部屋の中からは、うつくしいバイオリンの音が、ながれだしています。おねえさまのゆりかさんが、ひいているのです。うずくまった黒いかげは、じっと頭をかしげて、そのバイオリンの音に、聞きいっているように見えました。
人間です。どこかのやつが、塀をのりこえて、庭へはいってきたのでしょう。どろぼうかもしれません。平野君は、すこしこわくなったので、そのまま、立ちどまって、あやしいやつを、じっと見ていました。
すると、うずくまっていた黒いかげが、ヌーッと立ちあがりました。そして、まるでロボットのような、きみのわるい歩きかたで、じりじりと、こちらへ近よってくるではありませんか。
平野君は、ネコににらまれたネズミのように、身うごきができなくなりました。目をいっぱいに見ひらいて、石にでもなったように、じっと立っているばかりです。
あやしいやつは、一歩一歩、やみの中をすすんできます。近づくにしたがって、そのかたちが、グッグッと大きくなるのです。
キラッと光りました。そいつの顔が、です。
平野君は、ゾーッと、せなかへ、氷をあてられたような気がしました……。宇宙怪人です。宇宙怪人が、庭にしのびこんでいたのです。そして、いま、目のまえに立ちはだかっているのです。
「キミノナ、ヒラノ、イチロ、ダネ、キミノアネ、ヒラノ、ユリカ、ダネ、ユリカ、オンガク、キレイ、ウツクシイ、ステキ、ワタシ、マイバン、ココキテ、キイタ。」
おお、それじゃ、この怪物は、今夜だけでなく、そのまえから、まいばん、おねえさまの部屋のそとへ、しのびこんでいたのでしょうか。
平野君は、にわかに、おねえさまのことが、心配になってきました。このトカゲ男は、いったい、おねえさまに、なにをするつもりなのでしょう。そう考えると、平野君の心のうちに、思いもよらぬ勇気がわいてきました。
「きみは、ぼくのおねえさまを、どうしようというんだッ。」そんなことばが、知らぬうちに、口からとびだしていました。
「ワタシノホシヘ、ツレテイク、ソシテ、ホシノヒトニ、ウツクシイ、チキューノ、オンガク、キカセル。」
怪物はそう言って、銀仮面の三日月がたの口の中で、ヘラヘラと笑いました。
「ソノウチ、キット、ツレテイク、アネニ、ソウイイナサイ、ホシノクニ、ウツクシイヨ、キミモ、イキタイカネ、ヘヘヘ……、サヨナラ、サヨナラ。」
言いたいだけ言ってしまうと、怪物はクルッとむきをかえて、サーッと、庭のおくの、こだちの中へかけこんでしまいました。そして、しばらくすると、ブーンという、あの空を飛ぶ音が、聞こえてきました。