火の柱
そのとき、虎井博士が、一歩まえに出て、両手をひろげながら、さも感心したように、いうのでした。
「えらいっ。さすがに明智先生だ。よくも、そこまでやりましたね。しかし、まだまだ、わからないことがありますよ。円盤がにせものだったとすると、北村という青年が、怪人に日本語をおしえた一件は、どうなるのですかね。それから、怪人は海の底を、自由自在に、およぎまわったが、人間にあんなまねができるものですかね。」
「よろしい。それでは、さいごのふたりの証人を、よび出しましょう。」
明智がそういって、あいずをしますと、入口のドアのそとから、ふたりの人物がツカツカとはいって来ました。そのひとりは、平野少年となかよしの、あの科学ずきの北村青年でした。
「北村君、きみがぼくたちに話したことは、みんな、つくり話だったんだね。」
明智がいいますと、青年はうなずいて、
「そうです。ある人にたのまれて、うそをいったのです。しかし、お礼の金に目がくらんだのではありません。わけがあって、ぼくは、すすんで、うそをついたのです。そのわけは、あとでいいます。宇宙怪人にさらわれて、丹沢山へつれていかれたことも、そこの円盤の中でくらしたことも、怪人に日本語をおしえたことも、魔法の鏡で怪人の思っていることがわかったのも、スポイトのようなピストルから、殺人ガスが発射されて、一ぴきのサルが、たちまち灰になったというのも、みんな、つくり話です。」
「それから、怪人をコンクリートのくらの中へ、とじこめたとき、怪人が消えうせたのも、きみの手品だったね。」
「そうです。窓の鉄棒をゆるめておいたのです。怪人はその鉄棒をはずして、窓から逃げたのです。逃げたあとで、ぼくはソッと、くらのうしろへ行って、鉄棒をもとのとおりにし、コンクリートのこわれたところへ、セメントを水にとかして、ぬっておきました。そして、上からゴミをかけて、新しいセメントに見えないようにしておいたのです。まさか、ぼくが怪人のみかただとは、だれも知らないものですから、この手品が、うまくいったのですよ。」
「よろしい。それでは、こんどはきみだ。きみは千葉県の保田の漁師だったね。ゆうべ、海の中で、なにをやったかいってごらん。」
明智のことばに、北村青年のとなりにいた、インド人のようにまっくろな男が答えた。
「そうです。わしはモグリの名人で、保田のきんぺんでは、わしにかなうものは、ひとりもいねえ。アマよりもモグリがうめえです。五分間ぐらいは、水の中にいてもへいきだ。ゆうべは、ある人にたんまりお礼をもらって、怪人の衣裳をつけて、海の底へもぐった。
そして、潜航艇におっかけられるまねをして、逃げてまわって見せたのです。もっとも、いくらわしでも、そのあいだじゅう、もぐっていたわけじゃねえ。ときどき、潜航艇の光のそとへ出て、コッソリ水面にうきあがって、いきをすいこんでは、またもぐって、光の中にはいって、逃げまわって見せた。しまいに、黒い毒のクスリが海の底にひろがったが、あれは、ただの黒い水で、毒でもなんでもなかったです。」
「ワッハハハハ……。」
とつぜん、おそろしい笑い声が、へやじゅうに、ひびきわたりました。虎井博士が、からだをゆすって、笑っているのです。
「ワハハハ……、明智先生、ずいぶん証人をならべましたね。しかし、宇宙怪人は日本ばかりじゃない。アメリカにも、ソビエトにもあらわれている。あんたのいうような、こどもだましの手品で、世界じゅうがだまされると思うのですか。それから、宇宙怪人は、博物館の仏像や、博物館長や、学者、芸術家などをさらっていったが、その人たちは、いったい、どうしたのですか。」
しかし、明智は少しもひるみません。