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消えた足跡

时间: 2022-08-09    进入日语论坛
核心提示:消えた足跡 ある冬の日曜日の朝のことでした。その前の晩に、東京ではめずらしいほどの大雪が降って、庭も屋根も表の道も、あつ
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消えた足跡


 ある冬の日曜日の朝のことでした。その前の晩に、東京ではめずらしいほどの大雪が降って、庭も屋根も表の道も、あつい綿につつまれたように、一面まっ白になっていました。
 明石一太郎君は、朝から近所の原っぱで、大ぜいのお友だちとはげしい雪投げをしました。
 十五六人がAB二組にわかれて、三十分ほども、雪玉を投げあいましたが、とうとう一太郎君の組がすばらしく勇勢でした。
 一太郎君は同じ方角に帰る三人のお友だちと、高らかに歌を歌いながら、雪をサクサクとふみしめて歩いてきました。
「やあ、みんな、真赤な顔をして、はりきっているじゃないか。どこへ行って来たんだい」
 声をかけられ、歌をやめて、その方を見ますと、大学生の高橋一郎さんが、自分の家の門の前に、ニコニコ笑って立っていました。この高橋さんは、いつもおもしろい、ためになるお話をしてくれたり、模型飛行機の競技会を開いてくれたり、野球の審判官になってくれたりするので、近所の少年たちに、たいへん人気のある、快活な学生さんなのです。
「雪投げをして来たんだ。僕たちの組はすごく勇勢だったよ」
 少年の一人の北川君が、とくいらしく答えました。
「ふーん、そりゃよかったね、僕に知らせてくれりゃ、原っぱへ行って、君たちに雪投げのしかたを教えてやるんだったのになあ」
 高橋さんはどこかにまだ子供っぽいところがありましたので、雪投げに加われなかったのが、いかにも残念だという顔をしましたが、ふと何かおもしろいことを思いだしたらしく、目をかがやかしていいました。
「あ、そうだ。君たちに一つ智恵だめしの問題を出してやろう。いいかい、雪投げというものは、ただ力くらべをするだけじゃない。智恵くらべもしなければならないのだ。雪投げをやるのに、どうすれば有利かということが、どんなに大切かということは、君たちもよく知っているだろう。もっと小さいことでいえば、探偵ね、あれがやっぱり力よりは智恵の仕事なんだよ。
 ところで、かりに君たちが探偵として相手の様子をさぐりに行ったとするね。探偵のやり方にはいろいろあるが、もし雪がつもっていれば、その雪の上の足あとというものも、けっして見のがすことのできない、大切な手がかりなんだよ。
 それについてね、僕はふと思いだしたんだが、君たちの智恵をためすのに実にいいものがあるんだ。こちらへ来てごらん」
 高橋さんはそういって、自分の家の板塀のまがり角まで歩いて行き、そこのせまい横町をのぞきこみました。
「ごらん、この横町はめったに人の通らないところだ。だから雪はゆうべつもったまま、少しもとけていない。まるで白い布をしきつめたようだ。ところが、ここにただ一つ、こちらから人の歩いて行った足あとがある。靴じゃない、つまさきのところが二つにわれた足あとだから、足袋(たび)か、指のわれた靴下をはいて、はだしで通ったのにちがいない。ね、わかるだろう。この足あとをふまないようにして、ずーっとあとをつけて行ってごらん。実に不思議なことがおこるんだから」
 四人の少年はいわれるままに、塀ぎわを歩いて、そのせまい横町へ入って行きましたが、十メートルも行ったかと思うと、先に立っていた北川少年が、「おや」とびっくりしたような声を立てました。
 その足袋はだしの足あとが、道の真中でぱったりととだえてしまっていたからです。そこから先には、雪の上にポツポツと小さな穴があいているばかりで、ずっとむこうの大通りまで、人の足あとというものは一つもありませんし、といって、あとへもどった足あともないのです。両がわには高い塀がつづいていて、塀ぎわまですきまなく雪がつもっているのですから、足あとを残さないで、どちらの塀へもたどりつくことはできません。ですから、足あとだけを見ますと、この人は雪の上をそこまで歩いて来て、とつぜん鳥のように空へまい上ってしまったのか、それとも、体がとけて、蒸気のように空中に立ちのぼってしまったとしか考えられないのです。
 少年たちは、不思議さに、思わず顔を見合わせたまま、そこに立ちすくんでしまいました。
「どうだい、君たちはこの足あとの謎がとけるかね。この人は、いったい、ここまで歩いて来て、それからどうしたのだろう。まさかこのせまい横町へ、空から軽気球がおりて来て、その人をのせて行ったとは考えられないからね。どうだい?、[#「どうだい?、」はママ]このわけがわかるかい」
 高橋さんは、どうだ、この謎はむずかしいだろうといわぬばかりに、ニコニコ笑っています。
「へんだなあ」「わけがわからないや」少年たちは口々にそんなことをいって、ただ立ちどまっているばかりでしたが、謎をとくことの大すきな明石一太郎君だけは、熱心にそのへんを歩きまわって、何か手がかりはないかと、しらべはじめました。
