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智恵の火

时间: 2022-08-09    进入日语论坛
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 智恵の火


「お父さん、何かおもしろい謎の題を出して下さいよ。今日は、うんとむずかしいのをね」
「そうら、また一太郎のいつものおねだりがはじまったね、よしよし、それじゃあ今夜は、お父さんも頭をしぼって、うんとむずかしい問題を出してやるぞ」
 赤々と炭火のもえた火鉢(ひばち)をかこんで、明石一太郎君のおうちの人たちが、晩ごはんのあとの、うちくつろいだ一ときをすごしていました。白髭(しらひげ)を胸にたれて、いつもニコニコしていらっしゃる、一太郎君のお祖父(じい)さん、頭を坊主がりにして、口髭のりっぱなお父さん、そのとなりにはお母さんと、それからお母さんのお膝にもたれて、じっとみんなのお話をきいている、まだ幼稚園生の妹の妙子(たえこ)ちゃん。お父さんの正面には一太郎君が、お父さんの真黒な口髭の下から、今にどんなむずかしい謎がとび出してくるかと、目をみはって待ちかまえています。
 それは真冬の二月はじめのことで、庭のお池にはりつめた氷が、昼間もとけないで、一日一日と厚みをまして行くような、寒い寒いころでしたが、部屋の中は、大ぜいがあつまっているのと、火鉢のおかげで、心持よいあたたかさです。
「ウン、それじゃあ、こういう謎がとけるかね」
 しばらく考えておいでになったお父さんが、ニッコリしておはじめになりました。
「いいかい。ここにお(わん)に半分ばかりの水があるとするね。その水でもって、どうすれば火をもやすことができるかというのだ。水から火をつくる法とでもいうかね。井戸の水でもいい。水道の水でもいい。だが、薬をつかってはいけないのだよ。お前も理科でならっただろうが、薬品をまぜあわせて火をもやすやり方はいろいろある。
 しかしお父さんのは、そういうことではなくて、ただの水をつかって、火をもやしてごらんというのだよ。わかったかい。どうだ、むずかしいだろう」
 お父さんはそういってお笑いになりましたが、なるほどむずかしい問題です。水というものは、火を消す力はもっていますけれど、火をもやす力なんて、まるでもっていないようにみえます。水と火とは、まったくあべこべのものです。そのあべこべの水でもって、火をつくれという難題ですから、さすがの智恵の一太郎君もびっくりしてしまいました。
「お父さん、それ頓智(とんち)の問題じゃないのですか。ほんとうに火がもえなくても、ただ口さきの頓智でうまく答えればいいのじゃないのですか」
「いや、そんな頓智の問題じゃない。ほんとうに火がもえなくてはいけないのだよ。だから、この問題は謎というよりは、理科の智恵だめしといった方が正しいのだ」
「だって、お父さん、そんなこと、ほんとうにできるのですか」
「できるとも。お父さんができない問題なんか出すはずがないじゃないか。すじみちを立てて、よく考えてみるんだ。そうすれば、なあんだ、そんなことかと、びっくりするくらいやさしい問題なんだよ。ではね、少しばかり、考え方の手びきをしてあげよう。いいかい、こういう問題にぶっつかった時にはね、世の中に火をもやすやり方が幾つあるか、一つ一つ思い出してみるんだよ。さあ、お前の知っているだけ、それをいってごらん」
「ええ、じゃあ言いますよ。マッチ、ライター、ええと、それから火打石(ひうちいし)――」
「ああ、火打石をよく知っていたね。明治以前にはマッチというものがなくて、みな火打石を使っていたのだ。石と鉄と打ちあわせてね、その火花を、お(きゅう)のもぐさのようなものにもえうつらせて、火をつくっていたのだよ。この火打石というものは、日本でも西洋でも、ずっと大昔から使われていたのだが、それよりもっと昔、歴史の本にものっていないころの人間は、どうして火をつくっていたか、お前知っているかね」
「ええ、いつか先生からききました。かたい木をきりのようにけずって、そのとがった先を別の板にあてがって、きりをもむように、もむんでしょう。そうして長いあいだもんでいると、すれあっているところが、だんだん熱くなって、おしまいには火がもえ出すんですって。今でも野蛮人の中には、そうして火をつくっているものがあるんですってね」
「そうだ。なかなかよく覚えていたね。大昔から今までに、私たち人間が火をつくる道具に使ったのは、まあ、そんなものだが、その外にもまだ、いろいろのやり方がある。お前も知っているだろう」
「ええ、知っています。老眼鏡の玉を太陽の光にあてて、もえやすい物に焦点を作れば、火がとれるんです。僕、いくどもやってみたことがあります」
「そうだね。それからまだあるよ。電気の火花はお前もよく知っているね。それに電熱器もそうだし、大砲や魚雷のように、火薬を爆発させても、火をふき出す。その外にもまだいろいろ火をつくるやり方があるが、お父さんの問題はそんなにむずかしく考えなくてもいいのだ。誰にでもわかるやさしいことなんだよ。
