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兎とカタツムリ

时间: 2022-08-09    进入日语论坛
核心提示:兎(うさぎ)とカタツムリ ごうーと地ひびきをたてて、二人の目の前を、急行列車が通りすぎました。 二人はたんぼの中の、細い道
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(うさぎ)とカタツムリ


 ごうーと地ひびきをたてて、二人の目の前を、急行列車が通りすぎました。
 二人はたんぼの中の、細い道に立って、それを見送っていました。空は青々とはれわたった、ある秋の日曜日のことです。
「ねえ、伯父さん、ずいぶん早いですね。もうあんなに小さくなってしまった」
 学生服を着た少年が、遠ざかって行く汽車を見おくりながら、話しかけました。この少年はおなじみの一太郎君です。話しかけられたおじさんは、いつも一太郎君におもしろい理科の話をして下さる、あの農学博士の伯父さんです。一太郎君は久しぶりに田舎の伯父さんのお家をたずねて、二人で近所に出かけた途中なのです。
「うん、ずいぶん早いね。汽車にくらべると、僕たちがこうして歩いているのは、兎と亀どころじゃない、兎とカタツムリほどのちがいがあるね」
 伯父さんはそう答えて、線路にそったたんぼ道を歩きだしましたが、しばらくすると、ふと何か思いついたように、一太郎君の方をふりむいて、こんなことをいうのでした。
「汽車はずいぶん早いが、その汽車よりも早いものが、まだいろいろあるね」
「ええ、あります。自動車、飛行機、ロケット、それから……」
「それから?」
「あ、そうだ。それから、大砲のたまです」
「うん、大砲のたまは、飛行機よりも早いね。それから?」
「えーと、それから……」
 一太郎君は、そこで行きつまってしまいました。その外に汽車より早いものなんて、ちょっと思い出せなかったのです。
「思い出せないかい。形のないもので、もっと早いものがあるはずなんだがねえ」
「あ、そうか。風でしょう。暴風は汽車より早いんでしょう」
「うん、暴風も早いだろうね。だが、まだほかにあるよ。風は木の葉を吹き飛ばしたりするので、目に見えるといえば見えるが、もっと全く見えないものがあるんだ」
 一太郎君は、しばらくだまりこんで、あるいていましたが、いくら考えてもわかりません。
「そんなものがあるんですか。へんだなあ。僕、どうしても思い出せないんです」
「そうか。それじゃ教えてあげよう。それはね、音なんだよ」
「え、音ですって?」
「うん、耳にきこえるいろいろな物音だよ。こうして話してる僕の声も、やっぱり音の一つだね」
「あ、そうか。音は空気を伝わって、耳の鼓膜にひびくのですね。その空気を伝わる早さが、汽車よりも早いのですね」
「そうだよ。思い出したかい。音の早さがどのくらいか、先生に教わったことがあるんだろう」
「え、教わったんです。でも、僕、忘れちゃった」
「音の早さは、一秒間に三百四十メートル。もっとも、これは空気の温度が摂氏十五度の時の早さで、それよりも熱くなれば、音の伝わり方はもっと早くなり、寒くなれば、おそくなるんだよ。だから、冬よりも夏の方が、音は早くきこえるというわけだね。早いとかおそいとか言っても、耳では感じられないくらいのちがいだがね」
「へえ、温度でちがうんですか」
「うん、温度ばかりじゃない。音は伝わるものによって、みんな早さがちがうのだよ。音は気体でも液体でも固体でも伝わる。気体というのは空気のようなものだね。液体というのは水のような流れるもの、固体というのは、木とか金とか、そのほかしっかりした形のあるものだね。
 そこで、今思いついたんだが、一つ音の伝わる早さの実験をやってみようか」
「え、実験ですって? お家へ帰ってですか」
「いや、ここでやるんだよ」
「だって、ここには何も道具がないじゃありませんか」
「ないことはない。ほら、そこに立派な道具があるじゃないか」
 伯父さんはそういって、横の土手の上を指さしました。しかし、一太郎君にはまだわかりません。へんな顔をして、きょろきょろそのへんを見まわしています。
