あやしい影
こちらは、ゆりかさんのおうちです。ゆりかさんは、おくまった座敷に、おとうさんや、親戚の青年に、見まもられて、かくれていました。
いまは、ちょうど、宇宙怪人が、コンクリートのくらを、ぬけだしたころの時間です。日がくれて、電灯がついて、まもなくです。ゆりかさんは、ふすまやしょうじをしめきった、八畳の日本座敷に、すわっていました。おそろしさに、あおざめた顔が、やっぱり天女のように、うつくしいのです。そのゆりかさんを、三方から、かこむようにして、おとうさんと、弟の一郎君と、親戚の青年とがすわっています。
その青年は、平野のおとうさんの会社につとめているのですが、柔道三段のうでまえで、きょうは、ゆりかさんをまもるために、とまりがけで来ているのです。そして、さっきから、おもしろい冒険談をして、ゆりかさんをなぐさめているのでした。
「おじさんは、強いんですね。おじさんがいれば、安心ですね。もし、ここへ、あいつが、やってきても……。」
一郎少年が、話につられて、つい、言ってはいけないことを言いました。ゆりかさんの前では、宇宙怪人の話をしないことに、きめてあったのです。
「だいじょうぶだとも。ゆりかさんは、ちっとも、こわがることはありませんよ。それにあいつは、いまごろは、コンクリートのくらの中に、とじこめられているかもしれないのですからね。」
青年は、しかたなく、こんなふうに答えました。
「だけど、あいつは、地球の人間とちがって、星の魔法をつかうんだからな。ゆだんできませんよ。オヤッ……、なんだか、庭のほうで、へんな音がした。」
一郎君は、いやなことばかり言います。しかし、その音は、みんなの耳に聞こえました。なにか大きなけだものが、歩いているような、ぶきみな音でした。
「刑事さんが、庭を見まわっているのかもしれない。」
おとうさんが、ゆりかさんを、安心させるように言いました。
平野君のおうちのまわりには、五人の刑事が、たえず、見はりをつとめていました。そのうえに、小林君の部下の十数人のチンピラ隊が、ほうぼうにかくれて、いざというときには、とびだすことになっているのです。
「でも、人間の足音にしちゃ、すこし、へんですよ。もしかしたら……。」
一郎少年が、おびえきった顔で、そう言ったときでした。とつぜん、パッと、部屋の電灯が消えたのです。
ふだんなら、キャーッと、さけぶところですが、だれも声をたてません。ほんとうにおそろしいときには、のどがつまって、声なんか出ないのです。
停電かと思いましたが、どうも、そうではないようです。庭の電灯がついているとみえて、えんがわのほうから、ボーッと、うすいひかりが、しょうじに、さしています。
人々の目は、しぜんに、その明かるいほうに、むかいました。なぜか、そのボーッと白く見えるしょうじから、目がはなせないのです。まるで、魔物の力にひきよせられたように、目が、そらせないのです。
すると、そのとき、しょうじに、ボンヤリと、異様な影がうつりました。なにか、大きな動物です。それがきみ悪く、うごめいているのです。
目がなれるにしたがって、そのもののかたちが、ハッキリしてきました。
その黒い影は、鳥のような顔でした。からだは、人間に似ていますが、どこか大トカゲの感じです。そして、せなかに、ニューッと、コウモリのはねが、はえているのです。いうまでもなく、それは、宇宙怪人の、はだかのすがたでした。