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一寸法师-疑惑(12)

时间: 2021-09-29    进入日语论坛
核心提示: 彼は昨夜山野夫人達がいつの間にか内(うち)の中から消えてしまったことを手短(てみじか)に話した。 明智はその不思議な事実を
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 彼は昨夜山野夫人達がいつの間にか(うち)の中から消えてしまったことを手短(てみじか)に話した。
 明智はその不思議な事実を、一向驚きもしないで、興味のない顔で聞き流した。そして、ふと何か思いついた様に、突然まるで違ったことを尋ねた。
「三千子さんは血色のいい方だったかい。写真ではよく分らないが、どっちかといえば赤味がかったつやつやした顔じゃなかったの?」
「イヤ、その正反対ですよ。別に身体が弱かった様にも聞きませんが、どっか病的なすさんだ感じで、顔なんかも青白い(ほう)でした。それをお化粧と表情の技巧で巧に隠していました。僕は以前から、何だか処女という感じがしなかったのですよ」
 紋三は変な顔をして明智を見た。明智はしきりと例の頭の毛をかき回す癖を始めていた。
 やがて明智はしゃべるだけしゃべってしまうと、相手がまだ何か聞きたそうにしているのも構わず、もう用事が済んだという調子で、女中を呼んでお茶を命じた。
 間もなく紋三は(いとま)を告げて菊水旅館を出た。彼は歩きながらも、電車に乗ってからも、明智に見せてもらった証拠品と、次々に現れて来た疑わしい人物のことで頭が一杯だった。
「あの中で、化粧品と吸取紙は三千子さんの指紋を確めるだけのものだから別として、椅子(イス)のクッションから出た手紙によって北島春雄を疑えば疑い得る外には、ヘヤーピンにしろ、石膏像にしろ、ショールにしろ、手提にしろ、フェルト草履にしろ、ことごとく山野夫人に不利な証拠ばかりだ。その上夫人は怪しい手紙を七輪にくべたり、不思議な男と密会したりしている。たれが考えたって、夫人こそ第一の嫌疑者に相違ない」
 紋三は明智の弁護があったにも拘らず、どうしてもこの考えを捨てることは出来なかった。彼は又、今までに現れた疑わしい人物と、想像し得べき殺人の動機について考えて見た。
何等(なんら)かの意味で疑うべき人物が六人ある。その内一寸法師と昨夜山野夫人を連れ出した男とは、まるでえたいが知れない。運転手の蕗屋は、丁度事件のすぐあとで国に帰ったこと、先程の焼残った手紙の中に彼の名前が記されていたことなど、十分疑うべき所はある。だが、この三人は、どうも直接の加害者でなさそうだ。今の所何等疑うべき動機がないし、前後の事情を考えても、そんな風に思われる。それに反して山野夫人、北島春雄、小松の三人にはそれぞれ三千子を殺し兼ねない動機がある。夫人は三千子の継母で、あの我まま娘と仲のよくなかったことは確だし、北島は失恋の恨みで気違いの様になっていたのだし、小松は蕗屋との恋を奪われた深い恨みがあったのだ。ところで、この三人の内、もし北島が加害者だとすると、当夜外から人の入った形跡のなかったこと、(あらかじ)め兇器を用意しないで三千子の部屋の石膏像なんかを使用したこと、三千子の死体を一度隠してあとになって持出したことなどが、一寸つじつまが合わぬ様に思われる。小松は元来おとなしい女で、あんな恐しいことは出来相もないし、もし彼女が犯人だったとすれば、なぜ昨夜まで逃亡を躊躇(ちゅうちょ)していたかが疑問だ。結局最も疑わしいのは山野夫人ではあるまいか」
 紋三の考えはどうしてもそこへ落ちて行った。彼はまだ生々しい昨夜の奇怪な経験を忘れることが出来ないのだ。

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