「ははは……わからないかい。ほら、それだよ。むこうがわの土手の上のレールだよ」
「へえ、レールが実験の道具なんですか」
 一太郎君はびっくりしてしまいました。そこには線路の土手が二重にならんでいて、むこうがわの線路は、新しくできた郊外電車のレールなのですが、まだ工事がすんだばかりで、電車は通っていないのです。
「そうだよ、こんなうまい道具は、どこの実験室へ行ったってありゃしない。むこうがわの赤さびのレールが、僕たちの実験の道具になるんだ。
 君に注意しておくがね、この実験は、ああいう汽車も電車も通っていないレールだからできるので、こちらがわのような、ふつうのレールでは、けっしてやってはいけないのだよ。第一土手へのぼることも禁じられているし、もし実験中に汽車が来るようなことがあったら、命にもかかわることなんだからね。実験がおもしろいからといって、ふつうの線路などで、こんなまねをするんじゃないよ。いいかい。わかったね」
 二人は話しながら、汽車の線路の方の踏切を通りすぎ、まだ電車の通っていない線路の土手にのぼりました。しかれたばかりの赤さびのレールが、ずーっと目もはるかにつづいています。
「さあ、君はここにしゃがんで待っているんだよ。僕は四十メートルほどむこうへ行って、そこでこのレールを、石でたたくからね、よーしといったら、君はこのレールへ一方の耳をつけて、その音を聞くんだよ。
 近くではだめなんだ。四十メートルぐらいはなれていないと、この実験はできないのだよ。いいかい、じゃあ行くよ。むこうから、よーしといったら、レールへ耳をつけるんだよ」
 一太郎君がレールのそばに、しゃがんでいますと、伯父さんは土手の上を四十メートルほどむこうまで走って行って、立ちどまり、そのへんの小石をひろったかと思うと、その手を高く上げてあいずをしながら、「よーし」と大声にさけびました。
 一太郎君はその声を聞くやいなや、土手の上に横になって、顔は伯父さんの方をむけたまま、一方の耳を赤さびのレールの上に、ぴったりとくっつけました。
 伯父さんは、もう一度「いいかい」とさけんでおいて、右手に持った小石で、力をこめてレールをたたきました。
 すると、一太郎君の耳にその音が「ガーン」とひびいて来ましたが、ふしぎなことには、すぐそれにつづいて、少し小さい音で、またカーンときこえたのです。伯父さんは、たしかに一度しかレールをたたかなかったのに、音は二つきこえたのです。
「もう一度やってみるよ。いいかい」
 伯父さんはそうさけびながら、手であいずをしておいて、またレールをたたきました。すると一太郎君の耳には、やっぱり「カーン、カーン」と大小二つの音が重なりあうようにしてきこえて来ました。
「どうだい。音が二つになってきこえただろう」
 大急ぎで一太郎君のそばへかけもどって来た伯父さんは、息をきらしながらたずねるのでした。
「ええ、大きい音と小さい音と、重なりあうようにしてきこえました。でも、伯父さんは、一度ずつしかたたかなかったんですねえ」
「うん、そうだよ。たたいたのは一度ずつだが、音は二度ずつきこえたんだよ。さあ、考えてごらん。これはいったいどういうわけだろうね」
 一太郎君は、こういうふしぎな謎をとくことが、何よりも好きでした。うれしいような恐しいような気持がして、顔が赤くなり、胸がどきどきしてくるのです。
「さっき、ちょっと話しかけたことだから、ようく考えてみればわかるのだよ」
 伯父さんが力づけて下さる声をききながら、一太郎君は一生けんめいに考えました。すると、やがて、心の底からある考がすーっとうき上って来たではありませんか。
「わかりました。空気と鉄とでは、音の伝わる早さがちがうからです。はじめのカーンという音は、つけている耳に強くひびきましたから、あれはレールの鉄を伝わって来た音です。それからあとの小さい音は、空気を伝わって来た音です。だから、音が鉄を伝わる早さと、空気を伝わる早さとくらべると、鉄の方が早いのですね。ね、伯父さん、そうなんでしょう」
