彼はこの怪物に段々魅力を感じて来た。恐らく曲馬団にでも勤めているのだろうが、こんな不具者は、あの鉢の開いた大頭の中に、どの様な考えを持ってるのかと思うと、変な気がされた。
一寸法師はさい前から、妙に盗む様な目つきで、一方を見つづけていた。その目を追って行くと、かげになった方のベンチにかけている二人の男に注がれていることが分った。洋服紳士と遊人風の男とは、いつの間にか同じベンチに並んで、ボソボソ話し合っていた。
「存外暖かいですね」