その日、平野君は、おねえさまにつれられて、お友だちのところへ遊びにいったのですが、夕がた、もう、あたりがうすぐらくなってから、ふたりで、おうちへ帰ってきました。
そのへんは、さびしい、やしき町で、とある町かどに、ちょっとしたあき地があって、そこに、ひじょうに古い、カシの大木が、空をおおって、巨人のようにそびえていました。遠くから、目じるしになるような、大きなカシの木なのです。
ふたりが、その下を通りかかったとき、平野少年は、なにげなく、頭の上を、見あげましたが、すると、どうしたのか、少年は、ピッタリ、そこに立ちどまったまま、動かなくなってしまいました。
「一郎さん、どうしたの。なにを、そんなに見つめているの。」
おねえさまも、立ちどまって、ふしぎそうにたずねました。
「ねえさん、ごらん、へんなものがいるよ。ホラ、あの木の上に。」
おねえさまも、空を見あげました。そして、一郎君と同じように、身うごきもできなくなってしまいました。
そこには、じつに異様なものが、あったのです。
カシの木の地上十メートルほどの、大きな枝の上に、木の葉ではない、茶色の大きなものがのっているのです。うすぐらくなっているので、ボンヤリとしか見えませんけれど、それは、どうみても、人間のすがたでした。茶色の洋服をきた、りっぱな紳士が、枝にまたがっているのです。頭には、やはり、茶色のソフトをかぶっていました。
「あんな高いところへ、どうして、のぼったんだろう。なにをしているんだろう。」
「へんね。きみが悪いわ、はやく行きましょう。」
「アッ、ねえさん、まって。あいつの顔、ピカピカ光ったよ。ごらん、銀色の顔をしているよ。」
いかにも、ソフトの下から、銀色の顔が、じっとこちらを見ています。そして、三日月がたの口で、ニヤニヤ笑っているではありませんか。
ふたりは、ゾーッとして、いきなり、かけだしました。手をつなぎあって、いちもくさんに、おうちのほうへ、走ったのです。
まっさおになって、息せききって、おうちにかけこむと、木の上の怪物のことを知らせました。すると、まず、おとうさんが、とびだしてこられ、やがて、さわぎを聞きつけた近所の人たちが集まってきました。そして、だんだん、人数が多くなり、十数人の人々が、おずおずとカシの木の下へ近づいていったのですが、その中には、北村さんのすがたも見えました。だれかが知らせにいったのでしょう。やがて、警官も、かけつけてきました。
やがて、みんなが、カシの木の下に集まりました。もうそのころは、空が暗くなっていましたが、でも、目をこらせば、怪物のすがたが、おぼろげに見えるのです。
「みなさん、たしかに、あいつです。ごらんなさい、あの銀色の顔を。それから、せなかのはねを……。」
北村さんが、ささやき声で、言いました。いかにも、背広のせなかに、まっくろな長いものが、くっついています。れいのコウモリのはねです。
それが、宇宙怪人とわかると、人々は、思わずあとじさりをしました。そして、いまにも、逃げだそうとしていたとき……、木の上の怪物のほうでも、大きく身うごきしました。コウモリのはねが、パッとひらいたのです。洋服の紳士に、はねがはえたのです。
地上の人々の口から「ワーッ。」という、恐怖の声がわきあがりました。怪物が、こちらへ、とびかかってくるように、思われたからです。
怪物は、サッと、木の枝をはなれると、大きなはねで、宙にうきました。人々は、もう一度、「ワーッ。」と、声をたてて、われさきにと逃げだしたのですが、怪物は、下へとびかかってくるのでなくて、空へ、まいあがったのです。