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魔法眼鏡

时间: 2022-08-09    进入日语论坛
核心提示:魔法眼鏡 あしたは秋季皇霊祭という、九月二十三日の夜、一太郎君はお父さまのお許しを受けて、近所の大学生の高橋さんのお家へ
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魔法眼鏡

 あしたは秋季皇霊祭という、九月二十三日の夜、一太郎君はお父さまのお許しを受けて、近所の大学生の高橋さんのお家へ遊びに行きました。
 一太郎君は高橋さんがだんだんすきになって来ました。いろいろな科学のお話をしてくれるからです。しかもそのお話は、さすがの一太郎君も、少しも考えていなかったような、なんだかびっくりするような珍らしいことばかりだからです。この頃では、毎日一度は高橋さんの顔を見ないでは、気がすまないほどになっていました。
 二十三日は、満月の前夜でしたから、よく晴れた空に、ほとんどまんまるな月が、美しく光っていました。高橋さんと一太郎君は、広いお庭に面した縁側に腰かけて、空の月をながめながら、月というものについて、いろいろなお話をしました。
 月は自分で光るのでなく、太陽の光にてらされて光っているということ、地球は太陽のまわりを、一年かかって一廻りするが、月は地球のまわりを一箇月たらずで、一廻りするということ、月の世界には空気がないから、動物などはすんでいないだろうということ、しかし、人間は、いつか一度月世界へ旅行してみたいというのぞみを持っていて、昔からたくさんの人が、どうすれば月の世界へ行けるかということを考えた話、近頃ではロケットというものが発明され、ゆくゆくはそのロケットに乗って、月世界へ飛んで行けるようになるだろうと考えている人もあること、広い広い天の世界の話を聞いていると、一太郎君はなんとも言えない、ふしぎな気持になって来るのでした。
「一太郎君、君は月の大きさを知っているかい」
 高橋さんは、しばらくだまっていたあとで、ふと気がついたようにたずねました。
「いつか先生に教わったけれど、忘れちゃった。地球よりはずっと小さいのですね」
 一太郎君は、空に銀色にかがやいている月を見ながら、答えました。
「うん、むろん地球より小さいけれど、それでも、直径三千四百何十(キロメートル)という、でっかいものだよ。ところでね、一太郎君、一つおもしろい実験をやってみようか」
 高橋さんは、何だか妙な笑顔をして言うのです。そういう笑い方をする時には、いつでも、一太郎君をびっくりさせるような、めずらしい話がはじまるのでした。一太郎君はそれを知っているものですから、今夜はどんな話が飛び出してくることかと、まちかまえるように高橋さんの顔を見つめました。
「ほんとうはそんなでっかいものだけれど、非常に遠くにあるので、こんなに小さく見えるんだね。で、こうして月を見ていてね、君は、あれを、どのくらいの大きさに感じるね。お盆ぐらいか、洋食皿ぐらいか、それとも御飯をたべるお茶碗ぐらいか」
「お盆なんて大きくはないや。洋食皿よりも小さいや。僕、洋食皿とお茶碗の間ぐらいだと思いますよ」
「うん、そうだね。僕にもそのくらいに見えるよ。ある学者が大勢の人に、今のような問を出して、答を集めてみたところが、一等多い答は、さしわたし十四(センチ)ぐらいというのだったそうだ。だから、まあ洋食皿とお茶碗の間の大きさなんだね。さあ、それじゃ一つ、おもしろい実験をしてみよう」
 高橋さんはそう言って、立ち上ったかと思うと、書斎へかけこんで、一枚の大きな画用紙を持ち出して来ました。そして、それをくるくるとまいて、長さ五十糎、直径三糎ほどの細長い筒をこしらえました。
「さあ、これをどちらかの目にあてて、望遠鏡を見るようにして、あの月を見てごらん」
 そこで、一太郎君は、手わたされた紙筒を目にあてて、空の月をぐっと見ていましたが、しばらくすると、紙筒を目からはなして、ふしぎそうなようすで、だまりこんでいます。
「はははは……、なんだか変な顔をしているね。どうだい。やっぱり茶碗よりも大きく見えたかい」
 高橋さんは、からかうように言うのです。
「妙ですね。この筒で見ると、一ぺんに月が小さくなっちゃうんですよ」
「どのくらい小さくなったの、五十銭銀貨ぐらいかい」
「え、そのくらいです」
「まちがいないね。ほんとうに五十銭玉ぐらいに見えるんだね」
「え、まちがいありません」
「ようし、それじゃもう一度びっくりさせてあげるよ。さあ、それを貸してごらん」
 高橋さんはそう言って、紙筒を受取ると、目にあてる方はそのままにしておいて、先の方だけを小さくまきこんで、半分ぐらいの太さ、つまり直径一糎半ほどにしました。根もとが太くて先の細い筒ができたわけです。
「これでのぞいてごらん。こんどはまた、月の大きさがちがって見えるはずだよ」
 一太郎君は、言われるままに、その筒の太い方を目にあてて、月をのぞきましたが、のぞいたかと思うと、いきなりとんきょうな声を立てました。
「あれっ、へんですね、また月が小さくなっちゃった。五銭玉ぐらいですよ」
「ふしぎだろう。それじゃね、今度は自分で、紙筒の先の方をだんだん細くまきこんでごらん。そして、月がちょうどその穴と同じになるまで、月で穴が一ぱいになるまで、細くしていってごらん」