 一太郎君は問題のとけたうれしさに、思わず早口になって、力をこめて答えるのでした。
「えらい。さすがは智恵の一太郎だ。よく答えた。その通りだよ。音が空気を伝わる早さは、さっきも言った通り一秒間に三百四十メートルだが、水の中を伝わる早さは、その約五倍、鉄を伝わる早さは約十五倍というふうに、伝わる物によって、早さがたいへんちがうのだよ。
 さあ、そこで一つ計算をしてみよう。今君が耳をつけていたところと、僕が石でたたいた所とのへだたりは、およそ四十メートルだから、たたいてから音がきこえるまでの時間は、空気をつたわる音の方は四十メートルを三百四十メートルで割れば、大たいその答が出るわけだね。さあ計算してごらん」
 一太郎君は小石で土の上に数字を書いて計算しました。
「八分の一秒ほどです」
「その通り、空気を伝わる音の方は、僕がたたいてから、わずか一秒の八分の一ほどの時間で君の耳にとどいた。だが、鉄をつたわる音の方はこれより十五倍も早かったのだよ。およそ一秒に五千メートル走るんだ。だから鉄の方は四十メートルを五千メートルで割れば答が出る。さあ、やってごらん」
「わかりました。〇・〇〇八秒です。分数にすれば百二十五分の一秒です」
「その通り、一秒の八分の一と、一秒の百二十五分の一とだから、たいへんなちがいだね。いくら短い時間でも、そのくらいちがうと、耳にも別々になってきこえるのだよ」
「音って早いんですねえ。じゃ、伯父さん、この世の中に、音より早いものはないのですか」
 一太郎君がたずねますと、伯父さんはそれを待っていたといわぬばかりに、ニコニコして答えました。
「ところが、そうではないのだよ。上には上があるのだ。今では大砲のたまの早さは、音が空気を伝わる早さよりも、少し早くなっているし、飛行機もそれにまけないようにさかんに研究がつづけられているが、大砲でも飛行機でも、鉄を伝わる音の早さには、とてもおいつけるものじゃない。それじゃ鉄をつたわる音の早さが、世の中で一番早いものかというと、けっしてそうではない。鉄をつたわる音の早さは、今もいう通り一秒間におよそ五千メートルだが、それよりも六万倍も早いものがあるんだよ」
「え、六万倍ですって?」
 一太郎君は、あっけにとられてしまいました。
「はは……びっくりしているね。だが、その証拠はすぐ目の前にある。ほら、あすこをごらん。二百メートルほどむこうで鉄道工夫が大きな(つち)で杭を打ちこんでいるだろう。ほら、今槌が杭の頭をたたいた。聞いてごらん。ね、しばらくしてから音がきこえた。一秒ほどでもないが、一秒の半分ぐらいは、音の方がおくれて来るじゃないか」
「ええ、それは前から知っています。いなづまが光ってから、雷がなるまでに、五、六秒もかかることがありますね。あれと同じわけでしょう」
「うん、その通り。光はおよそ一秒間に三十万キロメートルの早さで飛んでいるのだよ。だから、あの槌が杭をうつのが、目に入るまでには、あすこまで二百メートルぐらいへだたっているとして、百万分の一秒もかからない。ところが音の方は半秒ほどかかるのだからね。それから雷だが、これは何キロという遠くで鳴るのだから光と音とのひらきが大きくなって、時によると、光が見えてから十秒もおくれて音がきこえて来ることもある。それから、光と同じ早さのものに電波がある。光と電波とは、世界一に早い、まあ早さの両横綱とでもいっていいだろう。
 汽車の早さと僕たちの歩く早さとでは、兎とカタツムリほどちがうといったが、音はその汽車よりもズッと早く、光はまたその音よりも何万倍も早いのだ。だから、世界一早い大砲のたまでも、世界一早い飛行機でも、それからロケットでも、光や電波にくらべると、カタツムリよりも、もっともっとのろいわけだね」
 伯父さんのお話がおわった時、一太郎君はだまりこんでいました。そして、はてしも知れぬ秋の青空を見つめていますと、何ともいえぬふしぎな、科学のなつかしさというような気持が、からだ中にみちあふれて来るのが感じられるのでした。
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