ゆりかさんは、ひとめ、それを見ると、いきなり、うつぶせになってしまいました。一郎君は、キャーッと言って、逃げだしそうになるのを、やっと、ふみこたえていました。柔道三段の青年は、
「ちくしょう!」
と、さけびざま、たちあがりました。そして、ゆうかんにも、いきなり、影の、うつっているしょうじに、とびかかっていったのです。
ガラッと、しょうじのひらく音、アッという青年の声。
「なにもいません。どこへ、かくれたのでしょう。」
平野君のおとうさんも、一郎少年も、思わず青年のそばへ、かけよりました。しょうじのそとは、えんがわで、そのそとのガラスしょうじが、一枚、ひらいたままになっていました。
「ここから、逃げたんだ。庭です。庭へ逃げたんです。」
青年は、はだしで、庭へとびおりていきました。そして、用意していた、呼びこの笛を、ピリピリピリ……と、吹きならしました。これが、うちあわせてあったあいずです。たちまち、庭のおくから、ふたりの私服刑事が、かけつけてきました。
「どうしたんです。なにかおこったのですか。」
「いま、怪人が、このえんがわまで、あがってきたのです。庭へ逃げました。さがしてください。」
刑事たちは、懐中電灯をつけて、そのへんをさがしはじめました。おとうさんも、一郎君も、いつのまにか、はだしで、庭におりていきました。
そのさわぎのあいだ、ゆりかさんは、座敷のまんなかにうつぶしたまま、気をうしなったように、身うごきもしませんでした。
すると、そのときです。しょうじとはんたいがわのふすまが、しずかに、音もなくひらき、ひとつの黒い影のようなものが、スーッと、ゆりかさんのそばに近づいてきました。部屋の中は、まっくらですから、そのもののすがたは、ハッキリは見えませんが、オーバーを着た人間のようです。部屋の中なのに、ソフトまでかぶっています。
そのソフトの下に、白い顔がありました。なんという白さでしょう。それが、庭の電灯のひかりをうけて、キラッと、光りました。おお、白いのではなくて、銀色なのです。三日月がたの口が、笑っています。宇宙怪人です。みなが庭に気をとられているすきに、べつの方角からしのびこんできたのです。
怪人は、サッとゆりかさんを、こわきにかかえて、手ばやく、その口へハンカチをおしこみました。声をたてさせないためです。そして、ふすまのそとの暗やみへ、すがたをけしてしまいました。ゆりかさんは、ついに、さらわれてしまったのです。
では、さっき、しょうじにうつった影は、なにものだったのでしょう。あれははだかのかげでした。それが、たったあれだけのあいだに、服をきたり、仮面をつけたり、できるわけが、ありません。すると、今夜は、宇宙怪人がふたり、あらわれたのでしょうか。「空とぶ円盤」は、五つも飛んできたのですから、怪人も、おおぜいいるはずです。いよいよ宇宙怪人第二号が、あらわれたのでしょうか。