「みんなも、ただ驚いているばかりじゃいけない。明石君のようにもっとそのへんをしらべてごらん。謎をとくのには、人の気のつかない、こまかいことを、よく注意して見るということが一番大切なんだよ。そして、その見たことを、すじみちを立てて考えるのだ。算数でも理科でも、そういう風にしてやれば、いつでも正しい答が出てくるのだよ」
 高橋さんに教えられて、三人の少年が歩き出そうとしていた時でした。ずっと先の方へ行っていた明石一太郎君が、ニコニコしながら、かけもどって来ました。
「高橋さんわかりました。これは(けい)ちゃんの足あとです。啓ちゃんは鳥じゃないから、空へまい上ったのではなくて、ちゃんとむこうの大通りまで歩いて行ったのですよ」
 啓ちゃんというのは、近所の酒屋さんの子供ですが、今朝の雪投げには、仲間入りをしなかったのです。
 一太郎君の答を聞きますと、高橋さんが何もいわぬ先に、横から北川君が口出しをしました。
「へえ、歩いて行ったんだって? でも、足あとがないじゃないか」
「足あとはないけれども、歩いて行ったんだよ。君、あすこをごらん。雪の上にポツポツと小さな穴があいているだろう。あれはなんだと思う?」
 それはさしわたし三センチほどの小さな穴が、たびはだしの足あとがとだえているへんから、七十センチぐらいの間をおいて、ポツポツとむこうの大通りまでつづいているのです。
「雪の上に石を投げた穴みたいだね。それとも、棒の先でつついたのかしら」
 木村君という少年が、小首をかしげていいました。
「アハハハ……、棒でつついたんだって? じゃ誰がその棒を持っていたんだい。その人の足あとがないじゃないか」
 北川君が、こういって木村君の考えをうちけしました。すると今度は、一太郎少年が、妙なことをいい出しました。
「北川君、君の方がまちがっているよ。あれは、やっぱり棒でつついた穴なんだよ」
「えっ、なんだって? それじゃ君は、棒がひとりで動きまわったっていうのかい」
 北川少年はあっけにとられて聞き返しました。
「そうじゃないよ。人が動かしたんだよ。君は、それじゃその人の足あとがつくはずだっていうのだろう。ところが、足あとをつけないで棒を動かすやり方が、たった一つあるんだよ。よく考えてごらん。なんでもないことなんだよ」
 一太郎君はいよいよへんなことをいいます。
「へえ、そんなことができるのかい。わからないなあ」
 北川君も、木村君も、もう一人の少年も、なにがなんだか、わけがわからないという顔つきです。
「君たちわからないの? それじゃ、僕、啓ちゃんをここへつれて来るよ。そうすれば、一ぺんにわかってしまうんだから。ね、高橋さんいいでしょう」
 大学生の高橋さんは、少年たちの問答を、ニコニコしながら聞いていましたが、一太郎君に声をかけられて、大きくうなずいて見せました。
 一太郎君はいきなりかけ出して行きましたが、しばらくしますと、むこうの大通りから、一太郎君のニコニコ顔があらわれ、そのうしろに、高い竹馬にのった酒屋の啓ちゃんが、ヒョイヒョイと両方の竹馬の先をあげて、やってくるのが見えました。
「なーんだ、竹馬だったのか」
 三人の少年は頭をかきながら、口をそろえてつぶやきました。この近所には、あまり竹馬にのるものがなく、お友だちの中では、啓ちゃんがただひとり竹馬を持っていることを、つい忘れていたのです。
 あとで啓ちゃんが話したところによりますと、啓ちゃんは今朝、みんなが雪投げをやっているころは、一人で竹馬にのって、そのへんの町を歩きまわったのですが、ちょうどこの横町の入口のところで、足袋のこはぜがはずれて、ぬげそうになったものですから、一度竹馬をおりて、それをなおして、そのまま十メートルほど竹馬をかかえて歩いてから、また乗って行ったのです。大通りの方はたくさんの人の足あとで、雪がふみけされていたので、そのあとは残りませんでしたが、横町は誰も通っていなかったので、啓ちゃんが、たびをなおしてから歩いた足あとが、はっきり残ったわけです。
 でも、もし啓ちゃんが、竹馬が下手でしたら、たぶん塀ぎわまで行って、塀にもたれて竹馬にのったでしょうから、雪の上にそのあとがついて、謎はもっと早くとけたのでしょう。ところが、雪投げよりは竹馬の方が好きなほどの啓ちゃんですから、なかなかの名人で、道の真中でも平気で、ヒョイヒョイと竹馬に足をのせて、そのまま歩いて行くことができたものですから、足あとの謎をとくのが、あんなにむずかしくなったわけでした。
 そこで、大学生の高橋さんは、一太郎君の考え深いのを、たいそうほめましたが、そのあとで、ほかの三人の少年たちに、こんなことをいいました。
「君たちは、なーんだそんなことかというけれど、そのなんでもないことが、君たちにはわからなかったじゃないか。足あとのかわりに、まるい小さな穴がならんでいるのは『なぜ』ということを、よく考えてみれば、竹馬という答のほかはないはずだよ。それを考えつくのが智恵というものだ。それに気がつかなかった君たちは、謎をとくことでは、やっぱり智恵の一太郎君にはかなわないわけだね」
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