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一寸法师-密会(08)

时间: 2021-09-29    进入日语论坛
核心提示: 途切れ途切れの切ない声だった。それが一こという度に、闇の中を、はう様に百合枝の方へ近寄って来た。事実声の主は少しずつ、
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 途切れ途切れの切ない声だった。それが一こという度に、闇の中を、はう様に百合枝の方へ近寄って来た。事実声の主は少しずつ、少しずつ、彼女の方へにじり寄って来るらしく、黒いもののうごめく気勢(けはい)が、段々身近に感じられた。
 百合枝は変な気持だった。ただ怖いのではなくて、何かこう不気味な獣に襲われている様な、妙なすごさだった。それに不思議なことには、相手の告白を聞いている内に、その蛇の様な執念に、ある魅力を感じ出していた。それは憐みの情というよりも、もっと肉体的な一種の(なつか)しさであった。
 突然柔かいものが彼女の膝をはい廻って、逃げる暇も与えず、つと彼女の手を握った。冷く汗ばんだ男の(てのひら)が感じられた。
「アラ」
 百合枝は、思わず低い叫びを上げて、それを振り離そうとした。だが、思い込んだ男の手は、(もち)の様にねばり強くて、容易に離れなかった。離れないばかりか、段々強い力で彼女のきゃしゃな指を締めつけて行った。
 それと同時に妙な音が聞え始めた。百合枝は最初、男が(せき)をしているのかと思った。コホン、コホンと烈しく(のど)が鳴った。だが、間もなくそれが鼻をすする音に変り、そして、不意にククククククククククと、むせ返る様な声が起った。男が泣き出していたのだ。彼は百合枝の手先を締めつけ締めつけ、彼女の腕にポタポタと涙を落して、気でも狂った様に泣き続けた。
 百合枝は男の激情に引入れられて、彼女もいつの間にか、不思議な興奮を覚えながら、片手を男のなすがままに任せて、黙って彼の泣き声を聞いていた。手の上に雨の様に降りかかる涙の感触が、彼女の恐怖を少しずつやわらげて行った。
「百合枝さん、百合枝さん」
 男は泣きじゃくりの間々(あいだあいだ)に、幾度となく彼女の名を呼んだ。そして、彼の一方の手は、大きな昆虫の様に、五本の足で百合枝の全身をはい歩いた。膝から帯を越し、むずがゆく乳の上をはって、なだらかな肩をすべり、背筋のくぼみを、あやす様になで廻した。百合枝は薄い着物を通して、ジトジト汗ばんだ柔かい掌を、直接肌に触れられでもした様に、不気味に感じた。だが、それは(はなは)だしく不気味であったにも拘らず、同時に怪しくも彼女の道念を麻痺(まひ)させる力を持っているかと見えた。

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