 一太郎君は両手で紙筒を持って、ぎゅうぎゅうとしめつけながら、先の方だけを細くしていきました。すると、奇妙なことに、先の穴が小さくなるにつれて、月の方もだんだん小さくなるような気がするのです。そして、筒の先の穴と月の大きさとが、ぴったり同じになった時、紙筒を目からはなして、その先の穴をしらべてみますと、なんと驚いたことには、それは直径三(ミリ)あるかなしかの、米つぶほどの小さなものになっていました。
「はははは、驚いたかい。洋食皿と茶碗の間ぐらいだった月が、五十銭玉になり、五銭玉になって、おしまいには米つぶほどに小さくなってしまった。この画用紙の筒は魔法の眼鏡だね」
「へんだなあ。画用紙に何か仕掛があるのですか」
「いいや、仕掛なんかありゃしないよ。これは手品じゃないんだよ。画用紙の筒なんかなくったって、ちゃんと同じ実験ができるんだからね。一つやってごらん。君の右の手を目から五十糎ほどはなして、親指と人差指で、月の大きさをはかってごらん。そうすると、月がどんなに小さいかということがわかるから。
 腕を一ぱいにのばしては、五十糎より遠くなるから、肘をまげて、ちょうど五十糎ぐらいのところで、やってみるんだ。この紙筒の長さが、やっぱりそのくらいなんだからね」
 一太郎君は言われるままに、目の前に手をのばして、人差指と親指の間をせばめて、月の大きさをはかってみましたが、すると、二つの指の間が、やはり三粍ほどになるのでした。
「こんどは腕をぐっとのばして、はかってごらん」
 すると、指の間は五六粍になって、月の大きさが豌豆(えんどう)ほどに大きくなりました。
「どうだね、ちょっと驚くだろう。こんど、君の友だちにためしてみるといい。腕を一ぱいにのばして、指で月の大きさをはかったら、月はどのくらいに見えるだろうって、たずねてみるんだね。実際にやってみれば、すぐわかるから、やってみない先に、答えさせるんだよ。たいていの子供は、五十銭玉ぐらいだろうとか、腕時計ぐらいだろうとか答えるよ。そういうのはまだいい方なんだ。ひょっとすると、茶碗ぐらいの大きさに見えるなんていう答もとび出してくるよ。たいへんなちがいだ。ほんとうは豌豆つぶぐらいなんだからね。君の友だちにはこれを言いあてる者はまずいないね。大人だって、うまく答えられる人は少いんだからね。
 さあ、これで実験はすんだ。こんどは僕の方でたずねる番だよ。いったい、これはどういうわけだろうね。月の見かけの大きさと、筒でのぞいた時と、どうしてこんなにちがうんだろうね。一つ考えてごらん」
 一太郎君は、ぱっと顔を赤くしました。恥ずかしくてではありません。うれしくてです。みなさんも御承知のように、一太郎君は、物のわけを考えることが何よりもすきだったからです。
 そこで、手をのばしたり、ちぢめたりして、月の大きさをはかりながら、一生けんめいに考えました。そして、五分ほどたちますと、何かいい考がうかんだとみえて、生き生きした顔色になって、さけぶように言うのでした。
「わかった。わかりました。なんでもないことなんです。目から遠いものは小さく見え、近いものは大きく見えるということです。あすこにたんすがあるでしょう」
 一太郎君は、そう言って、お部屋の中のたんすを指さしました。
「あのたんすは僕の手の平よりも、何百倍も大きいでしょう。それでも、手の平を僕の目の近くへやると、あのたんすがかくれてしまうんです。手の平は、目に近いから、たんすより大きく見えるのです。手をもっと目のそばへやれば、たんすは指の先にだってかくれてしまいます。でも、あのたんすをここから見て、手の平ぐらいの大きさだなんて、誰も思わないでしょう。やっぱりたんすぐらいの大きさだと思っているでしょう。
 月だってそれと同じです。ただ、月はあんまり大きくって、あんまり遠いから、たんすのようにほんとうの大きさがわからないわけです」
「うまい。じつにうまい答え方だ。さすが智恵の一太郎君だ。大人だって、それほどには答えられないかも知れん。
 五十糎の筒の先のところではかれば、月ははじめから米つぶぐらいなんだ。しかし、まさかそんなに小さいとは思わないものだから、筒の直径の広い間は、五十銭玉ぐらいに見えたり、五銭玉ぐらいに見えたりするんだよ。
 考えてみれば、ほんとうになんでもないことだ。しかし、この紙筒をのぞかされた時には、君はびっくりしただろう。びっくりしなくてはいけないのだ。学者や発明家などの大きな仕事も、やっぱりそういう所から出発するんだよ。まず驚くことが大切なんだ。ふつうの人は見のがしてしまうような、ちょっとしたことを、よく注意して、びっくりしなくちゃいけない。それから考えるんだ。どうしてこんなふしぎなことがおこるんだろうとよく考えるんだ。それがほんとうの学問というものだよ。
 君は今夜はみごとに及第(きゅうだい)だ。しかし、月の話はまだあるんだよ。今夜のよりは、もっとふしぎな実験が、まだ残っているんだよ。明日でもいい、明後日でもいい、二三日のうちに、よく空の晴れた夕方、ちょうど日のくれる時分、五時半ごろだね、またやって来たまえ。きっと君が喜ぶような、おもしろい話をきかせて上げるよ」
 高橋さんは、半面を月の光に、半面を部屋の電燈の光にてらされて、にこやかに笑っていました。
 一太郎君は、そのなつかしい笑顔を見て、こちらもにっこりと笑いました。高橋さんと一太郎君とは、年こそちがえ、物の考え方がそっくりなんです。おたがいに顔つきを見ただけで、相手が何を考えているかわかるほどです。一太郎君は、それがうれしくてたまりません。
「じゃ、また、あした」
 快活な少年は、人なつっこいあいさつを残して、庭づたいに、門の方へかけだして行くのでした。
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