 水で火をもやすというと、なんだかとっぴに思われるけれど、実をいうと、さっきからお前が答えた中に、それと同じやり方があるんだ。今までかぞえ上げた火のつくり方を、一つ一つ思い出して、よく考えてごらん。そうすれば、あああれかと気がつくはずだ。びっくりするほどやさしいことなんだよ」
 お父さんが「やさしいやさしい」とおっしゃるので、一太郎君は、そんなやさしい問題がとけなくては、くやしいので、いっしょうけんめいに考えましたが、今にもわかりそうでいて、なかなかわからないのです。「これですよ、これですよ」といって、その謎の正体が、目の前でおどっているような気がするのですが、それがどうしても、はっきりとつかめないのです。
「ハハハ……、すっかり考えこんでしまったね。じゃあこれは明日(あす)までの宿題としておこう。明日は日曜でお父さんも家にいるから、お前が明日になっても考え出せなかったら種あかしをしてあげるよ。まあ、もう少し考えてみるんだね」
 お父さんはそういって、火鉢の前から立上られましたが、ふと気がついたように、一太郎君を見て、こんなことをおっしゃるのでした。
「もう一つだけ言っておくことがある。それはね、水で火をもやすのは、今ごろのようなごく寒い時でないと出来ないということだよ。これが謎をとく一つの手がかりなんだ。どうだ、まだ気がつかないかね。お椀に水を半分ばかり、いや三分の一ぐらいの方がいいかもしれない。ハハハ……、まあ、ゆっくり考えてごらん」
 お父さんが、書斎へ行っておしまいになったものですから、一太郎君はお祖父さんやお母さんと、少しお話をしたあとで、自分も勉強部屋にこもって、この難題をいっしょうけんめいに考えました。そして、その晩眠る前に、なんだかニコニコしながら、お母さんにお椀を一つ借りて、自分の部屋へ持ってはいりました。一太郎君はうまく謎をといたのでしょうか。お椀で何をしようというのでしょう。
 みなさんはもうおわかりですか。一太郎君が知っていただけのことは、みなさんもすっかりごぞんじなのですよ。もしまだわからなければここで本をおいて、一つ考えてみて下さい。
 さて、お話は飛んで、そのあくる朝のことです。寒さはきびしいけれど、よく晴れた日曜日でした。朝ごはんの時、お父さんがゆうべの謎はとけたかとおたずねになりますと、一太郎君はニコニコ笑って、「ええ、今に水で火をもやして見せます」と、さも自信ありげに答えましたが、やがて、ごはんがすんでしばらくしますと、庭の方で、何だかパチパチとたき火でもしているような音がきこえはじめました。
 それに気づいて、お父さんとお祖父さんとが、縁側に出てごらんになりますと、一太郎君が庭の真中に落葉をあつめて、たき火をしていることがわかりました。
「一太郎、えらいぞ。うまく謎をといたね」
「ええ、これで火をもやしつけたんですよ」
 一太郎君が大声に答えて、右手でつまんでさし出したものを見ますと、それは、さしわたし八センチほどの、大きな眼鏡の玉の形をした氷のかたまりでした。
「僕、ゆうべあれからいっしょうけんめいに考えていると、すっかり謎がとけちゃったんです。水で火をつくるのには、水を凸レンズの形にこおらせて、それで太陽の火をとればいいんだということがわかったのです。
 ゆうべお父さんがお椀に三分の一の水っておっしゃったでしょう。だからハハアンと思ったのです。お椀の底は丸いから、その中で水がこおれば、凸レンズの形になるんですもの。
 それで、ゆうべ、寝る前に、お椀に水を入れて、窓の外へ出しておいたんです。けさ戸をあけてみると、お椀の水は底まで全部こおっていました。でも、それをお椀からとりはずすのがむずかしかったけれど、考えているうちに、お椀をあたためればいいということがわかったのです。それで洗面器にお湯を入れて、その中へお椀をつけてみたら、わけなく氷のかたまりがとれたんです。
 それからお祖父さんのお灸のもぐさを少しいただいて、氷の凸レンズに太陽の光をあてて、火をつけたんです。それからね、新聞紙のきれっぱしを、火のついたもぐさにつけて、フーフーと口でふいていると、パッと火がもえて来たんです。それをもとにして、こんな大きなたき火が出来たんですよ」
 一太郎君は、みごとに水から火をつくりました。そして、それを実に順序正しく説明したのです。それを聞いて、お祖父さんもお父さんも、すっかり感心なさいました。
「フーム、さすがは智恵の一太郎じゃ。白状すると、わしもゆうべ、あれから、父さんの難題をいろいろ考えてみたのじゃが、どうしてもわからなかったのだよ。ハハハ……」
 お祖父さんは、胸にたれた真白なお髭をふるわせてお笑いになり、一太郎君の大てがらを、くりかえしおほめになるのでした。
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