チンピラ少年が、おそろしく早口で、ぺらぺらしゃべるので、みんな、おもわず、わらい顔になりました。なにも知らないでただむじゃきにやったことでした。
「よし、きみはさがって、つぎは、そこにいらっしゃる、ふたりの新聞記者だ。ちょっと、こちらへ出てください。」
明智のことばに、ふたりの若い新聞記者は、頭をかきながら、まんなかへ出てきました。
「このあいだから、中村警部に、さんざん、あぶらをしぼられましてね。虎井博士にも、明智さんにもじつにめんぼくないわけですが、ぼくたちは、つい、新聞に大ニュースをのせたいばかりに、とんだ、はじさらしをやってしまいました。」
ひとりの記者が、そこまでいいますと、あとを写真部の記者がひきとって、
「ぼくたちは、金をもらったわけじゃありません。まったく名誉心からです。あるばん、行きつけの酒場で、みょうな男に出あったのです。そいつに、たきつけられたのです。きみたち、ヘリコプターにのって、空中で宇宙怪人に出あったという記事を書けば、すばらしいニュースになる。ひとつやってみないかとおだてられたのです。そればかりじゃありません。そのみょうな男は、八ぴきの宇宙怪人が、空を飛んでいる写真をくれたんです。おれは、写真きちがいでね。苦心をして、こんな写真をつくったんだよ。どうだ、うまくできているだろう。これを、きみがヘリコプターの中から、とったといって、新聞にのせれば、読者はよろこぶぜ、ひとつやってみたまえ。サア、前祝いだといって、ふんだんに、ごちそうしてくれたんです。ぼくたちは、そのみょうな男のさいみん術にかかって、ついその気になったわけですよ。それに、空中のできごとで、だれも見ちゃいないのですし、宇宙怪人のほうから、あの写真はニセモノだなんて、もんくをいってくるはずはありませんからね。だいじょうぶ、バレることはないとおもったのですよ。」
そして、ふたりの新聞記者は「世間をさわがせて、どうも申しわけありません。」と、ペコリと頭をさげて、かべぎわに、ひきさがっていきました。
「サア、これで、いちおう証人のもうしたては、すみました。つぎには、実物のしょうこを、ひとつお目にかけます。」
明智探偵は、そういって、庭にめんした窓のところへいき、ひもをひっぱって、黄色のブラインドをおろしました。もう、すっかり日がくれて、庭はまっくらでした。
「このブラインドをよく見ていてください。ハイ、スイッチ。」
その声におうじて、入口のそばにいた警官が、電灯のスイッチをカチッとおしたので、へやの中は、たちまち、まっくらになってしまいました。
虎井博士も、ふたりの少年も、四人の証人も、八人の警官も、うっすらと見えている、窓のブラインドの布を、じっと見つめました。しばらくは、なにごとも、おこりませんでしたが、やがて、ブラインドの表面が、どこかから、ライトでもあてているように、ボーッと白くなりました。そして、そこに、異様なもののかげがうつったのです。
はじめは、ボンヤリして、なにかわかりませんでしたが、だんだんハッキリしてきました。大きなはねのようなものを、しょっています。顔には鼻がなくて、すぐ口になっています。大きなヘラヘラした口です。それが、笑ってでもいるように、きみわるく、うごくのです。
宇宙怪人です。円盤にのって、飛びさったはずの怪物が、まだしゅうねんぶかく虎井博士をねらっているのでしょうか。明智や中村警部や小林少年などは、わけを知っていたので、へいきでしたが、ほかの人たちはびっくりしてしまいました。中にはアッと声をたてて逃げだそうとしたものさえあります。
「よろしい、電灯をつけてください。いま、たねあかしをします。」
パッと電灯がつきました。明智は、ツカツカと窓のところへ行って、ブラインドをあげました。そして窓から首をだして、
「それを、ここへ持ってきたまえ。」
と声をかけますと、くらやみの庭のむこうから、ひとりのせびろの男が、手に、大きな黒い箱のようなものを持って、窓の方へ近づいてきました。明智は、窓ごしにその箱を受けとって、へやの中の人々に見せました。
「これは幻灯器械です。ぼくの助手が、庭の木の中にかくれて、庭の電灯からコードをつないで、いまの影をうつしたのです。影は動くようになっているのです。いつか、平野ゆりかさんのへやのしょうじに、これとおなじ影がうつりました。いとこの人が、とびついていって、しょうじをあけたが、そこには、なにもいなかったので、星の世界の魔法だといって、さわがれたものです。あれは魔法でもなんでもない、かんたんな手品でした。いまと同じように、幻灯で影をうつしたのです。」